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48.食中毒がわかる話. 7−7−97

「46.世界最強の細菌」に書いてある毒素の項目も参考にして下さい。



その1.食中毒の種類:

  一般的に中毒とは、飲食物を摂取することによって起こる病気をいいます。中毒は原因により、細菌、ウイルスや藻等の微生物によもの、フグ、キノコ等の自然毒によるもの及びヒ素、鉛やエタノール等の毒物によるものなどに分けられます。 微生物学では一般論とは一寸ちがって、食中毒は次のように定義します:食中毒とは、細菌やウイルスに汚染された飲食物を口からとって起こる主に急性の胃腸炎やその他の症状を表わす病気をいいます。 これまで食中毒と言うと、細菌による食中毒を指していました。近ごろはウイルスによる食中毒も多くなってきました。細菌性食中毒は、感染型の食中毒と毒素型の食中毒にわけられます。そのおおよその違いと特徴を簡単に説明します。

その2.食中毒の主な原因菌:

  にわかに昨年から病原性大腸菌O−157の食中毒が話題になりましたが、日本国内で発生する食中毒の約半数は、腸炎ビブリオと呼ばれる海に広く分布している細菌によります。欧米では腸炎ビブリオによる食中毒は、日本人の食事との違いからあまり多くありません。国により食中毒の原因菌が違うなんて面白いですね。

  夏になると海水性魚介の体内で腸炎ビブリオは増殖し、その魚介を生で食べることによって感染し、食中毒になります。ボツリヌス菌で汚染したカラシレンコンを食べて起こった食中毒なども、記憶にある方もいらっしゃると思います。ボツリヌス菌は、広く土壌に分布していますから、レンコンに限らず土に触れた魚でもボツリヌス菌による食中毒は起こります。イズシがその代表でしよう。一昔まえはカンズメでもボツリヌス菌による食中毒がみられたこともありました。下の表に代表的な食中毒の原因菌をリストしました。表には記載されてないその他の菌も多数あります。

	
	代表的な食中毒の原因菌
	
	細菌の名前    分布
	腸炎ビブリオ   海水
	黄色ブドウ球菌  化膿巣など
	サルモネラ    動物、鶏卵
	病原大腸菌    動物
	セレウス菌    土壌
	ウェルシ菌    土壌
	ボツリヌス菌   土壌

その3.感染型の食中毒:

  食物とともに病原菌を食べて、胃や腸で急激に増殖して病状を表わすもので、サルモネラ菌(腸炎菌、ネズミチフス菌やブタコレラ菌などが代表)、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、プロテウス菌、腸球菌、セレウス菌などが、感染型食中毒の代表的原因菌です。

  病原菌が腸管にはいって増殖するまでに8時間から24時間ぐらいの潜伏期(感染から発症まての期間を言う)があり、頭痛、ハキケ、腹痛、下痢をおこし発熱します。熱が高いときは39度を超えることも珍しくありません。普通は1週間以内に回復するのですが、重症例ではスイジャク、ケイレンをおこしコンスイ状態になって死亡することもあります。 O−157による集団食中毒では、感染して数日を経過して下痢や血便がでた人も多くいたようです。潜伏期の長短は、摂取した菌の病原性の強さ、摂取した菌数および菌の増殖する場所などによって違いがでます。

その4.毒素型の食中毒:

  毒素を産生する菌によって食物の中ですでに作られた毒素を食物といっしょに食べて中毒を起すもので、ボツリヌス菌、ウエルシ菌や黄色ブドウ球菌などがこの毒素型の食中毒の代表的な原因菌です。

  ボツリヌス菌やウエルシ菌が作る毒素(外毒素です)は熱に弱いので、これらの菌が食物の中で増殖し毒素を作っていても加熱調理してから食べると、毒素による食中毒は起こりません。しかし、この2種類の菌は、耐熱性の芽胞を作りますので、調理した食べ物からも菌が分離されることもあります。加熱したからと安心はできません。

  ブドウ球菌は、何種類かの毒素を産生しますが、その中で腸管毒と呼ばれる毒素は耐熱性で沸騰しているお湯で30分間加熱してもコワレません。ブドウ球菌に汚染されている食物を加熱調理しても、菌は完全に死にますが、毒素は残るので中毒になります。加熱してた食物も食中毒になる可能性があるのでブドウ球菌の毒素型食中毒はこわいのです。

この文の前に掲載しました「45.細菌は食品の品質を評価する」で、食品製造環境全般の汚染の意味を多少説明した積もりですが、食材や食品が熱につよい菌や熱につよい毒素で汚染されていると、加熱調理しても安全は保証されません。180度の油で揚げても中まで熱が充分に通っていないと、危険なことが理解してもらえると思います。

  毒素型の食中毒の潜伏期は、食物を食べてから3時間から6時間と一般に短いのが特徴です。別な表現をすると昼食のお弁当であたると夕方には発症することがあります。その理由は、食物のなかですでに作られた毒素のためにおこるからです。症状は感染型とほぼ同じで胃腸炎を呈します。しかし、発熱はなく、ハキケが激しいことが多いようです。

  ただし、ボツリヌス菌の食中毒は例外で、潜伏期は18時間から36時間と長く、しかも胃腸症状はなく、マヒが主な症状になります。体温は低下し、死ぬまで意識は明瞭です。ボツリヌス菌の毒素は運動を支配している神経をおかすので運動麻痺がおこりますが、知覚神経はおかされませんので意識はさいごまで明瞭なのです。致命率は高く40%内外を示します。

その5.食中毒は忘れたころにやってくる:

  赤痢、腸チフスや結核などのような伝染病(現在は感染症と呼び伝染病とは言いません)は、すでに過去の病気のように考えていた方もおおいかと思います。ある意味ではその通りですが、全ての伝染病が少なくなったのではありません。腸チフス菌と似ているサルモネラ菌による食中毒は、O−157による食中毒よりはるかに多いのです。

  しかし、細菌による病気は、抗生物質で治せるからと、抗生物質の有効性を過信しすぎて安心していた傾向があります。抗生物質にも限界があり、毒素による病気は治せないことが多いのです。

  また、衛生状態がよくなりましたから、食中毒などは過去の非衛生状態の時代の病気と国民全体も考えていたようです。この細菌による病気を軽視する傾向は、一般人の専売ではありません。その証拠に、私たちのように病原微生物学を教えている教師が自ら書いた教科書の多くに、「食中毒の項目」は見つかりません。私がここに食中毒のことを簡単に説明しましたが、この程度の短くかんたんな内容でも記載されている教科書は日本中さがしても見つからないかも知れません。

  本質をわすれて抗菌グッズに頼りすぎるのは、いかがなものかと私は常々思っています。皆様はどのように考えているのでしょうか、ご意見や希望・感想などを聞かせてもらえますと助かります。

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