58.微生物にはどんな種類がありますか. 8-19-97.
ウイルスについての質問がたくさん寄せられています。ここでは読者からの「微生物の種類と特徴」についてのリクエストを取り上げ、概略を説明します。専門的な用語は出来るだけ使わないようにしますが、少し理解しにくい表現や内容があるかも知れません。なるべく平易に解説するつもりですが、解りにくい場合は解らないと申し出て下さい。 出来るだけ対応させて貰います。 1.微生物の位置づけ(表1と表2) 人間を含む全ての生物は、まず大きく分けて真核生物と原核生物のどちらかに属します。 真核生物とは、極めて簡単に表現すると細胞の中に核膜という膜で取り囲まれた核がある生物で、動物と植物に分けられます。
更に、分類の仕方に依っては、正真正銘の生物としての微生物と無生物的な性格の微生物とがあります。 真核生物である真菌や原核生物である細菌は、生物共通の基本構造である細胞という生命単位から出来ています。しかし、無生物的な微生物であるウイルスは遺伝物質である核酸とそれを守ための保護膜としてのタンパク質からのみ出来ています。 プラスミドやウロイド(ウィロイドという人もいます)は、核酸のみから出来ています。更にプリオンは、タンパクから出来ていると考えられています(表2)。 プリオンの発見で、微生物は出尽くしたと考えられます。今後もここに記載した以外の新しい微生物の種類は発見されないでしょう。
2.微生物の種類と特徴(表3) 小さな生き物が微生物ですが、表2に示したように、構成から幾つかの群に分けられます。その性質は全く異なり、概ね原虫、細菌(カビや酵母を含む広い意味)、リケッチア、クラミジア、ウイルス、プラスミド、ブリオン等に分類され、微生物学では原虫を除くその他の小さな生き物全てを微生物として扱います。 各々の特徴の概略を表3にまとめました。 |
生 物 | 原 虫 | 動物 | 細胞 | DNA & RNA | 寄生虫学・医動物学で扱う | ||
細菌(広義) | 植物 | 細胞 | DNA & RNA | 自己増殖 | 感受性 | ||
リケッチア | 植物 | 細胞 | DNA & RNA | 否自己増殖 | 感受性 | 要媒介昆虫 | |
クラミジア | 植物 | 細胞 | DNA & RNA | 否自己増殖 | 感受性 | ||
無生物 | ウイルス | ? | 粒子 | DNA or RNA | 否自己増殖 | 感受性 | 結晶化 感染性核酸 |
プラスミド | ? | 粒子 | DNA or RNA | 否自己増殖 | 感受性 | 伝達性(+ or −) | |
プリオン | ? | 粒子 | - ? | ? | 感受性 | 否滅菌 否UV |
その各々を簡単に説明しますと以下のようになります。 1)原虫とは、単細胞性の最下等な動物であります。 大きさは大小不同で、自然界では水中または湿地に多く生息しています。 学問としての病原微生物学では扱わず、常識的には寄生虫学等の分野で対象として取り扱っています。 2)細菌とは、葉緑素を持たず二分裂で増殖する単細胞性の原生生物(植物)です。 従属栄養細菌は、地球上に広く分布し、種類によっては病気を起こす病原体であり、あるいはレジオネラ菌等のように環境汚染源となりますが、乳酸菌や納豆菌のように多くはヒトや動物にとり不可欠で有用な細菌でもあります。 病原微生物は、真核生物に属する真菌(カビや酵母)と原核生物に属する(細菌)に分類されます。 肉眼では見えないが光学顕微鏡では捕らえられ微生物としては最初に発見された第一の微生物と呼びます。 3)リケッチアとクラミジアは、種類があまり多くない小さな群で、微生物学では細菌に分類されますが、細菌とは違って自分で自分の子孫を作れないので生きた細胞の中でしか増殖出来ない細胞寄生性という特徴があります。これを表の中では「 否自己増殖」と記載しました。細菌が行うような二分裂とは違う特殊な増殖形態で殖えます。 リケッチアは、シラミやノミ等の昆虫により媒介される点でクラミジアと区別が出来ます。テトラサイクリン等一部の抗生物質は治療効果が認められます。 4)ウイルスとは、殖えることの出来る裸の遺伝子群であります。この意味では基本的に生命体と言えます。 ウイルスは、好みの細胞でのみ殖える絶対細胞寄生性です。 このようなウイルスの性質は、「生命とは」または「殖えるとは」等の生物の基本的な現象を研究するのに最適な研究材料となります。 全ての生物と同様に、ウイルスも自然界の厳しい淘汰に耐えて存続しています。しかし、通常の生物と異なりウイルスは、好みの宿主との出会いがなければ死滅してしまい、この地球上に存在することが出来ません。 人間にしか感染増殖できないウイルスは、ヒト集団を住家としてヒトからヒトへと移り住んでいます。ヒトは、ウイルスの感染を受けると免疫を獲得します。 細胞内のウイルスに有効に作用する特効薬は原則として有りません。例外的にヘルペスウイルスに対してアシクロビルは有効です。 ウイルスは、光学顕微鏡では見えないが電子顕微鏡ではじめて姿を捕らえられる第二の微生物と呼びます。 5)プラスミドとは、遺伝子工学の分野で遺伝子の運び屋として良く使われますが、細菌の細胞内に存在する小さな環の形をしたDNAで、細菌の染色体DNAとは無関係に複製(自己増殖)する遺伝子の総称です。 6)プリオンは、未だ実態が良く解らない病原体です。 最近英国での狂牛病が人に感染するのでないかとの報道があり、社会的・経済的な国際問題となっています。この狂牛病は、プリオンによって伝達される疾病の1種類と考えられています。 プリオンは、電子顕微鏡でも捕らえられない第三の微生物と呼ばれます。 3.微生物の種類と感染症(表4) 感染症とは、病原を起こす微生物が生体内に侵入して増殖した結果の病的状態を言います。しかし、感染症の意味をより科学的に表現することは、一般にはなされていません。私は感染症の意味を次のように表現できると考えています。少し難しいかも知れません。 感染症とは、病原体と生体または細胞との生化学的な反応によって誘導された生体または細胞の遺伝子の混乱状態を言います。病原体は酵素のようなもので、生体や細胞は基質のようなものです。 このように仮定すると、この反応が進行するためには、特異性や親和性が当然に関与します。
病原体を便宜上、細菌とウイルスに分けてもう少し具体的に説明します。 1). 細菌が増殖した結果の病的状態は、細菌の細胞自体が原因である場合と細菌の代謝産物が原因である場合に分けられます。 2). ウイルスによる感染症は、ウイルスは裸の遺伝子なので、細菌の場合と少し異なります。試験管内での濃厚感染実験では、ウイルスも極めて強い細胞毒性を示します。
3). 細菌と細胞との反応は、1対1でも成立するでしょう。 このように感染症を表現し直すことができますが、しかし、それでは具体的にどのようなまたはどのように生化学的反応がおこって病気になるのか、その反応機構は単純でもないし未だ良く分からない部分が多いのが現状です。 4.微生物の種類と特徴のまとめ 小さな生き物を微生物と総括して呼びますが、多種多様な種類が判ってきました。 1)住血吸虫のような寄生虫(微生物ではありませんが)やマラリア・アメーバーのような原虫等は、分類的には動物に属し、一度感染すると生涯付き合うことになります。これは、生体の免疫機構に抵抗し、その監視機構から免れてしまうからです。 2)細菌を代表とする通常の微生物は、核膜のない原核生物と核膜のある真核生物に分けられます。赤痢菌やコレラ菌等は、原核生物と呼ばれ下等な菌で、抗生物質が有効です。カビや酵母は、真核生物と呼ばれ細菌よりは少し高等ですが、抗生物質等有効な薬剤はありません。 3)細菌に分類されるリケッチアとクラミジアは、いかに栄養分があっても細胞の外では増殖が出来ません。常に生きた細胞内でのみ増殖が可能です。生細胞中に存在するリケッチアとクラミジアの増殖を抑制する事は可能です。 4)ウイルス、プラスミドやプリオンは、動植物の分類法では、扱えない存在です。ウイルスは、生活環境中では無生物的存在であるが、生細胞中では病原体の生物として存在します。細胞中のウイルスの増殖を抑制することは難しいので、特効薬は原則として存在しません。 5)プリオンは、ウイルスより取り扱いが難しく、生き物なのか物質なのかすら良く解っていません。 ボケを防止したり、進行を抑えることも難しいのが現状です。 |