64.ハンセン病とサリドマイド 9-21-97.
その1.いまわしいサリドマイド 「サリドマイド 」と言っても「それ何?」という人がこの頃は多いでしょう。無理もない話と思います。しかし、人によっては「サリドマイドは許せない」と現在でも言う人が大勢いる事でしょう。これも無理もない話と思います。 妊婦がサリドマイドを特定の時に飲むと1回服用しただけで奇形の子供を生んだようです。サリドマイドの奇形を生む力は、とんでもないほど強力でありました。このため世界で多くの奇形の子供が生まれました。このような悲惨な薬害は、二度とおこしてはいけないと思います。
鎮痛剤としてドイツで開発されたサリドマイドは、優れた睡眠薬として1950年代末から世界の48カ国で大量に使われました。その後、乳児に奇形が多発したため、多くの国は1962年までに使用を禁止しました。サリドマイドが奇形を生むことは、動物を用いた実験からも証明されました。 サリドマイドを研究に使用したくても、医薬品としては売っていませんので、現在入手するのは簡単では有りません。しかし、ブラジルでは、政府が独占的にサリドマイドを製造し、「ライ病・ハンセン病」の鎮痛剤(痛み止め)として患者に使わせています。サリドマイドは、催奇形成能(奇形を作る力)以外に副作用のない極めて特異な痛み止めでもあります。 ハンセン病を発見したハンセンという科学者については、志賀潔博士の「細菌学を創った人々」の中に記載されています。興味のある方、読んでみて下さい。
サリドマイドがどうして痛みを止められるのかを調べた研究者がいて、その結果、意外な効果が判ってきました。少し専門的で難しくなりますが、出来るだけ簡単に説明します。 我々のからだを形作っている細胞は、外部からウイルス、細菌、毒等の異物の攻撃を受けると、例えばインターフェロンを含む色々なタンパク質を作ります。これらのタンパク質を総称してサイトカインと専門家は呼びます。 サイトカインには、インターフェロンのようにウイルスの病気に有効な物質もありますし、免疫抗体を作るのに有効に働く物も沢山あります。その他、ガン細胞を殺す作用を持つタンバクも何種類も知られています。 その一つにTNFと略称されるサイトカインがあります。TNFは、細胞に一番強く作用し障害を与えるサイトカインです。 サリドマイドは、細胞に強い障害を与えるTNFと呼ばれるサイトカインを特異的に阻害する作用を持っていたのです。サイトカインに対する作用と痛みをとる作用とが、どのように連絡とれているいるのかは、まだ解りません。
最近の新聞に出ていた情報によりますと、米国政府はサリドマイドを再度認可する可能性があります。記事の大筋は、次のようでありました。「米国食品医薬品局(FDAと略称され、大変に権威のある連邦監視機関)の諮問委員会の一つである皮膚・眼科専門委員会は、今月(9月)5日にサリドマイドをハンセン病のらい性結節性紅斑の治療薬として認可するようFDAに答申することを決めた」というものです。 ブラジルでは、サリドマイドを医薬品として使用し続けている例外的な国です。しかし、上に記載した新聞報道によると、将来サリドマイドは米国を始めハンセン病患者のいる国で痛み止めとして再度使用されるようになるのかも知れません。 ブラジル政府は、ハンセン病患者でも妊娠可能な女性への使用は禁止していますが、しかし、残念ながら奇形の子供が沢山生まれているのが現状のようです。奇形が生まれる原因は、処方した医師に過失責任があるのか、または妊娠する事を知っていながら飲む女性に責任があるのか良く判りませんが、いずれにしても奇形が生まれる可能性を回避する指導と認識が少したりないのでしょう。 「ワカッテイルケドヤメラレナイ」のが本音なのでしょうか。「クワバラクワバラ」。 |