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65.ウイルスはどこから来たのですか.  9-28-97.

 その1.中学生の質問

 再度中学生からの質問を取り上げます。少し前になりますが、ある中学校の生徒さんから「ウイルスはどこから来たのですか」という内容の質問をうけました。私はウイルスと30年も付き合っていますが、「ウイルスはどこから来たのか」については、真剣(しんけん)に考えたことがありませんでした。 中学生のそぼくな質問に専門家が、簡単(かんたん)に答えられない、質問は簡単ですが答えるのは大変にむずかしいものですから、今日まで説明文を書きだすまでに長い時間がたってしまいました。

 むずかしいから答えなければ私としては楽なのですが、中学生はこれからの日本を背負って立つ大切な宝者ですから、なんとか答えらしいものを書くことにしました。ウイルスの専門家としては、答えるのが責任と考えたからです。

 「ウイルスはどこから来たか」という質問への答えは、ウイルス学の教科書にもキチントとした答えは書いてありません。ここに書く説明は、私の考えですから、絶対に正しい事とは限らないことをまえもって、書いておきます。しかし、すべてアテズッポーやデタラメではありません。漢字(かんじ)をできるだけ使わないで、そのうえ専門の言葉もできるだけ使わないで説明するつもりです。


 その2.細菌とウイルスどちらが古いか?

 ウイルスは、地球上で一番かんたんな生き物です。ウイルスより簡単で小さな生き物は存在しません。プリオンという病気をおこすふしぎなタンパク質がありますが、これは生き物ではありません。「31番のプリオンタンパクとは」を、すこしむずかしいですが、興味のある人は読んでみてください。 さて、ウイルスはどこから来たのでしようか?。 ウイルスが地球上に最初ににたんじようした生き物で、それが進化(しんか)をつづけてより複雑(ふくざつ)な生き物ができたたのでしょうか?。それとも逆(ぎゃく)にふくざつな生き物が退化(たいか)してウイルスになったのでしょうか?。ダーウィンの「種(しゅ)の起源(きげん)・進化論(しんかろん)」は、これらのぎもんについては、こたえてくれません。

 ウイルスは、すくなくとも地球に最初にあらわれた生命の起源(みなもと)ではないようです。どうしてかというと、ウイルスは細胞(さいぼう)のなかでしか殖(ふ)えられないからです。ウイルスがあらわれる前に地球には、細菌(さいきん)や細胞が存在するひつようがあります。最初にあらわれた生き物は、たぶん細菌のようなかんたんな形をした生き物であったと考えられます。なにかの理由があって、かんたんで一個の細胞からできている細菌が集まって、ふくざつな細胞をつくり、おおくの細胞からなる多細胞の生き物ができたと考えられます。ウイルスより細菌や細胞の誕生(たんじょう)のほうが早いはずです。


 その3.ウイルスのみなもとは遺伝子(いでんし)

 「細菌や細胞の遺伝子の一部が、なにかが原因(げんいん)となって、細胞の外に飛び出したのがウイルスである」と考えられます。このような考えをもっている学者は前からいます。またウイルスを裸(はだか)の遺伝子(いでんし)と専門家はよびます。

どのような証拠(しょうこ)から、ウイルスは飛び出した遺伝子だと考えられるのかを説明します。ウイルスの研究につかう特別な言葉がヤタラとでてきますが、それは専門の記号(きごう)とおもって読んでください。長い文章になりそうです。しんぼうして読み通してください。それでははじめます。


 証拠(しょうこ)の1.細菌のウイルスの出現

 ウイルスは、自分で自分の子孫をつくれませんので、子孫をつくってくれる宿主(やどぬし)のちがいから、細菌を宿主しとする細菌ウイルス(ふつうはファージとよび、遺伝子はDNAです)、植物を宿主とする植物ウイルス、と動物を宿主とする動物ウイルスの3種類に分けられます。細菌を宿主とするファージを、いちばん初めの証拠(しょうこ)としてつかい、説明します。


 だいぶぶんの細菌には、その細菌に特有のファージがいます。たとえば、大腸菌(だいちょうきん)には大腸菌を宿主として殖(ふ)えるファージが、なん種類もみつかっています。Tファージやλ(ラムダ)ファージなどが代表です。コレラ菌、赤痢菌(せきりきん)、MRSA、納豆菌(なっとうきん)、そのほかの細菌にもファージはみつかっています。

 ファージは、宿主の細菌とであうと、その細菌の中にはいりこみ、殖えると宿主の細菌を殺して、細菌の外に飛び出します。ファージが細菌から飛び出すまえに、細菌は溶(と)かされてしまいます。このように細菌を溶(と)かして殺す性質(せいしつ)のファージを、ビルレントファージとよびます。ファージの多くは、ビルレントファージなのです。ファージが最初に発見(はっけん)されたころは、赤痢(せきり)やコレラなどの病気(びようき)は、その赤痢菌やコレラ菌のファージで、なおせると期待(きたい)した科学者(かがくしゃ)もいました。

 Tファージは、大腸菌にはいりこむとかならず宿主の大腸菌を殺す、ビルレントファージです。ところが大腸菌を殖やして、その大腸菌の殖えたものをただ単に放置(ほうち)しておいただけでも、その大腸菌の中にファージが見つかることがあります。「細菌と細菌を食い殺すファージがいっしょに生きている」という不思議(ふしぎ)な現象(げんしょう)があることを意味します。ある細菌は、ファージに免疫(めんえき)になっているのです。このふしぎな事に最初に気が付いた科学者は、パストゥール研究所(けんきゅうしよ)のルブォフ博士(はくし)ですが、研究所の科学者からは「そんなオカシナことは存在しない」と最初はバカにされたようです。最後にには、宿主を殺さない「おとなしい性質のファージ(これをテンペレートファージとよびます)」が存在すること、またファージが細菌から飛び出す仕組みを発見し、ノーベル賞をもらいました。

 テンペレートファージの代表にλ(ラムタダー)ファージと呼ばれる、遺伝子(いでんし)としてDNAをもつ大腸菌のファージがあります。テンペレートファージは、宿主の細菌にはいりこむとあまり殖えないで、細菌の遺伝子であるDNAと結合する力をもっています。結合したテンペレートファージのDNAは、細菌の遺伝子DNAとともに行動(こうどう)し、細菌の分裂(ぶんれつ)をとおして細菌の子孫にはいりこみます。細菌のDNAと結合した状態のDNAをプロファージ(ファージになる前の状態のファージを意味します)、プロファージをもっている細菌を溶原菌(ようげんきん:プロファージに溶かされて、殺されるうんめいを意味する)と呼びます。

 さて、溶原菌(ようげんきん)は、なにかの理由があると、溶原菌のDNAと結合しているプロファージのDNAが、不思議(ふしぎ)なことに突然(とつぜん)と殖えだし、ファージとして細菌のそとに飛び出してくることがあります。

 強い毒素(どくそ)をつくり人の命をうばうこともあるジフテリア菌に、たとえば、ガンの薬であるマイトマイシン、DNAと結合する色素(しきそ)、DNAに傷(きず)を付ける紫外線(しがいせん)などを作用させると、ジフテリア菌からファージがとつぜん飛び出して来ることがあります。毒素を作れなくなった無毒のジフテリア菌に飛び出してきたファージを感染(かんせん)させると、ジフテリア菌はプロファージを持つ溶原菌となり、毒素を生産する強毒(きょうどく)なジフテリア菌に変身します。

 一見ふつうの細菌に見える溶原菌を、遺伝子であるDNAに傷を付けるような作用を持つものと接触(せっしょく)させると、現代に生きている人間がかってにプロファージと呼ぶ細菌の遺伝子であるDNAの一部が飛び出し、飛び出したDNAは細菌を食い殺すファージ(細菌のウイルス)として行動していると考えられます。

 細菌のウイルスは、溶原菌の遺伝子の一部のDNAが飛び出し、増殖能(ぞうしょくのう)を獲得(かくとく)したものと考えられます。


 証拠の2.レトロウイルスの不思議

 ヒト、サルやネコなどの集団に「エイズ」という恐ろしい伝染病(でんせんびょう)が大流行しています。また、ヒト、ネコ、ニワトリ、シロネズミなどに性質のちがう白血病(はっけつびょう)があります。エイズも白血病もレトロウイルスと呼ばれるウイルスによる伝染病です。

生命をいじする遺伝とは、遺伝子であるDNAが酵素(こうそ)の働きでRNAに変化し、RNAからタンパクが作られる一連の化学的な反応(はんのう)をさします。この逆の方向、即ちRNAからDNAが作られる化学反応が起こることは無いと考えられていました。

 シロネズミやニワトリに白血病やガンを起すウイルスは、かなり前から見つけられていました。これらのウイルスを細胞に感染(かんせん)させると、ウイルスの増殖(ぞうしょく)はあまり活発(かっぱつ)ではありませんが、細胞はガンに変身することがわかりました。そのガン細胞を特別な技術でイジクリまわすと、ガンウイルスが急に増えてくる事があります。テンペレートファージと溶原菌の関係に似ている現象(げんしよう)です。

 あとでわかったことは、ガンを起すウイルス(RNAを遺伝子として持っている)のRNAは、細胞の中でDNAに変化して、細胞の遺伝子であるDNAに組み込まれて安定な形になっていました。このふしぎな現象を研究してガンウイルスは、RNAをDNAに逆転(ぎゃくてん)させる不思議(ふしぎ)な酵素を持っていることがわかりました。そこで、ガンを起すRNAをもち、逆の化学反応を進める酵素を持つウイルスをレトロウイルスと呼ぶことになりました。 現代の花形(はながた)科学であるバイオの技術を使うと、遺伝子の配列(はいれつ)を調べることが簡単(かんたん)に出来ます。ニワトリやシロネズミの遺伝子を調べると、レトロウイルスと同じ遺伝子のDNA配列が細胞に存在することがついに明らかになりました。

 レトロウイルスは、動物細胞の遺伝子の一断片(だんぺん)が飛び出し、殖(ふ)える力を獲得(かくとく)したものと考えられます。


 証拠の3.天然痘(てんねんとう)ウイルス

 細胞の中で、遺伝子であるDNAは細胞の核(かく)のなかで合成(ごうせい)され、DNAを手本にして作られるRNAは細胞質(さいぼうしつ)内で合成されるのが原則です。ところが、この原則にも例外があります。細胞質内に存在するエネルギー代謝(たいしゃ)を行うミトコンドリアと呼ばれる装置(そうち)ではDNAが合成されています。

 DNAを遺伝子として持っているウイルスは、一般のDNAと同じく細胞の核内で作られます。ところが、ここにも例外が存在します。その例外のウイルスは、DNAを遺伝子として持っている最も大型のウイルスの天然痘(てんねんとう)を起すウイルスです。イギリスのジエンナーが最初に天然痘のワクチンを作った話は有名ですから、天然痘の名前は皆さんも知っているでしょう。しかし、どうして天然痘のウイルスのみが、例外的に細胞質内で増殖するのかは、良く判りません。しかし、細胞質内に存在するミトコンドリアの働きと場所を利用して、天然痘ウイルスは増殖しているのです。

 そこで、天然痘ウイルスは、細胞のミトコンドリアのDNAが何らかの作用を受けたとき、とつぜんミトコンドリアから外れて飛び出し、殖える能力を獲得(かくとく)したものと考えられます。


 その4.飛び出したウイルスの共通した性質

 細胞から飛び出したDNAやRNAがウイルスに変身(へんしん)した例として、テンペレートファージ、レトロウイルスや天然痘ウイルスを説明しました。これらのウイルスは、飛び出した親(おや)に相当する細胞にのみ非常に強い好みを示します。

 大腸菌のDNAから飛び出してファージとなったウイルスは、大腸菌にのみ取りつくことができ、大腸菌でのみ殖えることが出来ます。ネコの遺伝子のDNAから飛び出したネコのレトロウイルスは、ネコのみに感染し、ヒトやシロネズミには感染出来ないのです。このように飛び出してウイルスとなったDNAまたはRNAは、飛び出す前の細胞の動物の種類をいつまでも記憶(きおく)しているようです。とても不思議な現象です。

 ヒトに病気を起すウイルスは、原則としてヒトにしか感染しません。ニワトリのウイルスは、イワトリにのみ病気を起こします。これを種特異性(しゅとくいせい)とウイルスの専門家は呼びます。更に、肝炎(かんえん)を起すウイルスは肝臓(かんぞう)にのみ感染し、カゼを起すウイルスは呼吸器(こきゅうき)の細胞にのみ、また脳炎(のうえん)を起す恐いウイルスは脳の神経(しんけい)細胞にのみ感染します。この現象を臓器特異性(ぞうきとくいせい)と呼びます。

 ウイルスは、単純でちいさな粒子(りゅうし)です。もちろん、鼻(はな)や目や手を持っていません。鼻や目を使わずにどうして、肝臓や脳の細胞を見分けることが出来るのでしょう。現在ウイルスのこの性質は、まだ理解することができません。

 しかし、ウイルスの持っている面白い性質である種特異性や臓器特異性は、ウイルスの飛び出すまえの自分の先祖を記憶していること、その先祖の細胞の中に戻りたいという希望の現れかも知れません。


 その5.なんらかの原因とはなんでしょう?

 ウイルスは、細菌や細胞から「なんらかの原因で」飛びだしたという「なんらかの原因」として、どのようなことが考えられるのでしょう?。これについて答えてくれる学者はいないのではないかと思います。しかし。私はここで少なくとも可能性のある理由を考えださなければならない立場にあります。あえて皆で考える出発点を作るつもりで、可能性を考えてみましよう。

「抗生物質と中性子」の二つをここで取り上あげます。

 ★お正月に良く食べるおモチに青カビがつくとおモチは腐(くさ)りません。また煮たカツオの肉にカビが生えると美味(うま)いオツオブシが出来あがります。おモチなどに良くついている青カビは、細菌が殖えることをじゃまするペニシリンという抗生物質(こうせいぶっしつ)を作ることは良く知られている有名な話です。青カビが何を目的(もくてき)にペニシリンをつくっているのかは、人間には判りません。しかし、ペニシリンを作って自分のまわりに雑菌(ざっきん)がふえ過ぎるのをじゃまし、自分が生きていくためのナワバリを作っている可能性が考えられます。

 茨城県水戸(みと)市の土から発見されたカビが作るマイト(Mito)マイシンというガンに効く抗生物質(こうせいぶっしつ)は、細胞の遺伝子であるDNAの合成をじゃますることで、ガン細胞が殖えるのをおさえる働きをします。カビが人間のガン細胞をヤッケる目的で、土の中でマイトマイシンを作っているはずがありません。カビは、土の中にマイトマイシンをバラマクことによって、自分の周囲によぶんな菌の繁殖(はんしょく)がないように菌を殺しているものと思われます。その周囲にいて殺されるべき菌が仮にプロファージをもつ溶原菌(ようげんきん)であったとしたら、どのようなことが起こるのでしょうか。上の証拠の1.に書きましたように、溶原菌をマイトマイシンといっしょにすると、プロファージが急に殖えだし、細菌ウイルスであるファージが飛びだして来ます。

 これらの例は、自然界で作られている抗生物質などがある特定の菌に働いて、ウイルスを作り出したと考える見本を示しているのかも知れません。


 ★海外の外国まで飛んでいくジェット機のパイロットやその他の乗務員(じょうむいん)には、正確には判りませんが、子供のいない人が多いと聞いたことがあります。もし、子供がいないか、または子供の数が少ないという事が本当だとすると、空港のビルで働いている人と成層圏(せいそうけん)を飛ぶジェット機の乗組員(のりくみいん)との何がちがうのでしょう。

 地上と成層圏では、温度や酸素濃度などをはじめ色々な物の有無(うむ)や濃度、その他の要因がちがうのでしょう。私には詳(くわ)しいことは判りません。しかし、宇宙空間(うちゅうくうかん)や成層圏(せいそうけん)には、紫外線(しがいせん)、放射線(ほうしゃせん)やまた中性子(ちゅうせいし)というなんでも透過(とうか)してしまう力の強い素粒子(そりゅうし、この言葉のいみはむずかしい)が大量に存在します。

 成層圏を毎日飛んでいるジェット機の乗務員は、地上の勤務者に比べて、ひかくにならないほど大量の放射線や中性子を浴(あ)びている可能性があります。この暴露(ばくろ)が、せいかくには物理学の専門家に聞いてみないと判りませんが、結果として子供の少ない家庭を作っている原因でないかと思われます。

 酸素などが地上にまだ存在していなかった太古の時代には、太陽から地上に降ってくる紫外線、放射線や中性子の量は、現在よりはるかに多かったはずです。物質透過性の強い中性子やDNAに傷を付ける力の強い紫外線や放射線が、細菌や細胞に長いあいだ大量に作用したとすると、DNAの一部が突然(とつぜん)変異(へんい)したり、または一部がチョン切れて、その変異し断片化(だんぺんか)したDNAが細菌や細胞の外に飛び出してウイルスになったと考えるのはいかがでしょう。必ずしも可能性を否定(ひてい)できないと考えます。逆な表現をすると可能性があるのです。

 中学生の質問に対する答えにしては、たいへん長くむずかしい説明文になってしまいました。普通の大人でも理解するのが困難(こんなん)かも知れません。もしわからないとすると、その理由は私の力が足りないことに原因します。

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