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70.ウイルス性食中毒. 11-24-97.

 食中毒をおこすウイルスの概要について改めて掲載します。ホームページに「曖昧模糊」を書き出した初期のころに、「14.輸入魚貝類の肝炎ウイルス」と「15.新鮮魚貝類と下痢ウイルス」を掲載しました。今改めてこれらを読み直してみると、当初は1ページで1項目を解説するつもりでしたので、記載が短いだけではないのですが、内容が多少不足していることに気が付きました。
 また10月から生カキの季節になりましたので、この前後より生カキの安全性や食中毒について、生カキの養殖業の方、生カキを食材として扱っている方や消費者などから、質問を含めた問い合わせがとても多くなりました。
 そこで、生カキのウイルスに話題を限定しないで、食中毒をひきおこすウイルスについて、以下に出来るだけ易しく解説したいと思います。

 PART-1.厚生省ウイルスを食中毒の原因物質と認定

 食中毒が疑われる患者を診察した医師は、保健所に届け出る義務があります。医師より届が出されて初めて食品衛生法にある「食中毒事件」と認定されます。そこで色々いな調査や対策が初めて始まります。食中毒は、感染性病原体によるものが多く、周囲の者への二次感染が広がる恐れもありますので、原因究明と防疫が大切となります。

 食品衛生法は、「国民の食の安全と健康を守る強力な行政法」で、食中毒を起こした原因物質または食品を特定できなかったとしても、疫学的な専門家の調査で確率が高いと推定される状況証拠のみでも行政措置をとることが可能にしています。

 ところが、従来の食品衛生法では、細菌類と化学毒物は原因物質として認めらていますが、おかしなことにウイルスは原因物質に認定されていませんでした。ウイルスを検出したり特定する試験は、どこの施設でも実施できるほど簡単ではなく、更に結果を出すまでにケースによっては数ヶ月の検査時間を要する場合もあるなどの理由から、ウイルスによる食中毒が疑われても「原因不明」として扱われて来ました。

 国内外で発生する食中毒でウイルスによることが明らかな事件が多発している現状に配慮して、厚生省は「食品媒介ウイルス性胃腸炎集団発生全国実体調査研究」班を設置し、原因不明とされてきた全国の「非細菌性」食中毒の学術調査を平成5年より開始した。

 ウイルスが原因と疑われた食中毒の規模、発生頻度、季節流行性、原因ウイルスの特定、推定原因食品、疫学的特徴などを調査分析しました。この結果より、日本の食中毒の全貌が把握され、初めてウイルス性食中毒の実体が明らかにされました。この結果を受けて厚生省は、ようやくウイルスを食中毒の原因物質として初めて認定し、食品衛生法を改正し「平成9年5月31日」に官報で告示しました。

 PART-2.ウイルス性食中毒は新しく現れた食中毒か

 これまでウイルスが原因であった食中毒事件も全て原因物質が不明として扱われて来ましたので、我が国では食中毒事件とウイルスとの関連や実態が全く把握されていませんでした。

 上に記載した厚生省の研究班の資料によると、平成元年から平成5年までの間に全国で食中毒事件は毎年平均で約千件程度発生していることが判りました。それらの約20パーセントがウイルス性の食中毒と推定されました。また患者が一度に500人以上でた大規模食中毒の全てが学校給食に関連していました。食の安全を確保するために、食品の衛生監視と原因物質としてのウイルスの検査が大切であることも判明しました。

 ウイルスによる食中毒は、古くて新しい検査体制での食中毒であることを理解していただけると思います。今後ウイルスの検査体制が整えられると、ウイルス性食中毒と断定されるケースはかなり増えるものと予想されます。

 PART-3.二枚貝より検出されるウイルス

 東京都は、都内で市販されているカキ、ハマグリ、アサリ、ホタテカイなどの19種類の二枚貝を店頭から購入し、ウイルスによる汚染状況を調査しました。その結果は、私達ウイルスを専門にする者からすると、「そうだろうな」と合点のいく成績でした。一般の人が初めて見聞きすると驚くことでありましょう。

 市販の二枚貝約204サンプルを検査して65サンプルから、ヒトに胃腸炎を引き起こす複数のウイルスやA型肝炎ウイルスなどさまざまなウイルスが検出されました。ウイルスが検出されなかった二枚貝はありませんでした。

 この二枚貝のウイルス調査では、ウイルスの存在する可能性が高い内蔵が調べられました。 カキを別にして、ほとんどの二枚貝は、普通加熱処理されるか、たまは内蔵を除いた後に食されることが多いと思われますので、ウイルスが存在しても直ちに重大な問題と考える必要はないと思われます。しかし、内蔵を除去しないで生で食する場合は、ウイルス性胃腸炎などの感染に注意する必要があると考えられます。   

 試験のために購入した二枚貝の産地は特定されていません。現在は、近隣諸国より輸入されたカキなどもありますので、国内産と国外産のどちらがウイルス汚染をより受けているのか、また国内産としても産地による差がないのかあるのかなどは、今回の調査では不明でした。

 PART-4.ウイルス性食中毒の原因ウイルス

 東京都内で流通されている二枚貝から、一番高率に検出されたウイルスはアデノウイルスで、以下小型球形ウイルス(通常SRSVと省略されます)、コクサッキーウイルス、A型肝炎ウイルス、エコーウイルス、ロタウイルスの順になり、ポリオウイルスは見つかりませんでした。

 この試験では、上に記載された7種類のウイルスについてのみ検査されました。この他にE型肝炎ウイルスも検査対象に入れるべきでありますが、ウイルスの試験は、試験設備とその取り扱い技術が特殊であり、更に経験を必要としますから、どこの保健所でも衛生研究所でも実施できるとは限りません。細菌の検査などとは比較にならないほど難しく、検査にも大変な費用がかかります。  

 40歳以下の日本人は、A型肝炎ウイルスに対する免疫抗体を持たない割合が高いので、感染した人によっては、胃腸炎で終わらずに激症肝炎になる可能性もありそうです。

 PART-5.細菌性食中毒とウイルス性食中毒

 食中毒は、細菌やウイルスに汚染された飲食物を製造供給したことで、摂食者に与える直接的な健康被害を言います。この場合、未加熱か加熱不充分な飲食物を口から摂取することによります。  

 細菌はほとんどの飲食物、極端な場合は缶詰の中でも殖えますから、食材の最初の段階から飲食物として提供される最後の段階のどこで汚染がおこっても、結果として食中毒が起こります。

 ウイルスは飲食物では増殖しませんから、摂食者に提供される最後の段階でウイルスの汚染が仮にあっても、そのウイルスの量は食中毒を起こすほどではないと思われます。ウイルス性食中毒は、食材が最初からウイルスに汚染されていた可能性が大きく、細菌性の場合と異なります。

 二枚貝がウイルスに汚染されるのは、養殖されている産地の海水がウイルスに汚染されている可能性が考えられます。海水がなぜ人の糞便に由来するウイルスで汚染されるのかは、普通の人には理解しがたい事柄とも思われます。これは衛生行政が絡む難しい問題をはらんでいます。別な機会に、このへんの事情を紹介したいと思っています。

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