▲▲ ▼▼

74.ワクチンと血清の違い. 12-22-97.

 「病気を治すときにワクチンを使い、毒ヘビにかまれると血清を用いますが、インフルエンザの血清はないのですか」とのメールがある園芸業の方から寄せられました。新型のインフルエンザウイルスが香港で発生したとのニュースが報道されて以来、インフルエンザについての質問が多くなりました。一般のほとんどの方は、ワクチンと血清の違いを知らないと思われますので、質問に答える意味でここで簡単に説明します。

PART-1.毒ヘビに咬まれると血清を使う

 マムシのような猛毒を持っている毒ヘビにかまれたり、破傷風菌のような猛毒を作る細菌の感染を受けると、そのままにしていると命を落とす恐れがあります。ヘビの毒は細胞を溶かし、破傷風菌の毒は神経を麻痺させます。

 このような毒による災いには、毒に対する免疫抗体を含む血清(正式には抗毒素免疫血清という)を注射すると、毒に対する抗体が毒と結合して毒力を消し去ります(科学的には中和されると表現します)。免疫抗体による疾病の治療を免疫血清療法とよび、北里柴三郎博士が世界に先駆けて発見し、またヘビの毒に対する免疫血清は北里柴三郎博士の高弟の一人北島太一先生が研究した優れものです。

 血清療法は、免疫学的な理論にもづく治療法です。またワクチンも免疫抗体による疾病の予防並びに治療に用いられます。

PART-2.ワクチンと免疫血清の違い

 ワクチンも免疫血清も共に基本的には免疫抗体を利用するのですが、何が違うのでしょうか。先ず最初に免疫の種類について、説明します。ハシカに一度罹ると二度とハシカには罹らないと昔から言い伝えられています。これば真実です。ハシカはハシカウイルスによって起される病気ですが、ハシカウイルスは体内で増殖し、血液の流れに乗って全身を駆け巡ります。別な表現をしますと、ハシカウイルスは免疫を作る全身の細胞を刺激して、その結果強い生体防御機構を作ります。この生体を守る働きを免疫と言いいます。

 免疫とは、身体に侵入した異物、例えばハシカウイルス、によって誘導され、ハシカウイルスとのみ結合する抗体という物質を作らせることを意味します。抗体を作らせる働きをする物質、例えばハシカウイルスを抗原とよびます。抗原によってつくられ抗原とのみ結合する性質の物質を抗体と呼びます。

 抗原であるハシカウイルスが生体に侵入して病気・ハシカを起しても身体のなかに抗体が出来ます。血液中に抗体が存在していると、ハシカウイルスが再度侵入して来ても、感染する前に存在している抗体がすぐにウイルスを捕らえて中和することが出来ます。

 自然界ではヒト以外はハシカにかかりません。そこでハシカウイルスをウサギに何回も大量に注射したとします。そのウサギはハシカウイルスの感染は受けずハシカにもなりませんが、体内にはハシカウイルスに対する抗体が出来ます。結局病気になるかならないかには関係なく、抗原が体内に入ると抗体が出来る訳です。

 感染して抗体ができて免疫になることを「能動active免疫」と呼びます。抗原を何回も注射すると血液中には抗体ができ、その抗体を含む血液を別なヒトに注射しても抗体を血液中に存在させることができます。このように抗体を含む血液または血清を他の個体に移して免疫にすることを「受動passive免疫」と表現します。

 ワクチンを注射して免疫にする「能動免疫」法は、生体が免疫抗体を自ら作ることで、抗体ができるまでに1週間以上の日数を要しますが、作られた免疫能は長年持続します。一方、抗体を含む血清を注射して免疫にする「受動免疫」法は、抗体を移して一時的に免疫にすることで、抗体を作らせることが無いので即効的に免疫状態になりますが、抗体は作られていないので長期間の持続性は期待できません。

PART-3.インフルエンザの免疫血清はないのですか

 インフルエンザウイルスに対する免疫抗体を含む血清を作る事はできます。しかし、いつウイルスの感染を受けるのかは皆目不明ですから、前もって免疫血清を注射して感染に備えることは、抗体の生体内持続性から考えて原則出来ません。従って、原則はあくまでも原則で、実際にはイウフルエンザに対するワクチンはありますが、免疫血清は無いことになります。

PART-4.次世代のワクチン

 この項目に相当する面白い内容が、「旅(微生物学教室35周年記念誌)」の第3部、新しい微生物学、「病原ウイルスの生態学」に詳細に説明されていいいます。著者の大谷明先生は、世界的な日本を代表するワクチン学者です。ワクチンに関してはどぞそちらの項目を読んで下さい。

PART-5.次世代の免疫血清

 免疫血清療法は、先にも述べたように北里柴三郎博士が100年前に確立した画期的な治療法です。破傷風や毒ヘビの場合、免疫血清を注射すると患者が見ている前で病状が軽減していくのが判るほど、即効的に効きます。しかし、問題もあります。例えば、あるヒトがマムシにかまれて、馬を免疫して作った抗体を含む馬血清を注射してもらい命拾いしたとします。そのヒトにとって馬の血清は異物ですから、抗体が出来ます。

 その同じヒトが今度は破傷風になったとします、抗毒素抗体をふくむ血清を注射する必要がありますが、馬以外の動物、例えば羊で作った免疫血清でないと使えません。理由は簡単で、馬の抗体を持っているヒトに馬血清(抗原となる)を注射するとショックをおこして呼吸困難から死んでしまいます。

 そこで、この欠点を克服するために、馬や羊という異種動物の抗体を使わずに、ヒトの抗体を作れれば血清療法は完璧にサバイバルすることが間違い無いのです。しかし、と゜のような理由や必要性があったとしても、人間を実験動物と同じように扱うこともできませんし、更に人の免疫血清を他人の治療に使う、または売ることはできません。

 北里柴三郎博士の発見より100年後の現在やっとその可能性が見えててきました。不思議なことに北里柴三郎博士は、免疫抗体を動物の身体を借りずに、数年後の近い将来バイオの技術で作れるようになる、と100年前に現在の先端技術である生命科学の勃興を予言しています。そのバイオの先端技術を使えば問題は解決するのです。ヒトの抗体分子はヒトのリンパ球が作るのですから、ヒトのリンパ球を試験管の内で増殖できるようにする技術革新が待たれています。

 北里柴三郎博士が予測した数年は、ようやく100年後に華をひらこうとしています。このような100年も先のことをどうすれば予測できるのでしょう。明治時代には、ものすごく優秀な人材が数多く輩出しています。日本人に創造性が無いのでなく、創造性を導き出す指導者がいないのでしょう。みなさんはどのような印象をもたれましたか。

▲▲ ▼▼


Copyright (C) 2011-2017 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.