▲▲ ▼▼

80.オシボリと薬用セッケン.  2-21-98.

  パート−1.微生物学実習にて.

 私共学部では2年生と3年生に微生物学の基礎実習の時間があります。クラス全体として理解力とまとまりが良いクラスでは(毎年ではありません)、時間的に多少余裕が出来ることがあります。そのようなクラスには、自由研究と称して好きなことを調べる時間を与えています。

 自分達の身の回りの環境、持ち物、食品等の細菌の数や種類を調べることが多いようです。一番身近な細菌検査として自分達の手、口腔、鼻等の細菌を調べることがあります。中学生でもできる簡単な実験ですが。

 手についている細菌を調べる実験の概略を紹介します。まず、細菌が殖える人工的な栄養環境(専門的には培地と呼びます)を必要な数だけ準備します。色々な状態の手を準備します。「そのままの手」、「水道水で良く洗ってハンカチで拭いた手」、「薬用セッケンで洗った手」、「ぬれティッシュで拭いた手」等微生物の数が違うと予測される自分達の手を培地に触れて、その培地をフランキのなかで保温します。手に細菌がついていれば、細菌の集落が形成されます。その集落の数だけ生きていた細菌が手に付着していたことを意味すると考えてください(学問的には少し問題もあります)。

 さて、結果は学生達が予想したようにはならないことが多いのです。先ず予想外なことは、細菌がさぞかし多いと思っていた「そのままの手」が一番細菌の集落が少ないこと、「薬用セッケンで洗った手」や「ぬれティッシュで拭いた手」が期待に反してキレイになっていないこ、更にキレイになっていないのみならず洗ったり拭いたりした後の方がなにもしないそのままの手よりキタナイこと等であります。

 「ぬれティッシュ」が最初から細菌で汚染されているのかを調べると、結果はそうでない。水道水に細菌が多いのかを調べれば、水道水は無菌に近い。 無菌的な手が存在しないことの確認のみならず、学生は自分達の手を持って知り得たことは、「洗いかたによっては、洗う前より洗った後の方がかえってキタナクなる」、「薬用セッケンは値段が高い割には効かないぞ」等などであります。

  パート−2.ぬれティッシュはキタナイのか?.

 喫茶店やレストランなどでサービスに出してくれる「オシボリ」や「ぬれティッシュ」などは、衛生的にキタナイ時代がありました。消毒薬を入れてあるから無菌で安全と信じて売っていた企業が殆どでしたが、現在は消毒薬を入れてあるから安全だろうという時代ではなくなりました。10年程前から安全衛生自主基準を業界が守っているからです。

 ところが、無菌である「ぬれティッシュ」で手を拭いてどうして細菌の数が拭く前より多くなるのでしよう。「薬用セッケン」は本当に効果がないのでしょうか。「薬用セッケン」の全てが有効で効能書通りとは決して言えませんが、全ての薬用セッケンが無効である筈も有りません。

 上に記載した学生の実験結果は、学生だけの問題でなく、普通の人なら誰が試験しても学生達と似たような結果になると私は思っています。なぜ、どうしてそのようになり、その理由はなんでしょう。

  パート−3.簡単な実験.

 セッケンを使って流水で充分に洗うと手は細菌学的にキレイになります。そのキレイになった手に消毒用アメコールを噴霧し、5分ほどそのまま何にも触れないで乾燥させて、無菌に近い手にします。その直後、特別な処理法で滅菌して無菌にした手袋(ラテックスかゴム)をその清浄な乾燥した手にはめて、外から雑菌が入りこまないように手袋の腕に近い上の方をバンドで止めて、しばらくそのままに保ちます。

 その手袋を無菌的に取り扱い、手袋内に存在する細菌の数を測ります。その結果はどうなると予測されますか。消毒用アルコールで消毒したのだから、手袋から細菌が検出されない、とおもわれるでしょう。答えは、「ノー」です。手にはめて直後の手袋内は無菌で細菌が証明されません、しかし、30分とか60分後の手袋からは、多分オビタダシイ数の細菌が検出される筈なのです。手を提供した人によって多少は違いますが。例えば、細菌やウイルスを毎日取り扱っている我々バイキン屋の手は、普通の人の手より意外とキレイなのです。しかし、無から有がなぜ生じるのでしょう。

 理由として次のような事柄が考えられます。消毒用アルコールの消毒力は長時間持続しない、セッケンや流水で洗い流せた細菌は手の表面に付いていたものだけであった、手のシワなど表面より下に存在した細菌は洗い流せなかった、手袋をしていると汗をかくので汗で細菌が浮かび上がった等であります。

 これらのなかでどれが正しいのでしょうか。答えは、多分全て正解と思われます。アルコールのような消毒薬の消毒力はあまり持続しません、乾いた手から細菌はあまり移動しません、汗や水(水分)で手の表面を拭いたりぬらすと乾燥していた時は取れなかった細菌が取れ易くります。

 結論としてある意味では、「何を使おうと本当に良く洗うので無ければ、手は洗わない方が半端に洗うよりキレイだ」ということです。外科医は、手術前にブラシを使って手をゴシゴシと洗う意味がお分かり頂けると思います。手を本当にキレイにするは結構大変なのです。

 

▲▲ ▼▼


Copyright (C) 2011-2017 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.