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83.ウイルスの検査入門 (用語解説).  2-15-98.

 ウイルス検査の種類をまとめると、表1のようになります。これらのこと を説明する前に、専門用語と色々な反応の意味や特徴を簡単に説明しま す。 

 

表1.ウイルス検査の種類
ウイルスの分離同定法
  培養細胞、発育鶏卵、実験動物

抗体の検出と定量法
  補体結合反応(CF)、中和反応(NT)、赤血球凝集抑制反応(HI)、
  蛍光抗体法(FA)、酵素抗体法(ELISA,EIA)、酵素蛍光法(ELFA)、
  ラテックス凝集反応(LA,PA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、
  ラジオイムノアッセイ法(RIA)、ウエスタン・ブロット法(WB)

抗原の検出法
  ウイルス抗原検出法(ELISA,FA,RIA,ELFA,CLIA)

遺伝子の証明法
  遺伝子増幅法(PCR)、核酸ハイブリダイゼーション法

ウイルス:

 遺伝子である核酸とそれを保護するタンパク(抗原)の膜からできていて、電子顕微鏡でなければ観察できないほど小さな粒子である。ものを合成する酵素を持たず、呼吸やエネルギー代謝をしないので、ウイルス粒子自身では増殖できない。生きた感受性細胞の中に侵入して細胞の代謝系を利用してウイルスの核酸とウイルスの構成タンパク(抗原)を細胞に作ってもらい殖える。ウイルスを殖やすためには、ウイルスの好む感受性細胞が必要となります。

培養細胞:

 肺臓や腎臓などの臓器を生体外に取り出し、臓器をトリプシンなどのタンパク分解酵素を用いて単個の細胞に分散させ、その細胞を栄養液に浮遊させ、試験管などの容器に移し、細胞をフラン器内で保温して培養します。細胞は、無菌的な環境で栄養分が充分に存在すれば、生体外でも培養ができ、増殖させることが可能です。生体外が増殖した細胞を培養細胞と呼びます。

感受性細胞:

 ウイルスが生体内に進入すると、そのウイルスが好む細胞内でのみ増殖をします。例えば、インフルエンザウイルスは、呼吸器の細胞を好むために、呼吸器の細胞がウイルス増殖の場となります。ヒトのウイルスは、ヒトの細胞を好み、牛のウイルスは牛の細胞を好みます。ウイルスが好みウイルスが増殖できる細胞を感受性のある細胞と呼びます。ヒトのウイルスを人間の生体外で増殖させるためには、培養細胞、発育鶏卵、動物個体等の感受性のある細胞集団に接種し、殖やしてもらうことが必要となります。

ウイルス増殖の指標:

 ウイルスの感染を受けた細胞は、ウイルス遺伝子の指令を受けてウイルスの核酸や構成タンパクを作り、そのために全エネルギーを消耗してしまいます。その結果、細胞はモガキ苦しみながら死滅します。

死滅するまでの過程で細胞は、ウイルスを殖やしていることを、色々な動作や証拠を見せてくれます。例えば、鼻から肺までをつなぐ管である気管支の細胞は、表面にセン毛と呼ぶ毛が生えていて、波をうつように常に一方向に運動をしているのが顕微鏡で良く見えます。

インフルエンザウイルスの感染を受けると、このセン毛の運動が止まってしまいます。また、ウイルスのタンパクが細胞内に充分に出来ると、タンパクは固まりになり、抗体や色素で染色すると濃く染まるようになります。また生きている細胞には色素は入り込まないが、死ぬと物質の透過性が変化し色素なども容易く入り込み、死んだ細胞は染まるが生きている細胞は染色されない。更に、ウイルスの感染を受けた細胞は、死ぬ間際には細胞自身の形が変化します。ウイルスが増殖した指標は、その他にも多くあります。

ウイルスの分離:

 生体内に存在する病気の原因と考えられる特定のウイルス、または数種類のウイルスが混在する場合の特定の1種類のウイルスを、他のものと分け離して、単独の純粋な1種類のウイルスとして取り出す操作を分離と呼びます。ウイルスを分離するには、まずウイルスが一番多く存在すると考えられる病巣をまず選択し、これを分離のための検体と呼びます。次に、目的とするウイルスが好む感受性細胞に、この検体を接種し、ウイルス増殖の指標を検索します。培養開始数日後にウイルス増殖の指標が観察されると、ウイルスが分離されたことを意味します。しかし、本当に目的としたウイルスなのか、または他のウイルスの混入なのか、例えば、風疹ウイルスか麻疹ウイルスなのかは、類推はできますが断定はできません。

ウイルスの同定:

 ウイルスの専門家は、ウイルスが分離されるまでの過程とウイルス増殖の指標などから、ある程度分離されたウイルスを類推することができることもあります。しかし、科学としては、「思われます」という主観的なことは許されません。風疹ウイルスなのか、麻疹ウイルスのか、それともインフルエンザウイルスなのかを決める操作をウイルスを同定すると言います。ウイルスを同定することは、ある程度以上の知識とそれなりの経験がないと、時間と経費を無駄にする専門的で難しい検査です。用いる方法は、色々ありますが全て免疫学的な理論と手法にもとずく抗原抗体反応と呼ばれるものです。

ウイルスの定量法:

 ウイルスは、電子顕微鏡でなければ観察できないほど微細な存在ですが、ウイルスの持つ色々な力を指標にして測定できます。例えば、生細胞のなかで殖える感染力(増殖力)、生細胞中でタンパクや抗原などの合成を誘導する代謝能、赤血球に吸着して赤血球を凝集させる赤血球凝集能、抗体と結合する抗原としての反応力、抗体を産生させる抗原としての免疫力、タンパクや核酸を合成する遺伝子または遺伝の働き等を物差しにして測定します。

 インフルエンザウイルスがどの程度の量あるのか判らないサンプルAを例に簡単に説明します。

インフルエンザウイルスは、発育鶏卵でよく殖えますから、まず発育鶏卵での感染力を測定します。

10倍、百倍倍、千倍と10倍ずつ連続的に希釈したサンプルAを発育鶏卵に接種して2日間ほど培養します。

百倍、千倍、1万倍、10万倍、百万倍に希釈したサンプルを接種した発育鶏卵でもウイルスは殖えていたが、千万倍希釈を接種した発育鶏卵では増殖してなかった。とすると、サンプルAは、百万感染力価(百万EID)となります。

次に、百倍、2百倍、4百倍と2倍ずつ連続的に希釈し、ニワトリの赤血球と混合し30分ほど静置します。

ウイルスが存在すると赤血球は凝集します。何倍に希釈したところまで凝集がおこっているかを観察します。仮に1024倍まで凝集があり、2048倍は凝集してないとすると、サンプルAは1024倍まできしゃくしても赤血球を凝集する量(1024HA)があったとなります。

発育鶏卵でウイルスが殖えていたか殖えてないかは、凝集反応で確認します。

電子顕微鏡でウイルス粒子数を算定すると、百万粒子が1HAに相当します。すなわち、サンプルAは、赤血球凝集反応では1024HAと表現され、培養試験では百万EIDと表現され、電子顕微鏡での算定では約10億粒子数と表現されます。

免疫:

 ハシカ(麻疹)ウイルスは、呼吸器から体内に侵入し、血液と共に全身を駆け巡る。からだ中のリンパ細胞などの免疫担当細胞は、麻疹ウイルスが体内に侵入した事を認識し、からだを守るために強固な防御システムを作らせる。麻疹に一度なった人は、免疫担当細胞が麻疹ウイルス(抗原)を記憶しているので、二度と「麻疹」には罹りませんが、「水疱瘡」や「お多福風邪」には罹るかもしれません。このような生体を守る非常に特殊な防御機構を免疫と呼びます。

抗体:

 ウイルスなどの抗原を動物に注射すると、血液中に免疫を担う抗体と呼ばれるタンパクが作られます。抗体タンパクは、最初に注射した抗原とのみ結合する力と選択性を持っています。この選択性を特異性と呼びます。

麻疹ウイルスで作った抗体は、麻疹ウイルスとは結合しますが、風疹ウイルスとは絶対に結合しません。抗体タンパクの量は、重さでも測れますが、普通は希釈して何倍に希釈したら抗原と反応しなくなるかを測定し、何倍の抗体価と表現します。

抗原:

 抗体を作らせる力があり、また抗体とのみ結合する物質、主にタンパクのような高分子、を抗原と呼びます。ウイルスや卵白などは、良い抗原となります。抗原量は、重さでも測れますが、普通は何倍に希釈したら抗体と反応しなくなるかを測定して、何倍の抗原価という表現をします。

抗原抗体反応:

 抗原と抗体との反応をいいます。抗原も抗体も普通は目で見ることができません。抗原と抗体が結合すると、その反応は肉眼で観察されることもあります。

肉眼で観察されない反応は、別な物差しを用いて結合を調べます。

例えば、インフルエンザウイルスは、ニワトリの赤血球に吸着して凝集させることが出来ます。ウイルスは抗原でもありますから、インフルエンザウイルスに対する抗体を含む血清と混ぜると、抗原としてのウイルスは抗体タンパクと結合します。この結合物は肉眼では見えませんが、ニワトリの赤血球を加えても凝集させる力はありません。抗体はウイルスと結合して、ウイルスがニワトリの赤血球に吸着することを阻害します。

従って、肉眼で観察できなくても、ニワトリの赤血球が凝集すれば抗体は存在しない、もし凝集が阻止されたならば抗体の阻害作用となり、抗体の存在を知ることがで きます。

 濾紙、ビーズやプラスチックなどにウイルスを固着させ、それを抗体を含む血清と反応させると、抗体は抗原であるウイルスに結合します。ここで抗原に抗体が結合したことを示す指標がないと、抗原抗体反応を識別できません。

抗体が結合したら変色するような仕組みや、抗体が結合していればその結合した抗体を検出する別な抗原抗体反応を利用すると、いかなる抗原抗体反応も検出できる可能性があります。このような発想から新しい技術が色々と開発されています。例えば、検出の指標に酵素、放射性物質、蛍光物質などを巧みに利用した抗原抗体反応は、非常に選択性が高く、且つ鋭敏です。

抗体の定量法:

 抗原が既知であれば、どのような抗体でも測定可能です。ウイルスが培養細胞で増殖すると感染細胞は死にます。抗体がウイルスと結合する(抗体によるウイルスが中和されたと言う)と、抗体がウイルスの細胞への吸着を阻止するので、細胞は正常のままで生きています。ウイルスの感染で細胞が死ぬか生きているかを指標に抗体の量を計ることで可能です。

培養細胞の代わりに赤血球を用いても同じ原理で抗体を定量できます。

遺伝子の検出:

 ウイルスの遺伝子は、DNAかRNAかのどちらかです。DNAは、普通2本の鎖が互いに結合しています。適当に加熱すると2本の鎖は1本に離れます。その後ゆっくりと冷やすとまた2本が1本になるのですが、急激に冷やすと1本のままで存在します。ABCDという配列を持つウイルスの遺伝子とCEFGという配列を持つ合成した放射性を持たせた遺伝子を混合すると、Cの部分が共通ですから結合して2本の鎖になり、結合したことは放射線を測定することから判断できます。どのような遺伝子であっても、共通する配列が一部でも存在すれば、お互いに結合する性質があります。

 この性質を利用すると全ての遺伝子を検出することが可能となります。

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