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84.ウイルスの検査入門 (各論).  2-25-98.

パート−1.ウイルスによる病気の診断.

 これまでにも何回かウイルスによる病気は、症状または病状からのみでは診断をつけることが難しいと書いてきました。それでは病気を引き起こしている原因ウイルスをどのようにして見つけ出すのかを、出来るだけ解り易く説明したいと思います。

 「82.ウイルスの検査入門 (総論). 2-9-98.」に記載した検査の仕組みについて、原理別にその概要を解説します。

パート−2.ウイルスの分離による証明.

 熱があり、セキがでて、全身に違和感や痛み等の症状があると、インフフルエンザである可能性が考えられます。インフルエンザであるとすれば、空気と共にウイルスを吸い込むことで感染し、口・鼻から肺までの呼吸器系の細胞で増殖している筈です。増殖して殖えているインフルエンザウイルスを証明出来れば、インフルエンザと確定できる訳です。

 生きているウイルスを証明するには、そのウイルスが殖えている場所に多く存在しているはずですから、そこからウイルスを含む可能性がある試験用の検査材料(検体といいます)をとります。インフルエンザの場合は、一般にウガイをして貰い、そのウガイ水を検体とします。

 目的とするウイルスに感受性のある培養細胞に検体を接種して、増殖してくるのを毎日観察知ながら待ちます。または、発育鶏卵に接種して、数日後に「ウイルスの定量」の項目で説明した、赤血球凝集反応・試験を実施します。ウイルスが増殖した指標が認められると、その指標を出させたウイルスを決める(同定という)試験を行います。

 生きているウイルスを証明する「ウイルスの分離による証明」が、試験法の感度と結果の信頼性が最も高いと考えられています。 しかし、ウイルスにかんする広い知識を持った専門家と特殊な設備か必要です。

パート−3.ウイルスに対する抗体の検出

 ウイルス(ヒトに対しては異物のタンパク質)が体内で殖えれば、その異物であるウイルスに対して、生体は免疫抗体を産生して防御態勢を作ります。病気を引き起こしているウイルスに対する免疫抗体を検出できれば、原因ウイルスを推測することが可能です。

 免疫抗体の検出は、抗原抗体反応を用います。抗体か存在することが判明すると免疫抗体の定量試験で、その量を測定します。免疫抗体が検出・定量されても、それが直接感染と関係あるとは限りません。そこで原因ウイルスによる抗体の増量であることを確認する必要があります。

 1年前にワクチンを接種して貰った人には、1年前から免疫抗体が十分量存在している筈です。感染によって新たに作り出された抗体なのか、1年前から存在する抗体なのかを区別する試験を行います。ウイルスの感染直後にはIgMと専門的には呼ばれる免疫抗体が速やかに作られます。 しかし、あまり持続しないでIgGと呼ばれる抗体に交代します。このIgG抗体は胎盤を通過できますが、IgM抗体は通過できません。更に、IgG抗体は、数年持続して産生される特徴があります。

 産まれたばかりの赤ちゃんの血液に風疹に対するIgM抗体が証明されると、赤ちゃんはお母さんの子宮内で風疹ウイルスの感染を受けた証明になります。逆に、IgG抗体のみが検出されたとすると、その抗体は母親より貰った免疫抗体であるので、感染を意味しません。

 母親が持っている免疫抗体が子供に移動することは、北里柴三郎が百年前に発見し、現在もこの類の抗体を移行抗体と呼びます。生後半年間は、ウイルスや細菌の感染による病気になり難いのは、母親からの移行抗体や母乳に含まれる免疫抗体により、免疫能力が備わる前の自然の防御きこうによるのです。

 ウイルスを取り扱える特別な施設やウイルスの専門家に問題のある医療施設では、専らウイルスに対する抗体の検出を実施して、原因ウイルスを確定しています。

パート−4.ウイルスの抗原の検出

 人間は生まれて半年程の時間が経過しないと、免疫を担当する細胞が充分に機能しません。生まれて半年以降でないと、ウイルス等の異物が体内に侵入しても、その異物に対して免疫抗体を作ることができません。

 子宮内にいる時に母親から肝炎ウイルスの感染を受けて産まれてきた子供は、免疫機能が備わる前からその肝炎ウイルスと一緒ですから、肝炎ウイルスを異物と認識することは有りません。体内にいる肝炎ウイルスがいくら増殖しても、その人の体内では免疫抗体は作られません。

 このような症例では、ウイルスが抗原として存在しますが、免疫抗体は存在しません。B型肝炎等を確定するための試験では、B型肝炎ウイルスの抗原の検出を抗原抗体反応を用いて行います。

 また、インフルエンザ等のようにノドでウイルスが増殖しているケースでは、ノドを綿棒で拭い、綿棒に付着して取れて来るノドの細胞にウイルスの抗原が証明されることがあります。ウイルスを培養して、分離する試験より、抗原抗体反応を直接行える為に、短時間で結果をだせる特徴があります。

パート−5.ウイルスの遺伝子の検出

 ウイルスの専門家でも殖やすことができないウイルスが、現在も数多くあります。肝炎を引き起こすウイルスは、A型、B型、C型等、その他数多く判っていますが、殆どか人工的に増殖させることが未だできません。ウイルスを殖やすことができないと、そのウイルスに対する抗体の測定もできません。

 現代の花形先端科学である遺伝子工学の発展は、目を見張るほどスサマジイものです。例えば、試料中に1個のウイルスでも存在すれば、その1個のウイルスの核酸をタネとして、化学的にその核酸の数を幾らでも殖やす事が出来ます(増幅するという)。ウイルスの核酸の証明は、ウイルスの遺伝子を証明したことを意味します。ウイルスを殖やす事ができなくても、抗体を検出できなくても、遺伝子を増幅してその存在を証明することが可能な時代になりました。

 この試験は、極めて短時間で極めて微量なウイルスの存在を証明する結果をだせる特徴があります。しかし、特殊な専門技術、特殊な測定機器、遺伝子である核酸を増幅させる酵素等を必要とする難点があります。

 ウイルスに限らず病気の色々な検査を仕事とする人達は、臨床検査技師と呼ぱれ、国家試験を合格した専門職の人達です。これらの試験は、医療施設、保健所、衛生研究所、検査センター等で行われています。臨床検査技師の人達は、試験に必要な器具器材の開発や製造にも深く拘わっていいます。理科が好きな人には、打ってつけの職業かも知れません。

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