▲▲ ▼▼

87. 学者の評価の仕方.  3-27-98.

その1.営業マンからの質問.

 長年勤務している会社の業績があまり良くなく、先行きの見通しも芳しくないことが理由で、人員整理と賃金体系の見直しが行われている。賃金は、「年功との関係を廃止し、実力・実績で評価する」方式に変わった。しかし、自分の扱う商品は「葬儀用品」であるので、ある程度の実績は誰でも達成可能だが、いくら努力してもある以上の成績は上げ難い。同じ営業職でも「売り易い人気商品を扱ってい営業マン」と「いくら宣伝し努力してもあまり売れない商品を担当させられた営業マン」を査定する場合、販売実績という金額の大小のみで人の能力を計るのは矛盾していると考えるようになった。

 そこでふと考えたのだが、「学者の能力を評価することがあるのだろうか、あるとしたらその評価法」を教えてくれ、との面白い質問を貰いました。若い人を育てるにはどうしたら良いのか?、人の能力を評価する適切な方法はあるのか?等には、私も常日頃興味をもっている事柄でありますから、質問者に書き送った私個人の答えを恥ずかしいのですが一寸披露します。

その2.科学者を評価する方法.

 「学者の評価法」という質問でしたが、私は「科学者の評価法」として答えました。学者という職業があるのかないのか私は知りませんが、多分学者という職業は存在しないと思います。そこで、職業として研究だけを行っている者、私のように教育の傍ら研究をしている者、企業で開発を担当している技術者や研究をしている者等全てを含めて科学者ということにします。

 結論から先に書きますと、世界の科学者を一つのモノサシで評価する方法があります。米国の情報企業がだしているインバクト・ファクター(略してIF)という代物です。強いて訳すと「衝撃度」になるかと思います。ある一人の科学者の行っている研究が、どの程度の衝撃を世界の科学者に与えているかを示します。いかなる国のいかなる分野の研究者であっても、その個人のIFを算出することが可能です。IFは、点数として表現されます。

 IFをどのように計算するかはあとに譲ることにします。ここで、IFの使い方について、簡単に説明します。公にされている定期刊行の学術雑誌であれば、全ての分野の全ての雑誌にIFという点数がつけられています。米国のある学術雑誌のIFは26.000、日本で発行されているある雑誌のIFは12.560、またある国の別な雑誌は0.001というように点数が毎年新た決められ公表されています。点数の大きい雑誌ほど世界的に多くの人々に読まれている質の高い雑誌と思って下さい。

 日本で発行されている学術雑誌でも、英文の雑誌の方が和文の雑誌よりもIFは高くなる傾向にあります。同じ英文でも伝統ある古い雑誌の方が最近創刊された雑誌より高くなります。この意味は、あとで再度触れます。

その3.二人の科学者と二つの大学の評価.

 二つの大学XとYに所属する二人の科学者AとBが、毎年数編の学術論文を発表していると仮定します。科学者Aは、国内では極めて著明な人物で10人の研究を指導し、研究成果を20編の和文の論文として発表した。科学者Bは、地味な仕事を一人で行っている国内では無名に近い若手で、数ページの短い1編の論文を英国の雑誌に発表した。

 全雑誌のIFを掲載しているインデック集を参照して、二人の科学者のIFを算出すると、科学者Aの総計は2.000であったが、科学者Bの1編の論文は20.000であった。科学者Aは、10人の部下と過去5年間に論文を95編発表したが、その累積IFは13.000であった。一方科学者Bは、5年間に3編の論文しか発表してないが、その累積IFは32.000であった。

 科学者Aの大学Xと科学者Bの大学Yの発表論文の数とIFも、個人の場合と同じように算出することができます。このように、大学という組織および科学者個人の発表した論文が、世界に対してどの程度の衝撃を与えたかという比較もできる訳です。

 ある国では国策として、その衝撃度IFで個人の能力を評価し、そのIFの数値の大きさで、国から出す研究費や個人にボーナスを出しているようです。ある資料によると、研究者をIFからA、BとCの3群に分類し、Aを取るとその科学者個人に毎月ボーナスとして別途870米ドル支払う(この国の平均月収は1万円に達してない)。またCを2年続けて取ってしまうと、その研究に対して研究費を出さず研究を中止させるそうです。このような国では、生存競争が激しくなり、結果的には研究業績がウナギノボリに上昇しているようです。

その4.日本国の科学者集団の世界的な評価.

 アジア全域から1996年度に発表された論分数は、9万超であるようです。その年に日本国内で実施され発表された論文数は、約6万であるらしい。この数は、米国と英国に次いで世界第3位でありました。しかし、6万を超える論文の世界に与えた衝撃度IFの総計は、世界で17位だそうです。

 日本国内の微生物、感染症、抗生物質および診断キット等の分野の科学者に関する科学的レベルは、世界的に際立っている科学者も大勢います。また個人のIFでも世界で上から数位の科学者もげんに私の身近にもいます。

 日本という国の評価になると、論文の数は科学者の数と国の経済力に比例して世界3位と評価されていますが、その内容としての質IFは論分数よりはかなり低い評価になっているようです。残念な事実です。

その5.営業マンも科学者も同じ.

 さて、衝撃度というIFは、どのように算出されるのかを簡単にでも説明する必要があります。学術論文には、論文内容に関する参考文献というものが全ての論文で記載されています。世界中で発行されている学術雑誌に掲載された全論文の参考文献を詳細に調べコンピューターで処理すると、「ある雑誌Aに掲載された論文が非常に多く引用されている」とか「雑誌Bの論文の引用される頻度は極めて低い」等が歴然とするようです。雑誌毎の引用度を高い順から低い順に並べて点数化したものが、雑誌のもつIFとなります。

 日本語で書かれた論文は、日本語を使える科学者にしか読んで貰えない可能性があります。英語での論文は、国籍や言語の違いを越えて国際的に読まれる可能性があります。例として上に挙げた科学者Aと科学者BのIFの違いが生まれることになります。

 また、「世界に存在するエイズ」の研究と「地方病としてツツガ虫病」の研究を行っている科学者の論文は、英文で発表したとしても当然の結果として、それを読んでくれる科学者総数は歴然とした違いがあります。

 更に、「環境ホルモン」のように新しい分野の研究内容を発表しようとすると、掲載してくれる適当な学術雑誌が無い場合があります。そのような場合、当該分野の研究をしている科学者数名が努力して、環境ホルモンという物質について発表する場としての「新しい学術雑誌」を創刊したとします。その雑誌の存在が認知されるまでに、適当な年数が必要になります。その間、その雑誌の評価としてのIFは低いのが当然です。

 「売れる商品」と「売り難い商品」、また「国内でしか売れない商品」と「国際的に売れる商品」等を担当させられている営業マンを、売り上げ金額で評価するのと、国際的な衝撃度IFで科学者を評価するのとは全く同じ現象に思えます。

その6.オモウニ.

 過労死になる程働いている人とあまり熱心で無い人も社会には存在しますから、不景気な世の中でなくても、人を適切に評価し処遇することは良いことと思います。しかし、実績と称する売り上げ額による評価、および国際的な貢献と称する衝撃度IFによる評価は、評価法の一つであることは間違いないと思います。

 同じ分野の科学者集団を比較する場合と、ことなる分野の多くの科学者を一つのモノサシで評価するのには、多少無理があります。しかし、好き嫌いのように抽象的な判断・評価は、客観性に欠けるキライがあります。

 組織には、営業マンや科学者のように数値が出せる分野と数値を出せない分野もあります。人を客観的に且つ適切に評価する方法はあるのでしょうか。どなたか良い智恵を教えて下さいませんか。お願いします。

▲▲ ▼▼


Copyright (C) 2011-2017 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.