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90.バイキンがどうしてそんなに面白い?.  

その1.学生の質問.

 新学期を迎え、三年生に対して臨床微生物学の授業が始まりました。第1回目の授業は、臨床微生物学概論として、これから何のために何を勉強するのかを説明すると同時に、担当者の自己紹介の一部として、自分が現在までどのような実験を展開してきたのかを話しました。

 講義が終わったときに一人の学生から、「エイズ、エボラ出血熱、ガンやボケなど恐ろしい病気ほど科学的には大変に興味を覚え、ガンを引き起こすウイルスやボケをヒトからヒトに移すプリオンなどの毒力の強い病原体ほどチャーミングに感ずる。その上何十年もあきもせず微生物と付き合っている」と言いました。「バイキンの何がそんなに面白いのか? またどうして何十年も同じようなことを続けられるのか?、科学者は職業として面白いか?」等を教えてくださいとの質問を受けました。この質問をした学生に話した内容を中心に話を展開します。

その2.職業としての科学者の魅力.

 強酸性の胃内ににどうして細菌がいるのか?、ウイルスはどこから来たのか?、子供はどこから産まれるのか?などは、小学生でも気が付く不思議なことです。疑問を持つことが科学の始まりで大切なことです。しかし、ただ単に疑問を持つだけであれば、幼稚園の児童でも小学生でもできることです。例えば、シャンプーにどうして細菌がいるのだろうか、もしかしたら誰かが故意に入れたのではないか、イヤもしかすると変異するからでないのか、変異を起こすのであればどうすればそれを証明できるかしら、アッそうだこんなことを調べてみれば判るかも知れない。

 この現象は、このようなことから起こっている可能性が考えられる。その可能性は単に考えでなく、こうすれば誰でもが確認できるはずだ。それでは、こんな実験を試してみよう。このように考える過程を「作業仮説をたてる」と言います。自分がたどり着いた考えを実験的に証明することが実験科学です。

 「他人から押し付けられて試すのではなく、自分で導き出した考えが正しいかどうかを自分自身で検証してみたい、さらに出来れば結果を他人より速く入手・確認したい」という欲望にかられることがあります。この欲望は誰にでもあるのですが、その欲望の強さや持続性は人により多少ちがうかも知れません。この欲望が強く持続する人が科学者と呼ばれ、科学的な欲望には終わりがないと思います。ほとんどすべての人が、科学には興味を持っていると信じています。その代表として刑事コロンボを例にあげてみます。

その3.刑事コロンボはなぜ面白い?

 刑事コロンボというてテレビ小説があります。分類的には銭形平治捕物帖と同じジャンルに入るのでしょうが、殺人事件を主題にした他の推理小説とは一味違う作品と思います。面白くないと思う人も居るのでしょうが、世界的に人気のある小説であり、かつテレビ映画と聞きます。なぜこのテレビ小説は面白いのでしょう。

 銭形平治捕物帖など他の推理小説と違う点の一つは、ストーリーの最初に事件の全貌と犯人を、推理小説でありながら、ある程度明かしてしまうことでしょう。しかし、一番の違いは、面白さの秘密にもつながりますが、解決するまでの話の展開の仕方であると思います。

 コロンボ刑事は、ある現象に疑問を抱き、まず事件の全貌の把握に努めます、誰がどうすればこんなことが可能となるのだろうか。このような手段を使えば実行可能かもしれない。とすると誰がこの手段の存在に気がつくてあろうか。自分の存在または実行を隠すために「あるカラクリ」をしているに違いない。そのカラクリのために、ある物を使ったか又はある場所に行っているはずだ。そこである程度犯人を絞り込みます、次に犯人の心理状態を考え、もしXが犯人とするとYという事柄を示す又は話すと、多分Zという行動をする可能性が考えられる。そこで、緻密に計画された実験的なワナを犯人らしき人物に仕掛けます。結果は、最初に予測したとおり無事一件落着となります。

 コロンボ刑事は、まさに科学者と同じく、自分の編み出した仮説にもとづいた科学的な実験を視聴者に見せているのだと私は思います。科学実験だから面白いのだと思います。本物の刑事は、大変でツライことも多々あるでしょうが、多分毎日の仕事が楽しく、かつ結果が人のためになること等から、刑事という職業を天性と考え辞める事などほとんどの刑事は、考えていもいないと推測されます。

その4.刑事も科学者.

 極悪非道な事件がこの世にある限り、刑事という仕事は休暇をたとえ取れなくても、楽しくて辞められない。この世に恐い病気を引き起こす微生物が存在する限り、私たちはたとえ貧乏しても、命を落とす可能性がたとえあっても、その魅力から逃れられない。科学的な実験者も刑事も三日やったら辞められない。それほど面白い職業と考えています。

 私は、自分では大変に忙しい日々を送っています。全時間実験や教育に携わっているのではありませんが、年間に三千時間ほど大学で何かをしています。一日が25時間であればと常々考えてしまいます。しかし、毎日が大変充実していると実感しています。以上が質問をしてくれた学生への私の応えのあらましでした。

その5.職業としての科学者.

 職業としての科学者または実験者は、奇人怪人が多いかも知れませんが、とても魅力的です。目が輝いています。他人には科学者の生活を少しでも試してみないと本当の面白さや素晴らしさは、理解して貰えないかも知れません。

 科学または実験を職業とすることは、どのような経過を経ようとどのような条件下でも、できれば人のためになる、結果を出さなければなりません。結果という成績で評価されるのですから、人によっては自分の存在にたまらない魅力を感じるはずです。従って、思い付きで実験をする訳にはいきません。いつも真剣勝負なのです。科学者は、大人のプロですが、頭は常に柔軟で子供ように奇抜な発想がてきたら素晴らしいと思います。

 電気ウナギの発電、植物の光合成、人を愛する感情、快い音楽や絵画を創作する能力などに関与する細胞または遺伝子を試験管のなかに閉じ込めたいと、考えている実験者も世界のどこかに居るかも知れません。そのような実験は、ある人からすると妄想だと言われそうです。しかし、例え妄想といわれても、遠大な妄想や夢をもてる人は、ロマンに満ちた素晴らしい生活時間を楽しんでいるのだと思います。

 若者よ、科学者になろう ! 他人のために働こう !

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