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93.賢いウイルスと愚かなウイルス. 

その1.ウイルスのヒト渡り.

 ウイルスがなぜこの世に存在するのか、その理由はウイルスに聞いてみないと判りません。しかし、人間を殺すことが主な目的であるはずはありません。ウイルスは、自分の子孫を残すために、人間の身体を一寸借りているのだと思います。ヒトのガンやボケの原因体としては、憎い存在でありますが、ウイルスが人間社会で存続し続けることは容易ではないのです。   

 ヒトの個体は、一度ウイルスに感染するとそのウイルスに対して免疫を獲得し、当分の間そのウイルスの感染増殖をゆるしません。従って、ウイルスが増え続けるためには、常に免疫のない新しいヒトを探さねばなりません。これはかなり厳しい生存条件となります。麻疹ウイルスの感染を受けると、ヒトは生涯にわたる強い免疫を獲得します。従って、麻疹ウイルスがこの世で生存してゆくためには免疫のない新生児を見つけなければなりません。

 かつて或る科学者が、住民数の異なる孤島を選び5年間に毎月麻疹患者が報告される、つまり麻疹ウイルスが絶えることなく生き続けるにはどのくらいの人口が必要かを調べたことがあります。その結果は、少なくとも50万人は必要という結果となりました。つまり50万人以下の人口の島では、毎年生まれてくる子供の数が少ないために、島の外部から新しく麻疹ウイルスの輸入がないとウイルスは絶えてしまうのです。

 また、仮に50万人以上の人口があっても、その住民の60%以上が免疫になっていると、その地でのそのウイルスによる病気の流行は起こらないのです。ヒトだけを利用するウイルスには、このような厳しい環境下で生存する運命にあります。

 そこで、ウイルスと人間の知恵比べが始まり、ウイルスも戦術を練った結果、賢いウイルスと愚かなウイルスが存在することになりました。賢いウイルスは、人間にとってテゴワイ戦い相手となったのです。

その2.がんこで愚かなウイルス.

 賢いウイルスの話をする前に、愚かと思われるウイルスを紹介します。

<1>
 最初はA(冬)型日本脳炎を起こすウイルスです。昔日本国内には、冬に流行るA(冬)型日本脳炎と夏に流行するB(夏)型日本脳炎の2種類が存在しました。B(夏)型日本脳炎は、今日も東南アジア諸国で猛威をふるっています。一方、A型日本脳炎を起こすウイルスは、どのような性質のウイルスかも判らないうちに、日本人全員が感染して免疫になったのかは不明ですが、自然に淘汰されて、日本国内から忽然と消えてしまいました。

<2>
 二番目は、天然痘を引き起こす天然痘ウイルスです。天然痘は、旧約聖書にも記載されていますし、またエジプトのミイラにも感染した痕跡が観られることから、人間に病気を起こすウイルスとしては極めて古いウイルスです。或る国ではつい最近まで毎年数百万人もの天然痘の感染者が発生し、多くの死者を出していました。このウイルスは、呼吸器から感染し、感染すると殆どの感染者が病気になる恐ろしいウイルス病の代表でした。

 このウイルスは、人間を好み人間にしか感染しない性格を頑固いってつに守っていました。そこで、人間は天然痘ウイルスこの性格を逆手にとって、全ての人間にジエンナーの発見した天然痘のワクチンを接種して、全地球人口を免疫にすることができました。1979年10月25日に最後の天然痘患者がいなくなって、人間の力によって地球上から天然痘は地球上から消滅しました。

<3>
 ここで紹介する最後は、ポリオウイルスです。ポリオは、別名小児マヒと呼ばれ、口から侵入して腸内で増殖し神経を犯す恐ろしいウイルス病の代表の一つです。ポリオウイルスも天然痘ウイルスと同じように人間のみを好むウイルスで、他の動物には絶対に感染しません。口から飲食物と共に体内に侵入し、腸内の細胞で増殖した後、多くは糞便と一緒に体外に排泄されますが、一部は血液と共に体内を循環し、最終的に最も好む神経細胞にたどり着き、その細胞を殺してしまいます。

 ウイルス学者が研究に研究を重ねた結果、腸管内の細胞では良く増殖するが、血液のなかに入れない性格の変わったウイルスを作り出すことに成功しました。これが、現在世界で広く用いられている弱毒ワクチンの種になっています。

 世界各国で上下水道の整備と衛生状態の改善が行われてきた結果、多くの人間が糞便と一緒に排泄されたポリオウイルスを体内に取り入れるチャンスが少なくなり、その上更に、優秀な弱毒ワクチンが開発されましたので、ポリオが地球上から消滅するのも時間の問題と期待されます。しかし、地球上にはワクチンよりも今日のパン一切れを求める貧困な国がまだ残念ながら多く残っています。世界保健機構WHOは、この目的に向かって努力しています。

 ここに紹介したウイルスは、頑固一徹に人間のみを利用する性格であるため、恐ろしい病気の原因ウイルスですが、なんとか人間の叡智が勝っていました。次に紹介するウイルス群は、人間の頭脳より優れているかも知れません。

その3.したたかで賢いウイルス.

 したたかで賢いウイルスは、多く存在します。その賢さから、横綱、大関と小結の3群に分けて紹介しす。

<1>
 横綱格としては、正横綱としてエイズの原因ウイルスであるHIVとヒトT細胞白血病を起こすHTLV、と張出横綱として肝炎を引き起こすB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス等を上げることが出来ます。これらのウイルスは、なぜ横綱格のウイルスなのでしょうか。

 最初にエイズのウイルスを例として説明します。ヒトにしか感染せず、その上抵抗性がそれ程強いウイルスではありませんが、感染の仕方がとても巧妙なのです。これらのウイルスは、まず人間の欲望や必要性を知り尽くしているようで、逆な表現をすると人間の弱みを突いてきます。

 人間が子孫を残すために男女の性的接触があり、子供が生まれ、母乳を与えます。疾病によっては、輸血、臓器移植、インスリンやホルモン等の投与が必要です。これらの欲望や行為には、血液、精液、母乳、臓器などが必ず介在しますので、この介在物の中に潜り込めば、人間が人間にウイルスを勝手に広めてくれる訳です。次に、病原微生物の感染から私達の身体を守るために体内に備えているリンパ細胞がウイルスの増殖の場なのです。

 ウイルスの感染を受け、ウイルスに対する免疫力を作るにも免疫力を生み出すリンパ細胞が最初に攻撃を受けてまず破壊されてしまうのです。更に、人間が免疫を獲得して感染を防くことのないように、ウイルスは常に感染者の体内でいとも簡単に変異を繰りえかしています。

 次に、肝炎ウイルスの多くは、医療行為、性的接触や出産などでヒトからヒトに移されていますが、更に面倒なことには、増殖する仕組みが巧妙であるため、現在でもこれらのウイルスを体外で殖やすことすら出来ません。増殖させられないと、ウイルスの研究は遅れ、性格の把握は更に難しく、さの姿もよく判りません。

<2>
 大関格としては、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルスと麻疹ウイルスを紹介します。この3種類のウイルスの賢さは、各々多少異なります。 まず、インフルエンザウイルスは、呼吸器を介して感染すると上気道の細胞で増殖し、すぐに発症します。感染力と伝播力が大変に強いウイルスで、その上、毎年のように姿(抗原)を変え(変異し)て感染を繰り返し、更にヒト以外にブタ、トリ、ウマ等多くの動物間を渡り歩き、遺伝子の情報交換をしているようです。

 次に、ペルペスウイルス、例えば水疱瘡(専門的には水痘)は、子供が呼吸器を介してウイルスを吸い込み病気になりますが、治せませんが独りでに直ります。しかし、本質的に完全にはウイルスは駆逐されたのではなく、神経細胞に永遠に潜んでしまいます。

 ところが、大人になって、疲労、不摂生、生理、その他の要因が働くと、神経細胞内で眠っていたウイルスが突然と目覚めて元気良く増殖し、神経細胞に沿って身体の表面にまで出てきます。その結果、その神経の支配している体表に帯状の水疱(専門的には帯状泡疹)を起こします。神経細胞に潜み或る時突然と活性化されることは、ヘルペスウイルス全体の共通した性格です。神経細胞に潜む仕方や潜んでいるウイルスを駆逐する方法は、まだ全然解っていません。

 最後に、麻疹ウイルスです。麻疹の予防には大変に強力なワクチンが開発されていますので、誰でも子供の時に麻疹になるのは、今後も永遠に続くとは考えなくても良いのかも知れません。しかし、現在は麻疹になった子供のうち20万人に一人程度の割合で、麻疹より恐く植物人間になって死んでしまう「亜急性硬化性全脳炎・SSPE」になります。

 このSSPEは、麻疹になってから6年程経過してから発症し、脳が犯されて植物人間になり、回復の見込みは全くありません。これは、麻疹ウイルスが脳内にまで侵入し、脳細胞内で奇妙な性格に変異することによります。麻疹ウイルスがどうして脳内にまで侵入して変異するのかは、謎のままです。

<3>
 小結格のウイルスは、多くあります。例えば、デング出血熱ウイルス、 黄熱ウイルス、エボラ出血熱ウイルス、狂犬病ウイルスやライノウイルス等です。ここに記載したライノウイルス以外のウイルスに共通することは、蚊なとの媒介昆虫がウイルスを媒介するらしいこと、昆虫が血液を吸う人間以外の動物が存在することです。

 その結果、これらのウイルスの自然における生態系が複雑で、人間にかかるウイルスを撲滅するには、難しい問題が存在します。例えば、森林地帯に生息する野生の動物(例えば、コウモリ、オオカミなど)、牛のような家畜や犬のようなペットまでを、どのように管理するか、これは不可能に近いと思われています。

 日本には原則として狂犬病が存在しませんが、これは世界的に例外的な珍しい国で、アメリカ、ロシア、ヨーロッパの国々は、現在も狂犬病の恐怖に悩まされています。

 ライノウイルスは、普通にかかる鼻カゼの原因ウイルスです。鼻カゼ自体は、命にかかわるような恐ろしい病気ではありませんが、この原因ウイルスは性質が多少違う少なくとも100種類以上ウイルスが存在しますから、ワクチンの開発や予防策を講ずることが不可能と考えられています。一冬に数回ライノウイルスの感染を受けることも珍しくありません。

その4.ヒトはウイルスに勝てるか.

 エイズを起こすウイルスは、エイズを治せる特効薬が見つからない限り、この世から駆逐することは難しいでしょう。考えられる対策の一つは、エイズの子供が一人も生まれないようにすれば良いのです。もしエイズの子供が出来ないようにすには、完全な避妊を全人類が実行することで、エイズの子供は生まれないでしょうが、人類も滅亡するでしょう。

 エイズのウイルスは、私達の身体を微生物の感染からまもるリンパ細胞で増殖して、リンパ細胞を破壊します。しかし、エイズのウイルスに感染しても症状がでるまでに何年もかかります。その間、血液、特にリンパ細胞には、ウイルスが存在しますから、性的交渉や母乳を与えることで、ウイルスはヒトからヒトに知られずに伝播され感染が拡大します。最終的にウイルスは、脳内に侵入してボケを起こします。

 生殖、出産、医療行為等の必要な行為を介して感染し、人間に簡単に駆逐されないためにウイルスの性質を変異させて拡大していく賢さに、果して人間の頭脳は勝てるのでしょうか。少なくとも現在は明るい見通しはないと言わざるを得ません。しかし、必要は発明の母と昔から言い伝えられています。現在の知識ではエイズのウイルスには勝てそうにありませんが、全人類が智恵を出し合って努力すれば、如何に賢いウイルスにも人類は勝利することができましよう。もう暫くの「叡智と実践」が必要なようです。

 現代社会においては人間も楽をして生活する知恵を探し求めているように映りますが、ウイルスもまた簡単に人間にやられてしまわないために楽して子孫を残せるしたたかに賢くなる方策を考えているかのように映ります。 

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