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96.出血熱ウイルスは生物兵器として使える?. 6-15-98.

その1.生物兵器とは.

 地域紛争に関するニュースに、化学兵器とか生物兵器という文字をみつけることがあります。サリン、マスタードガスやVXガス等は、毒性の強い化学物質です。その毒性は、使い方によっては人をも殺傷する力を発揮するので、化学兵器となり得るようです。それでは、生物兵器とは、どのような生物が兵器として用いられる可能性があるのでしょうか。

 生物兵器の生物とは、一般に微生物を意味するようです。それではどのような種類の微生物が生物兵器として可能性があるのでしょう。生物兵器として用いられるには、幾つかの基準みたいな特殊な性質を持っていることが必要と考えられます。

 人間や動物に対する微生物の性質として、ヒトからヒトに効率よく感染する(感染率が高い)こと、死亡させる力がある(病原性が強い)こと、空気や水を介して伝播される(伝播力が強い)こと、体内に侵入すると速やかに病気にさせられる(感染発症率が高い)こと、病気になると簡単には治せない(難治性疾患を引き起こす)こと、更にその地域住民や動物がその微生物に対して免疫になってなく抵抗力がない(感受性である)こと等を兼ね備えていることが必要と考えられます。それでは、どのような微生物が具体的に可能性があるのでしょう。

その2.生物兵器の候補微生物.

 エイズが世界的に広がり始めた頃、エイズを引き起こすウイルスは、どこかの国の秘密組織が考えに考えてバイオの技術で作りだし、秘密兵器の創造に成功したが実験中に逃げ出したのではないかとササヤカレタことがありました。アフリカのある村落の住民が全滅したとか、近い将来1億人の患者が発生し地球規模で人類存亡の危機だとのウワサも見聞きしたこともありました。戦略的に敵国とみなす国の滅亡を企てるのには、誠に格好のウイルスであると考えられうるからです。これこそまさに生物兵器の本質を示しています。

 「生物兵器として使える微生物候補を上げよ」といわれれば、素人の私の回答は、まずペスト菌とコレラ菌、次にエイズのウイルスと出血熱を引き起こすウイルス(複数)、更にボケを起こすプリオン等でしょう。

 数年前にインドからのニュースとして、ある地方にペストが流行して、その地区のお医者さんが患者を診ないで最初に逃げ出したというのがありました。

 ペスト菌は、北里柴三郎博士が約100年前に香港で発見した細菌です。現在細菌の病気の多くは、抗生物質で治療可能な時代になりました。しかし、ペストやコレラは、治療開始が遅れると、細菌を殺す抗生物質を投与しても菌が作り出した毒で命取りになります。 エボラ出血熱は、患者の身体の穴という穴全てから出血し、たちまちにして命を落とします。患者の血液中にウイルスが存在するので、患者や患者の血液に触れた人は、医療従事者を含め発病して死を迎えます。うつるボケを引き起こすプリオンを仮に注射でもした食肉を食べると、若者でも数年でボケの植物人間になり、現代医療でも治療する手だてはありません。

その3.最も恐ろしいエボラ出血熱ウイルス.

 「アウトブレーク」という映画を観た人は、エボラ出血熱の怖さが多少なりとも解るとおもいますが、「エボラ出血熱」がどのようにして人間社会に導入され、更にヒトからヒトに感染が急激に拡大される仕組みも良く把握されていません。感染すると助かる見込みは皆無です。このような性質の病気を引き起こす病原体は、優れた生物兵器となり得ます。

 それでは、上に記した「ペスト菌、コレラ菌、エイズのウイルス、出血熱を引き起こすウイルス(複数)、ボケを起こすプリオン」等は実際に生物兵器として利用できるのでしょうか。答えは、多分「ノー」です。

その4.生物・細菌兵器の意味するもの.

 ある駅の地下構内に不思議な装置が仕掛けられていたのを警備員が見つけ、警察が調べたところ「細菌の毒素」を噴霧する装置で、仕掛けたのはある宗教団体と判明した。このニュースを記憶している人も多いと思います。「46.世界最強の細菌」に記してある世界最強の細菌の出す毒素1グラムで人間を約2千万人程度殺せる可能性があります。この宗教団体は、この細菌の毒素を噴霧することにより、無差別に大量殺人を考えたようです。タクラミは、見事失敗に終わったようです。どうして殺人事件にならなかったのか、その理由は後にまわします。

 仮にAとBの2国が戦闘状態にあると仮定します。A国の参謀総長が、B国の一番人口密度の高い首都で生物兵器「エボラ出血熱ウイルス」の使用と、「特殊秘密部隊にその地域の飲料水源にウイルスを混入させる」と提案したとします。秘密特殊部隊の司令官は、強力な生物兵器は完成しているので実行可能と答えるでしょう。兵隊の健康を守・防疫責任者の最高司令官は、最初に「エボラ出血熱ウイルス」細菌兵器の使用の目的は何かと参謀総長に質問し、結果として「エボラ出血熱ウイルス」の使用を強く拒絶すると思われます。

 その「拒絶理由は」と聞かれ、「秘密特殊部隊の司令官が明言するように、敵国住民の大量殺人は成功する」、しかし、「占領をもって戦闘を終結させる目的の達成」は難しく、「兵員の健康被害を考慮すると、細菌兵器の使用地域に侵攻させられない」。なぜならば、「ワクチン開発は未完成、兵員はまだ免疫になっていない」、従って、「適地に部隊を侵攻させると、敵味方無関係に感染死の被害が出る」。

その5.細菌兵器の心理的な意味.

 敵国民にのみ強力な殺力を示し、自国民には全く無害なものがあれば、それは優秀な細菌兵器となり得ましょう。しかし、現実には人民を選ぶような選択力のある生物兵器は存在しないでしょう。細菌兵器は、考えとして作れますが、実用兵器としての価値は疑わしいと思います。ただ現実には、「相手に恐怖心を持たせる心理的な価値」は充分にあると思われます。

 上に記した宗教団体の場合は、全く別なオロカな話になります。強力な毒素を作る細菌を教科書に従って培養しても、ある程度まで菌を増殖させることは出来たでしょうが、ヒトを殺せる程強い毒素は簡単には作れないのです。菌数の増加と強力な毒素の産生とは全く別な反応ですから、ニワカ細菌屋に強力な毒素は絶対に作れません。細菌毒素の専門家は、長年の経験と知識から最大限に毒素を作らせる条件を心得ていますが、素人が見よう見まねで出来るほど簡単な科学ではありません。更に、この種類の毒素を空気中に噴霧し、それを吸い込ませて通行人を殺そうと考えたのでしょうが、鼻から毒素を吸い込んでも毒素としては全く働きませんから、ヒトを殺すことは最初からできないモクロミであったと思います。

その6.追記.

 細菌兵器の原稿を書いた直後に偶然にも面白い記事を見つけました。それは6月25日発行の英国の世界的に有名な科学雑誌Natureに80年前の細菌兵器のことが記載されていました。概要を紹介します。

 第一次世界大戦時に生物兵器として製造された炭疸菌入りの角砂糖がノールウェーの警察博物館の地下室から見つかった。角砂糖は2個でガラスのビンに保存されており、炭疸菌の芽胞には生きている物もあったという。

 この細菌兵器は、1971年にドイツの秘密工作員として破壊・妨害活動をした疑いで逮捕されたオットー男爵の荷物から発見された。オットー男爵は、第一次世界大戦中に、ノルウェーとフィスンランドをイギリス軍が馬そりで移動するのを妨害するため、馬に炭疸菌入りの角砂糖を喰わせて馬を殺そうとしたとみられる。

 炭疸という病気は、感染すると身体が炭のように真っ黒くなることからこような名前がつけられています。主に動物の伝染病ですが人間も感染すると死亡します。この炭疸を起こす炭疸菌は、世界で最初に病原を引き起こす細菌としてドイツのローベルト・コッホにより発見され、次にフランスのパストゥールが炭疸のワクチンを発明した、歴史的に有名な病原菌です。しかし、この記事にある80年前の細菌兵器は、実際に使われたのかどうかは判りませんが、炭疸菌入りの細菌兵器は多分実際には使われなかったのではないかと思われます。

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