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103. 寄生虫病が流行しだした. 8-14-98.

その1.桜肉の刺身は美味かった。

 先般所用で訪ねた地方で、産地特産の桜肉フルコースをご馳走になってきました。最初に生刺しが出されたので、「ウマには虫がいないのかしら」と安全確認のための質問をしました。微生物の専門家、ウマの感染症の研究者、獣医師の先生方が口をそろえて、「ウマは安全大丈夫」と断言されたので、安心して馬刺しを口にして帰ってきました。赤いから桜肉というのでしょうが、脂身が少なくとても柔らかい刺身は、珍味とでも呼ぶべき美味い代物でした。

 大学に帰って来てからすぐに、外国産の輸入桜肉と違って、「国産馬には寄生虫の感染は認められない」という記載を期待して、「馬の寄生虫」について調べてみました。馬には寄生虫が居ないのか少ないのか、どうしたことか普通の教科書などにはなにも記載されていませんでした。しかし、ゲテモノ食いによる寄生虫病という項目に「ウマやブタの生刺しで旋毛虫」と記載されているではないですか。食ってしまったのですから、後の祭りです。先般ご馳走になった馬刺しは、地元の先生方が大丈夫ということを信じることにしました。このような私個人の体験から、近年の寄生虫および寄生虫病について概略を説明します。

その2.頭からDDTを浴びせられた頃。

 私が子供であつた頃、終戦後の混乱期で食うことが最大の関心事でありました。日本全国の食糧事情や衛生状態は現在からは想像もできないほど劣悪でした。ガリオア援助と呼ばれる米国からの食料援助があり、大量の小麦粉、砂糖、脱脂粉乳などが国内に持ち込まれ、家庭や学校に配給されました。私達の学年からコップ一杯の粉ミルクが昼に出して貰えました。すぐ後の学年から学校給食が始まりました。日本人一人あたり約百ドルの援助を米国人から受けたのだそうです。

 衛生状態が悪いので、毛シラミや衣シラミが大発生していました。七福神のホテイ様のような格好をしたシラミは、ヒトから血を吸う習性があります。血を吸うとき糞をする習性があるのだそうです。シラミに食われると、とてもカユイので、その場を無意識にカイテしまい、カクことによりシラミの吸い口にシラミの糞を擦り込む結果になります。当時のシラミは、発疹チフスの病原体(リケッチアと呼ばれる微生物の仲間)を保有していましたので、シラミが発疹チフスをヒトからヒトに伝播させる原因を作っていました。米国の占領軍は、その当時としては最新の殺虫剤であるDDTを惜しげもなく、日本人に提供してくれました。私達子供もシラミ退治にDDTを頭から被せられました。この優秀な殺虫剤がいまでは環境ホルモンにリストされているのです、とても皮肉なことと思います。

 日本人には食うことが容易でない時代で、食料不足でありました。占領軍は国内で作られた農産物は一切使わず、新鮮野菜などもわざわざ米国より持ち込んで食べていたようです。なぜ国内産の農産物を食べないのかその理由は、「回虫などの寄生虫」の感染を恐れていたからのようです。国内には化学肥料も無いのですから、農業には人糞が肥料として使われていました。当時の日本人の殆どが「回虫、鞭虫、横川吸虫、その他の寄生虫」をお腹に持っていました。栄養も十分に採れない食糧不足の時に、ご丁寧にも寄生虫をお腹で養っていたのです。寄生虫の卵が食べ物を介して口から入り、腸内に定着し卵を産み、虫卵が糞便とともに排泄され、屎尿が肥料として使われ、寄生虫卵が農産物に付着し、再度人の口に入る悪循環が起こっていました。

その3.寄生虫の復活。

 上下水道の普及をはじめ食材や食品の衛生管理の徹底などから、国民病とまでいわれていた寄生虫病が激減し、その結果日本人の意識から寄生虫は消えつつあったと思います。

 ところが、世界的な傾向であるが国際交流の活発化によって、諸外国からの患者の流入、海外で感染した帰国者の増加、動植物や食料品などの輸入増や食品の流通法の変化、その他が要因となって、近年寄生虫病の増加が問題となってきたようです。特に自然食や俗にいうゲテモノ食いが流行してから新しい寄生虫病が増えているのだそうです。最近注目されている寄生虫による病気をまとめて表1に示した。

表1.注目されている寄生虫病
                                                            
新しく出現した病気
  クリプトスポリジウム症、アカントアメーバー症
輸入寄生虫病
  マラリア、赤痢アメーバー症、ランブル鞭毛虫症
ペットブームによる寄生虫病
  イヌ回虫症、イヌ糸状虫症、エコノコックス、トキソプラズマ症、
  広東住血線虫症
自然食ブームによる寄生虫症
  顎口虫症、宮崎肺吸虫症、旋毛虫症、横川吸虫症、広節裂頭条虫症

 イヌ、ネコ、トリなどのペットから人に感染する病気も増え、動物と人とが感染する病気を「人畜共通感染症」と言います。日本国内で小動物から感染する病気は、数十種類知られているいるようです。表2に人畜共通感染症の内、寄生虫による主なものを示しました。

表2.主な人畜共通寄生虫病(一部真菌症を含む)
                                               
  トキソプラズマ症、イヌ・ネコ回虫症、アメーバ赤痢、
  皮膚糸状菌症、レプトスヒラ症、クリプトコックス症

 自然食ブームやグルメブームにより、より珍しい食材を求める俗にいう「ゲテモノ食い」による寄生虫病が増加しているようです。ゲテモノ食いで感染する寄生虫は、本来動物を宿主とする寄生虫で、人体内では成虫にはなれず、幼虫のまま体内を移行するもので、病気は複雑で診断も治療もやっかいのようです。表3にゲテモノ食いによる寄生虫病をまとめてみました。

表3.俗に言うゲテモノ食いによる寄生虫病
                                              
ウマ、ブタ  生刺し     旋毛虫
クマ     生刺し     旋毛虫
ブタ     生肉、生血   有鉤嚢虫
ウシ     タタキ、生刺し 無鉤条虫、肝蛭
ニワトリ   肝刺し     イヌ・ネコ回虫
       ささみ造り   マンソン孤虫
カエル    刺身      マンソン孤虫
ヘビ     刺身      マンソン孤虫
スッポン   生血      マンソン孤虫
イノシシ   生肉      肺吸虫
モクズカニ  老酒漬け    肺吸虫
アユ     三杯酢     横川吸虫
コイ、フナ  あらい、刺身  肝吸虫
サケ、マス  刺身      広節裂頭条虫
イワシ、サバ 三杯酢、刺身  大複殖門条虫

 清潔で健康的な日々を過ごしたいために、空気清浄機、空気加湿器、24時間風呂、抗菌グッズなどを備えても、俗に言うゲテモノ食いをしていたのでは、いつどのような病気を起こす寄生虫を採り込んでしまうか判らないようです。先般ご馳走になった「馬刺し」は、地元の先生方が安全と断言したことを信じるにしても、珍味はよく吟味してお楽しみ下さい。

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