▲▲ ▼▼

109. 子供たちの自由研究. 8-27-98.

 

その1.小中学生からの質問.

夏休みにはいって小中学生から、私のホームページを通して数多くの電子メールでの手紙を貰いました。その多くは、夏休み中に行う「自由研究または一人一研究」と称する宿題に対する問題でした。私に接触してくるのですから、そのほとんどが生活に密着した微生物に関するものでした。例えば、細菌などの微生物、飲食物の腐れ、食中毒の原因、抗菌グッズの抗菌力、消毒薬と防腐剤、O157、MRSA、ボツリヌス菌、カンピロバクター、レジオネラ菌、ブリオン、プランクトンなどについて研究するのでと前置きして、各論的な質問、実験の仕方についての相談、資料の提供や情報・資料の集めかたなど、実にさまざまでした。

子供たちがこのような話題に興味を持っいること、さらに自分でインターネットを使って自分の言葉で見ず知らずの大人に知りたいことを聞いてくる勇気には、私は本当にびっくりしました(多くの大学生は疑問があってもなかなか質問はしません)。同時に難しい多くの質問を貰い嬉しい悲鳴をあげました。

 

その2.夏休みの自由研究.

夏休みが終わりに近づいた頃、ある中学生から「研究が完成しました」というメールを貰いました。その文末に、研究報告書を添付したので、読んで意見をくれと書いてありました。

子供に限らず、他人から何かを無償で教えて貰っても「アリガトウ」と感謝の意を表せない人が多い時勢のようです。ところが、この中学生の研究報告書は、内容も表記法も実に素晴らしいのですが、私に対する謝辞の言葉まで書いてあるではないですか。中学の何年生なのかも男の子か女の子かも判らないその中学生に自然と興味を抱き始めました。

夏休み特集として、少し長い文になりそうですが、小中学生の科学に対する意欲に触れてみたいと思います。それで、小学5年生と中学3年生の二人の女生徒に的を絞って、今回は例外的に実名で紹介します。実名を公表するのは、このように素晴らしい生徒さんが現実に存在することを広く知って貰うための個人紹介と本人の意欲と努力に対する報償が目的です。

 

その3.森井早紀さん.

最初に紹介するのは小学生で、愛知県刈谷市刈谷市立平成小学校、5年1組の森井早紀さんです。森井早紀さんは、今年の夏休みの一人一研究で、「食中毒」について調べました。私のHPを読んで、「カンピロバクターとボツリヌス菌の写真が欲しい」とのメールから交信が始まりました。

お姉さんが昨年食中毒になり、身体をエビのように曲げて痛い痛いと苦しむ姿を目のあたりにして、カンピロバクターによる食中毒は恐ろしいと思ったのが、微生物に興味を持った動機で、お兄さんがかって貰った顕微鏡を使わせてもらって微生物の研究からパストゥールの本を読み、微生物の実験や研究をしてみたくなったようです。4年の時には、研究をしたいとは考えたことがなかったそうです。

調べたことは、食中毒って何?、どんな種類の食中毒があるのか?、一番強い菌は何?、どうやって予防するのか?、食中毒になったと思ったらどうしたらよいのか?などてした。

図書館の検索コンピーターで、細菌や食中毒などのキーワードから食中毒の本を10冊程見つけました。資料は専門的で難しすぎるか、または簡単んすぎてどの本もみな同じような事しか書いてなかった。実験してみたかったことはたくさんあったが、例えば、腐ったもの、冷蔵庫の中、食品などを自分の目で確かめたかった。しかし、実験は何もできなかった。

調べたことはノート数冊になった。本に書いてあることからは、現実に観ていた食中毒の怖さは伝わってこなかった。結果として、「食べ物に接するときは清潔にする、安心して食べられるものかどうかを常に気をつける、できるだけ予防するのが一番良い方法など」を感じとったようです。

電子メールでのやり取りの中で、「コレダー」一番大切なことはと私が感じたのは、「ヨーグルトを顕微鏡で見て、ビックリしました」とミクロの世界に触れたときの感激が書いてあったことです。科学の実験で大切なことは、何かを見たり聞いたり触ったりした時に感激・感動する事だと思います。この感激・感動が強ければ強いほど、生徒や学生の心は動かされ、その後の人生が決まることすらあるのです。

森井早紀さん、今年の夏休みはがんばったから、良い思い出がたくさんつくれましたね。まだ観たこともない小さな生き物達の世界がそこにあります。お母さんをはじめ周りの人たちが困るでしょうけれども、何でも良くみて「これなんですか?、どうしてこうなるの?」と不思議に思ったことは、どんどん質問し、また自分でもしらべてみましょう。

 

その4.宮後絢音さん.

次に紹介するのは中学生で、神戸大学発達科学部附属住吉中学、3年、宮後絢音(みやじり あやね)さんです。今年の夏の自由研究は、「細菌対策講座」というテーマで細菌汚染について主に調べていこうと思っています。自分の実験結果と対比させる目的で、「貴方のHPに記載してある内容を使わせて貰いたいので許諾を頂きたい」とのメールが送られてきたのが7月中旬で、これが出発点となりました。(漢字の使い方や言葉使いは原文のままです。)

8月下旬に「完成しました」というメールが届き、「私なりに一生懸命やった結果です。……自由研究としてできた作品をぜひ先生にも眼を通していただければ幸いです。」とあり、テキスト形式で「細菌対策講座」が添付してありました。

添付資料を開けてビックリしました。研究報告書は、乳酸菌の電子顕微鏡写真、大腸菌群の染色写真、細菌を培養した実験結果の写真などを含み、文章も内容によって色を使い分け、表紙を別にしてA4版の用紙16枚からなっていました。私は、プリントを家に持ち帰り、いっきに読み通しました。「これほどの実験報告書は、大学2・3年生でも書けないかも知れない」と思いました。

最初のページは、「はじめに」という項目で、「堺市でのO157事件以来、細菌汚染に対して世間は敏感になった。スーパーには抗菌グッズ、抗菌効果のある石鹸や洗剤などが所狭しと陳列されている」……「我々がより賢い消費者になるためにも、本当に効果のある物を選びたいし、そもそも文房具に殺菌効果は必要なのかという疑問も解決したい」……「そこで日常的に役立つ細菌対策講座なるものを開きたい」と目的をまず述べています。次に、以下の項目が、数多くの言葉で記されています。

  1. 細菌類について.細菌類の特徴、細菌類の殖え方、細菌類の分類、役立つ細菌類、大腸菌とは、ブドウ球菌とはなどの説明.
  2. 実験編.石鹸の除菌効果、抗菌歯ブラシの効果、学校のやかんの細菌の実態などで、実験毎に目的、材料と器具、方法、結果、結果に対する考察、と最後に田口のHPに記載されている情報との比較検討など.
  3. 食中毒の予防方法の具体.予防の三原則、病原性大腸菌157食中毒の特徴と予防のポイント、サルモネラ食中毒の現状、特徴、予防のホイントなど.
  4. 最近の食中毒情報.新聞のニュースからの話題.
  5. 結論と感想.

 

注意事項は赤い字、見出しは緑の字、強調する個所は青い字などの色分け、私のHPの数字での比較は「円形グラフ」で見やすくし、理科事典から細菌類の特徴的な形態を示し、実験の材料や結果はデジタルカメラの映像を入れ、実験で失敗したときは「失敗の原因を考察」し、新聞記事に対しては「私の感想」も記載されています。

 

私の近くには中学生がいませんので、いまの中学生のことは皆目判りません。どこの中学でもこのような実験を展開できる雰囲気(先生や生徒)があるのだろうか?、実験をする器具器材や実験に要する費用はどうなっているのか?、住吉中学の理科の先生方は特別なのであろうか?、絢音さんの両親はどのような教育やシツケをしているのか?など知りたい事柄が多く生まれました。私の尺度で判断すると驚くべき中学生です。

 

宮後絢音さん、「一生懸命がんばりました、全体的に一部に消化不良の気があるのは否めません」とメールに書いてきましたが、「ヤッター」という充実感・満足感を味わえたことでしょう。最後まで良く頑張りましたね。しかし、一部実験が失敗したことなどは悔やまれるのかも知れません。一回ぐらい失敗してもアキラメナイことが大切です。これからも、宮後絢音さんにしかできない事を見つけて実行してみて下さい。

 

その5.ちかごろの小中学生は素晴らしい.

プリオン、ウイルス、ガンなどのように具体的には目では見えないものが、ヒトの身体のなかで何かをして、ひとの命を奪う現象に不思議さを感じている子供達が、予想外に多い印象をうけました。

「電子顕微鏡で脳を調べても穴がある以外なにも見えないのに、プリオンの存在はどうして判るのだろう?」と父親に質問をした中学の男子生徒がいます。父親にすれば「自分でも疑問に思っていたことで」、普通の人では当たり前のことですが、子供の質問に答えられなかった父親、「何か実験をしたい」との子供の強い願望に、手伝ってやろうにも母親としてなにも指導できないモドカシサを訴えてきた母親達、「私にできる実験を教えてください」という小学生達などと、この夏休みはメールのやり取りが結構たくさんありました.「インターネット」とは、素晴らしき革新であることを改めて確信しました。

どこの学校にもパソコンはあるらしいのでいが、とれも古くて遅くて容量が少なくて使えないらしいです。自宅でインターネットに接続しているパソコンを使える家庭の子供達は恵まれていると感じました。父親や母親がキーワード検索の方法をまず教え、次に必要と思われる情報を選び出してやる。その後は子供達の独自の世界になるようです。

メールでの交信を通して感じたことが一つあります。「詰め込み教育」、「記憶万能主義」、「厳しい教育ママ」などのキーワードを家庭環境に持ち込んでいない家庭の子供達は、「自由な発想力」、「積極的な行動力」、「不思議なことへの好奇心・探求心」などを共通して持っていることです。ここに紹介した森井早紀さんと宮後絢音さんは、偶然に知り得たのであって、その他にも素晴らしい生徒・学生は大勢いるはずです。

「子供達の理科離れ」が叫ばれて久しくなり、「近頃の子供達・若者は」と否定的な意味の発言も多い時勢ですが、「ちかごろの小中学生は素晴らしい」、「大人が環境さえ整えてやれば子供達は自由に成長する」のだと実感させられました。

 

◆追記.中学生三好さんの衝撃のレポート10-12-98.◆

 

文芸春秋の11月号に東京の中学2年生、三好万季さんの「毒入りカレー殺人 犯人は他にもいる」と題する大変な夏休みの研究として書き上げたレポートが掲載されています。去る7月25日夜、和歌山市園部の夏祭りで発生した「毒入れカレー事件」で四名が帰らぬ人となった。四人の犠牲者は本当は死なずにすんだのではないかと、事件を徹底検証した中学生の研究である。

 三好さんは、最初から砒素による毒物事件と推測していた。和歌山市の保健所長は黄色ぶどう球菌による食中毒と考えたが、ある人が出来上がったカレーを毒味した時点から事件が発生した時点までの短時間を考えて、黄色ぶどう球菌による可能性は否定される。次ぎに警察による青酸説も症状から起こり得ないと断言し、砒素である可能性を次々と明らかにしていく。砒素による毒物事件であれば、このような処置をすべきなのにと処置法までも記載し、患者を診た医師達は青酸に対する間違った処置を施した。4人は命を奪われなくてもすんだ筈と推論する。

 400字詰め原稿用紙100枚を超える大論文である。この論文の導入と展開、論理的なつめと結論への導き方、多くの漢字を自在に使った大人顔負けの表現力で、和歌山市保健所、警察、消防署、マスコミ、厚生省、和歌山医大、治療に携わった医師達などの対応の間違いと現実を見極める力不足を鋭く批判している。この論文に反論できる関係者は皆無ではないかと考えられます。とにかく凄い中学生の夏休みの研究レポートです。

 ところが、この三好さんが昨年の夏休みに研究した「ショめまして」(はじめましての意味)がまた物凄いのです。教室の長谷川先生がインターネットで探してくれました。興味のある方は、ここに記したURLに三好さんのことが載っていますから、アクセスしてみては如何でしょう。とにかく近頃の小中学生はすばらしい。

http://www2c.biglobe.ne.jp/~hosoda/memo/hajime19970930.html

▲▲ ▼▼


Copyright (C) 2011-2024 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.