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147.新感染症予防法が施行される.6-23-99.  

  1. 伝染病予防法がなくなった.
  2. いまから百年前の明治30(1897)年に制定された「伝染病予防法」がこの度大幅に改訂されて「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(114)」に生まれ変わりました。北里柴三郎がドイツから伝染病についての最新の知識と技術を持ち帰ったのが明治25年5月でした。明治25年当時は、病原性細菌による赤痢や結核などの伝染病が蔓延し、路上のいたる所に死体がころがっていたようです。現在の日本では想像も出来ないほどに病原微生物に汚染された世の中でした。北里柴三郎は、このような汚染された社会をより健康的な環境への基盤整備、更には国民を伝染病から守るために公衆衛生学の確立と啓蒙を目途に研究条件の良い欧米を離れて帰国したのでした。しかし、帰国しても伝染病の研究を展開する施設が無く、伝染病研究所を建設する国力も国策も当時の日本にはありませんでした。

    政府にだけ期待していたのでは何時まで待っても研究所は出来そうにない状況でしたから、慶應義塾の福沢諭吉は私財を持って伝染病研究所の建設を決意しました。これを聞いた森村市左衛門、その他多くの心ある先覚者達が誰からも強制されることなく自ら競って寄付に応じました。日本で最初の伝染病研究所が民間人の力によって創設されたのが明治25年11月のことであります。このへんの国内事情について興味ある方は、「北里柴三郎の秘話」の中にある「北里柴三郎の栄誉と屈辱の明治25年」をお読み下さい。

    北里柴三郎の帰国から5年後に「伝染病予防法」が制定されました。それはちょうど百年前の出来ことでした。この百歳になる伝染病予防法が平成10年3月に廃止され、新たに「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(法律第114号)」が平成10年10月2日・金曜日発行の「官報」(号外第203号)で、内閣総理大臣・小渕恵三の名で公布され、平成11年4月1日より施行されました。この法律のことを以下の本文では感染症新法と記載します。

  3. 100年間続いた伝染病予防法.
  4. 日本国憲法は制定されて半世紀、伝染病予防法は制定されて一世紀の間、一度も改訂されて来ませんでした。もうすぐ終わりになる20世紀というこの100年間は、自動車や飛行機、病原微生物やクローン動物、原子力発電や環境ホルモン、その他無数の事例でも明らかなように、私が言うまでもなく科学の分野では爆発的な技術革新や驚くべき大発見・発明などの勃興期でありました。

    百年前の赤痢全盛時代とエイズが血液製剤などの医療行為によりうつされた時代では、伝染病・感染症の種類も内容も様がわりしています。改訂する必要性の有無とは別に、日本国では一度制定され公布された法律は余程のことが無い限り変え難いように思われます。どうしてなのでしょうかとても不思議でたまりません。

  5. 感染症新法で何が変ったか.

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律が掲載

されている官報は号外で、「本号で公布された法令のあらまし」という項目からはじまります。目次を作ってみました。

  1. 前文。おおよそ次ぎのようなことが記載されています。「ペスト、コレラ等の感染症を根絶することは正に人類の悲願であるが、感染症は新た な形で今なお人類に脅威を与えている。(中断) 過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等にいわれのない差別や偏見が存在した……、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため、この法律を制定する。」となっています。
  2. 基本理念。
  3. 国及び地方公共団体の責務。
  4. 国民及び医師等の責務。
  5. 定義等。
  6. 基本指針、予防計画及び特定感染症予防指針。
  7. 感染しように関する情報の収集及び公表。
  8. 健康診断、就業規則及び入院。

10.消毒その他の措置。

11.医療。

12.新感染症。

13.感染症の病原体を媒介するおそれのある動物の輸入に関する措

置。

14.費用負担。

15.その他。

16.施行期日等

次に「検疫法及び狂犬病予防法の一部を改正する法律(115号)に続いています。大きな変更点に、この法律の名称中にも具体的な文字として表現されているように、患者の人権に配慮してある点が一つ挙げられます。

私共のように微生物学を専門にする者にも深くかかわる事柄ですが、感染症を危険度から分け、その対応をきめ細かに定めてあることです。感染症を一類から四類までの四感染症に分類し、更に指定感染症と新感染症の二群を追加してあります。この分類とその正確や費用等のことも含めて下の表に纏めてみました。

 

感染証明 性 格 対 応 医療費負担 

一類感染症:

エボラ出血熱 危険性が極め  原則入院 医療保健適用

クリミア・コンゴ出血熱          て高い感染症 残額は公費で負担

ペスト                   

マールブルグ病            

ラッサ熱                  

二類感染症:        

急性灰白髄炎              危険性が高い 状況によ 医療保健適用

コレラ                    感染症 って入院 残額は公費で負担

細菌性赤痢               

ジフテリア                

腸チフス                 

パラチフス                 

三類感染症:         

腸管出血性大腸菌感染症        特定の職業へ 特定職種へ 医療保険適用

の就業により、 の就業規制

危険性は高く

ないが、集団

発生を起こし

うる感染症

 

四類感染症:         

インフルエンザ              発生・拡大を 発生状況の 医療保険適用

ウイルス性肝炎              すべき感染症 公開と提供

黄熱                    

Q熱                     

狂犬病                   

クリプトスボリジウム症          

後天性免疫不全症候群        

性器クラミジア感染症          

梅毒                    

麻しん                   

マラリア                  

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症

その他                   

指定感染症:

1-3類に準じた 1-3類に準じ

対応の必要が た入院対応

生じた感染症、

政令で1年指定

新感染症:

既知の感染症と 1類感染症 全額公費

異なり、危険性 に準じた対

が極めて高い 応

感染症

 

更にインフルエンザからその他までの13疾患を含む四類感染症については、情報を収集して公表することになっています。私は個人的にこの情報を定期的に購読しています。

普及版を購読することも出来ますし、場合によってはホームページから読むことも出来ます。興味のある方に参考までに下に資料を書き添えます。

 

病原微生物検出情報(月報)、普及版、

発行所:予防医学推進センター、

TEL:03−3200−6752 、

FAX:03−3200−5206、

HPのURL:http://idsc.nih.go.jp/iasr/index-j.htmlです。

 

感染症の予防に関する新しい時代の幕開けです。国民の責務にも記載がありますので、興味在る方は先ずHPから公表されている情報を一度調べてみて如何でしょうか。

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