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152.今日的感染症の原因菌.8‐1099.

@.話題の病原菌.

 新聞をはじめとするマスコミに食中毒や院内感染などの言葉がしばしば現われるようになりました。厚生省も最近になって、結核患者が増えているとの警告を発した。これらの背景から、今話題になっている病原性細菌についての質問が増えてきました。それで、現在話題になっている院内感染や食中毒の原因菌:結核菌腸球菌セラチア菌腸炎ビブリオ大腸菌157腸管毒素原性大腸菌志賀赤痢菌サルモネラ菌などについて簡単に説明します。掲載する順位は、私が勝手に決めたもので、疾患や病原性とは関係ありません。

A.結核菌とは.

 昔から死亡率が高く、一旦感染すると殆ど助からないということで恐れられていた結核という病気の原因菌です。北里柴三郎の師であるローベルト・コッホ(Robert Koch1882年に結核菌を分離しました。グラム陽性の桿菌で、芽胞、莢膜、鞭毛を持たない細長い細菌です。グラム陽性とはいっても、細胞壁に多量のワックスを含んでいるので、普通の染色法では染まりにくいので、特別に加温しながら染色するチール・ネルゼン法が用いられます。逆に、一旦染色されると酸やアルカリの脱色液等でも脱色されにくいので、抗酸性菌(Acid-fast bacillus)とも呼ばれます。酸やアルカリに抵抗性であることは、消毒薬や有機溶媒による処理にも強い抵抗性を示します。空気が無いと増殖できない絶対好気性細菌です。人工的な栄養分では他の細菌(ブドウ球菌や緑膿菌では1520分に1回分裂します)などに比べると分裂速度が遅く(2〜3回/1日)、培養に時間がかかり、大体一ヶ月を必要とします(ブドウ球菌などは、夕方培養すると、翌朝には集落が観察できる)。結核菌の感染は、多くが吸入による感染で、周囲にいて菌を排出している健康保菌者などが感染源となります。結核菌が肺に達し、そこで定着すると初感原発巣を作り、更にそこから血液やリンパ液に入り全身に移行し、各種の臓器などで病変を起こす。結核菌は一般的な細菌と違い、細胞内寄生性菌といって、感染症を防ぐ為に体中に入ってきた細菌などを見つけては貪食し、殺してくれる白血球やマクロファージなどの食細胞の中でも直ぐに殺されることは無く、逆に食細胞の中でも増殖できる細菌です。現在結核菌に感染しているか、又は以前に結核菌に感染して免疫が出来ているかを、ツベルクリン反応(ツ反)で調べ、もしも、免疫が出来ていなければ、BCGBacillus Calmette et Guerin; カルメット・ゲラン菌;ウシ型結核菌を長期間人工培地で継代培養して病原性を弱めた生きた細菌)を接種して、人工的に免疫を作る必要があります。感染・発症しても現在は有効な化学療法剤があり、2種類あるいは3種類の異なった作用をもつ化学療法剤を併用することにより、薬剤耐性菌の出現を抑えながら、薬剤の量も少なくて済むような治療法が行われている。日本では第二次大戦後、着実に患者数や死亡者数が減少し、現在では忘れ去られた病気のように思われていますが、老齢者や若者に結核が急増しています。その訳は、免疫力の低下に起因します。例えば、小さいときにBCGを接種して免疫となっていた人も10数年も経過すると、その免疫力も低下します。そのため、結核に感染する人が年間数万人にも達するようになりました。また免疫能の低下しているエイズ患者などで結核を発症する例が急増しています。世界的には、薬剤耐性の結核菌に感染した結核患者が増加しています。

B.腸球菌とは.

 昔はレンサ球菌に分類されていましたが、現在は糞便レンサ球菌Streptococcus faecalis)とも呼ばれます。レンサ球菌の中で血清学的な分類ではD群に含まれていたが、1984年に新しく腸球菌属として独立しました。この菌は、他のレンサ球菌とはかなり性状が違っています。肺炎レンサ球菌のような血液を溶かす溶血性は無く、好塩菌のように6.5%の食塩の存在下でも増殖し、更にコレラ菌のようにpH9.6の栄養液中でも発育し、薬剤にも抵抗性のある丈夫な細菌です。連鎖状に連なり、連鎖の方向に少し膨らんでみえる楕円形の球菌で、鞭毛を持たない為に運動性はありません。ヒトや温血動物の糞便から検出され、尿路感染症や感染性心内膜炎の患者からも検出される事もあります。

C.セラチア菌とは.

 別名“霊(れい)菌”と呼ばれる細菌で、イタリアの物理学者のセラッチSerratiにちなんでセラチア菌(Serratia marcescens)と命名されました。動物の死骸などから良く分離されることから、日本語では霊菌と呼ばれます。大腸菌などと同じくグラム陰性の通性嫌気性の桿菌で腸内細菌科に分類される細菌です。菌体の周囲に鞭毛を持つ運動性のある小桿菌で、細菌の中では最も小型な細菌に属します。身の回りの環境中至るところに存在する雑菌の一種で、通常はあまり病気を起こす細菌としては重要ではありませんが。しかし、抗生物質に耐性菌が多く、日和見感染菌院内感染菌や菌交代症などの代表的な菌となっています。特に病院内のネブライザーやカテーテルなどの医療器具を介して感染することがしばしばあり、敗血症、尿路感染症や肺炎などの原因となり、抵抗力の弱い患者は注意をしなければ成りません。一旦セラチア菌の感染を受けてしまうと、ペニシリンを始め多くの抗生物質に抵抗性を示すので、治療が困難な難治性の細菌感染症となる場合が多いようです。手洗い洗浄液やシャンプーなど、コンタクトレンズの消毒薬や保存液がこの細菌に汚染されていることは珍しくなくありません。

D.腸炎ビブリオとは.

 1950に大阪府で発生した食中毒事件の際に、当時大阪大学で教授であった故藤野恒三郎が発見した細菌です。コレラ菌と同じビブリオ属に属するが、菌体はコンマ状に湾曲せず真っ直ぐです。グラム陰性通性嫌気性桿菌で、海水中に生息しており、増殖には3%の塩分の存在が必須で、塩分濃度が0.5%以下では増殖できない性質の細菌です。鞭毛はあるが、莢膜や芽胞は作りません。本来海水中の細菌なので、刺し身などの海産物を生で食べる習慣のある日本では、特に夏の時期を中心に多発する食中毒の原因菌です。ここ4〜5年は腸管出血性大腸菌や腸炎菌による食中毒が多発し、発生件数や患者数での首位は奪われましたが、今でも重要な食中毒の原因菌である。腸炎ビブリオによる食中毒は感染型食中毒で、この細菌で汚染された生の海産物を食べると、腸管内でこの菌が増殖し、耐熱性で溶血作用や致死作用をもつ外毒素の溶血毒素が産生されます。腸炎ビブリオによる食中毒では、この溶血毒素を産生する株のみが病原性を示すと考えられています。菌によるこの耐熱性溶血毒の産生の有無を調べる方法として、神奈川衛生研究所が開発した神奈川現象があります。これは、ヒト赤血液とマンニットという糖を加えた我妻培地に調べたい菌を塗ると、この毒素を産生する株では溶血が見られ(神奈川現象陽性)ますが、毒素を産生しない株では溶血が起こらないことから容易に判定できます。

E.大腸菌とは.

 大腸菌(略してE.coli)は、赤痢菌やサルモネラ菌と同じく腸内細菌科に属するグラム陰性の桿菌です。多くの菌は周毛性の鞭毛を持ち、活発に運動します。赤痢菌やサルモネラ菌などの腸内細菌科の細菌と区別しうる生化学的性状として、多くの場合大腸菌は乳糖を分解する性質があります。大腸菌は、耐熱性のO抗原(菌体抗原)、易熱性のK抗原(莢膜抗原)H抗原(鞭毛抗原)により分類されます。大部分の大腸菌はヒトに病原性を持たないが、一部病原性を示すものがあります。病原性のある大腸菌は、1)腸管病原性大腸菌(EPEC)、2)腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)、3)腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、4)腸管出血性大腸菌(EPEC)と5)管付着性大腸菌(EAEC)の5群に分類されます。この中で、腸管出血性大腸菌O157H7赤痢菌と同様に志賀(ベロー)毒素を産生し、1996年に大阪府堺市でおきた学校給食による集団食中毒で有名になりましたが、ほかの大腸菌も、様々な外毒素を産生し、色々な病気を起こす事が知られています。又、大腸菌は遺伝子レベルでは赤痢菌と非常に近く、研究者によっては大腸菌の中に赤痢菌を含める場合もあります。

F.157とは.

 大腸菌の一種で、ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌(Vero-toxin producing E. coli ;VTEC、最近は志賀毒素産生性腸管出血性大腸菌Shiga-toxin producing E. coli ; STECという表現が専門的には一般的です)の代表的な細菌です。ヒトの糞便には1グラム当たり約1012(1兆個)の細菌が含まれ、その3分の2が細菌であると言われています。糞便に検出される大部分の細菌(99.9)は、酸素があると増殖できない偏性嫌気性菌で、残りの0.1(109個:10億個/グラム)は酸素があっても無くても増殖できる通性嫌気性菌で、その多くを大腸菌が占めています。大腸菌は、通性嫌気性のグラム陰性桿菌で腸内細菌科の細菌の一つで赤痢菌やサルモネラ菌と近縁の細菌です。大腸菌という名前は、偏性嫌気性菌の培養技術が発達する前は主に大腸から生きて検出された菌という事で名付けられました。大腸菌には多くの種類が知られていますが、大部分はヒトや動物には病気を起こさない(病原性を持たない)。大腸菌の分類は血清学的分類という、細菌を構成している種々の物質の成分や構造の違いで決めているが、O157H7は菌体抗原(O抗原)と細菌の運動性の器官である鞭毛抗原(H抗原)が、O抗原に対する157番目の抗血清とH抗原に対する7番目の抗体を含む抗血清と反応するという意味です。この細菌による感染症は、主にアメリカやヨーロッパで報告され、この細菌で汚染された牛肉や、その牛肉に間接的に接触した食物を介して感染が起こります。日本では1990年の埼玉県浦和市の幼稚園で268人が発症し、2名の園児が亡くなった際に、使用していた井戸水からこの細菌が検出されました。この細菌が一躍全国的に有名になったのは、1996年に大阪府堺市で汚染したカイワレ大根を使った学校給食で多数の患者が発生し、全国でも1万人以上の人が発症して12人が亡くった食中毒である。1998年に入っても、汚染した「いくらの醤油漬け」による食中毒が発生するなど、相変わらず本菌による食中毒は多く発生しています。本菌は新たに指定伝染病(食中毒)として指定された腸管出血性大腸菌症(食中毒)の原因菌で、その特徴は赤痢菌と同一の外毒素(志賀毒素、又はベロ毒素)を産生し、ベロ毒素産生性腸管出血性大腸菌(VTEC)と呼ばれるが、外国では一般に志賀毒素産生性大腸菌(STEC)と呼ばれます。少量(100個以下)の菌を食物と共に経口的に摂取しても感染が成立し、比較的潜伏期は長いが腸管内で増殖して志賀毒素を産生して出血性の下痢を起こします。時にはその毒素が血液に入って全身に回り、腎炎や脳炎などを引き起こし死亡する事もある。

G.腸管毒素原性大腸菌とは.

 大腸菌の中でも、加熱に弱い易熱性腸管毒素(60℃、10分の加熱で毒作用がなくなるコレラ菌の産生するコレラ毒素と同じ毒素)と耐熱性腸管毒素(100℃、30分の加熱でも毒作用が変らない毒素)の2種類の腸管毒素(エンテロトキシン)を産生し、コレラと同じような感染症を引き起こす菌を呼びます。特に「旅行者の下痢症」は、このETECが原因となることが多く報告されています。細菌としての特徴は、大腸菌を参照してください。食中毒の原因菌としても多く報告され、輸入伝染病として報告されている件数の中では最も多いのが特徴です。

H.志賀赤痢菌とは.

 赤痢菌(Shigella)は、1898伝染病研究所(現在の東京大学医科学研究所)で、北里柴三郎の下で研究していた志賀潔が、国内で大流行していた赤痢患者から純培養に成功した赤痢の原因細菌です。菌名は分離者の志賀(Shiga)に由来します。赤痢菌は、サルモネラや大腸菌と同じ腸内細菌科に属し、通性嫌気性のグラム陰性桿菌です。赤痢菌の遺伝子DNAは、大腸菌の遺伝子と区別が難しい程非常に近い関係にありますが、性状に関しては大腸菌と違い鞭毛を持たず運動性が無いなどの違いがあります。赤痢という病気を起こす細菌は、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)の他にフレキリネル赤痢菌(S. flexneri)、ボイディー赤痢菌(S. boydii)とソンネ赤痢菌(S. sonnei)4種類が知られています。志賀潔が研究していた当時は、志賀赤痢菌が流行の中心でしたが、日本で現在流行しているのは主にフレキリネル赤痢菌とソンネ赤痢菌であり、しかもその半数は輸入伝染病として海外旅行者が国内で発症する例のようです。赤痢はヒト以外ではサルにしか感染しないので、詳しい感染・発症の機序は良く解りませんが、本菌に汚染された食品や水を介して糞口感染です。輸入したサルをペットとして飼っていた男性が、サルから赤痢をうつされて発症した例もあります。発症する場合、腸管の粘膜に潰瘍や膿瘍ができ、それが破れて血液や膿が出て下痢の中に混ざります(粘血性下痢)。この潰瘍や膿瘍の形成には本菌による外毒素である志賀毒素の産生が重要な役割を担っています。志賀毒素は、腸管出血性大腸菌(O157H7)もこの毒素を作る遺伝子をもっています、発症に重要な役割を担っている毒素でベロ毒素と呼ばれることが多いようです、同じ毒素を赤痢菌と腸管出血性大腸菌が作ります。

I.サルモネラ菌とは.

大腸菌や赤痢菌などと同じ腸内細菌科に属するグラム陰性の桿菌です。菌体の周囲に鞭毛があり、活発に運動します。白血球やマクロファージなどの捕食能のある食細胞に貪食されても、その細胞内で殺されるどころか増殖します。これを細胞内寄生性菌と呼びます。多くの動物もサルモネラ菌を保有し、2000種以上に分類されます。現在は新しい分類法が提唱され、ヒトに病原性のあるサルモネラ菌は亜属Tに統一され、他の動物や生物に病原性のある株は別の亜属に含まれます。この菌の中には、ヒトにチフス症を起こす菌や食中毒を起こす菌などもあり、ヒト以外の動物などでも色々な病気の原因となります。同じ菌でも宿主となる動物によっては、引き起こされる病気が異なる場合があります。例えば、ネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)腸炎菌(S. Enteritidis)は、ネズミではチフス症を起こしますが、ヒトでは食中毒の原因となります。

 近年サルモネラ菌、特に腸炎菌で汚染した鶏卵による食中毒が全国的に発生しています。 日本で飼育されているニワトリのヒナは、殆どがアメリカから輸入されているが、アメリカ産の鶏そのものがある程度の割合で腸炎菌に汚染されているようです。その結果、鶏卵の10002000個に一個は卵黄に菌が検出され、日本でも鶏卵を介して腸炎菌による食中毒が起こります。 実際、腸炎菌で汚染された鶏卵で作った生クリームを使ったテラミス・ケーキや、汚染した鶏卵で作った錦糸(金糸)卵を食べて多くの人が食中毒になっています。しかし、腸炎菌による食中毒は、O157(腸管出血性大腸菌)による食中毒と違って、一度に大量の(108個以上)の菌が入らないと発症しないので、卵を用いた料理の場合には十分に熱を加える事が予防の第一歩となります。新鮮な卵では菌がいても菌数が少ないので、直ぐに調理をしない時には冷蔵庫に保存をするなどの注意が肝心です。また、変ったところではアメリカから輸入したサルモネラに汚染されたミドリガメを介して感染した例も知れらています。

 細菌による感染症は、原則として抗生物質などの薬剤で治療が可能と考えられるので、これが拡大解釈されて、全ての細菌性感染症が怖くないと誤解されているようです。10個程度のO157菌でもヒトに感染が起こりますから、O157は細菌兵器なみの毒力があるのです。

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