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175.「インフルエンザの経済被害」の影響.11-18-99.

  1. インフルエンザのインパクト.
  2.   インフルエンザが次ぎに大流行を起こした場合、どの程度の被害が予測されるかについて米国の調査結果を「インフルエンザの経済被害」というタイトルで紹介しました。そのなかで、次ぎの大流行では国民の15%から20%がインフルエンザに罹るらしいこと、そのときの経済的な被害は莫大であるらしいと書きました。

      もう一度その予測被害をまとめて示しますと、次ぎのようでありました。計算をやさしくするために、1ドルを100円、日本人口を1億人として換算しました。そのため米国の予測値を人口比率から単に半分にした数値を日本での予測値として記載しました。

    表 インフルエンザの被害予測値

    アメリカの被害 日本の被害

    死亡者数 89,000-207,000人 44,500-103,500人

    入院患者数 314,000-734,000人 157,000-367,000人

    外来患者数 18,000,000-42,000,000人 9,000,000-21,000,000人

    経済的被害 71,300億-1,466,500億円 35,650億-733,250億円

      これら数値を知らなかったこと、更に予想外に大きな数値に驚いた人が多くいたようです。これらの数値をホームページに掲載した途端、マスコミ関係者を含む多くの方々からメールや電話を貰いました。本当にワクチンで被害を抑制できるのか、米国の数値を半分にした日本の予測値は小さすぎるのではないか等、疑問に思う事柄についての質問や説明を求めるものでした。

  3. 日本の予測値をどのように考えるか.
  4.   インフルエンザのワクチンは、ニワトリの卵で増殖させたウイルスを殺して作る死ワクチンで弱毒したウイルスを用いる生ワクチンではありません。そのため強い免疫を与えるためにワクチンは2回に分けて注射する必要があります。

      2回分のワクチンの接種費用は、1人分を6,000円と仮定しました。全国民の60%に相当する6,000万人にワクチンを接種するには、3,600億円の先行投資が必要となります。ワクチンを接種しないために約20%の国民がインフルエンザに罹ってしまったと仮定すると、そのとき国としての経済的な予測被害額は、3兆5,650億円から73兆3,250億円になります。「3,600億円を投資してくだされば、最低その10倍の3兆5650億円から最大200倍の73兆3250億円のハイリターンが保証されます」という意味のことを判ってもらう情報を提供したのでした。

      多く頂いたご意見の1つに、日本と米国では人口数の違いよりは人口密度、日常の交通手段や国土面積等の違いの方がより有意に異なると思われるから、米国の予測値より被害総額は日本の方がより甚大となるのではなかろうかとありました。ごもっとものご意見と私もほぼ同感です。

      人口は米国の約半分としても国土が狭い分人口密度が高く、毎日の通学通勤に満員の電車やバスを利用する日本では、ウイルスの人から人への伝播効率は必然的に高くなりましょう。別な表現で例をあげれば、二千万人の患者が出るまでに要する期間は、日本の方が米国よりはるかに短期間であると考えられ、その結果病院を訪れる患者数も急激に多くなりましょう。

      日本での死亡者の数は、最大で約十万人と予測されます。しかし、ブタ型ウイルスによるスペイン風邪の流行のとき、人口は現在よりはるかに少なかったでしょうが二十万人とも三十万人ともいわれる死亡者が出たようです。衛生状態や栄養状態は今よりかなり悪かったでしょうが、老齢者の数は今のほうがはるかに多い筈です。老齢者は抵抗力が弱いグループ(ハイリスク群)でウイルスのターゲットになり易く、老齢者が多いことは死亡者を多くする要因となります。そのため、予測値としての十万人の死亡数は最大値ではない可能性がおおいにあります。

      日本全国の医療施設には百万床のベッドがありますが、常日頃より少なくても八割、病院によっては全ベッドが使われています。多分十万ベット位しか空きがないと思われる所に新たに36万人の患者を収容する事態が起こり、二千万人の感染者が医療施設を訪れても医師や看護婦を含む医療従事者も感染して患っているのですから、通常の診療業務は行えきれなくなっていると思われます。いかに重態であっても入院させてもらえる施設はなく、医療施設までたどり着いても診察して貰えない混乱状態に陥る可能性も考えておかなくてはなりません。自宅で看病したした人が次ぎに看病してもらうことになりましょう。

  5. ワクチンが不人気なわけ.
  6.   ワクチンは本当に有効なのでしょうか、ワクチンは効かないと不人気なのはどうしですか、ワクチンが不足しているのはなぜなのでしょうか等の質問も多く貰いました。

      昨年あたりからインフルエンザのワクチンにたいする社会の認識は少し変わってきていると思われますが、なぜ不人気なのかを考えてみたいと思います。インフルエンザのワクチンに限らず完璧なものはこの世にないでしょうが、使用されるワクチンの有効性と安全性は国家が実施する検定試験(国家検定とよびます)に合格しています。国家が有効性を保証しているのですから、「百害あって一利なし」ということはありません。

      インフルエンザのワクチンは、二回に分けて接種する必要があります。ワクチンの注射を受けたのにインフルエンザに罹ってしまったから、ワクチンは効かないと云う人がいます。しかし、2回目のワクチン接種の前にインフルエンザウイルスの感染を受けてしまった人、またはワクチンに反応が弱い人などは、免疫が充分てない可能性がありますから、その人達は感染して発症してしまうでしょう。ワクチンが効かなかったのではなく、ワクチンを接種する時期が遅すぎた可能性もあります。

      タマゴにアレルギーの人は、ニワトリのタマゴで作ったインフルエンザのワクチンに反応する可能性があります。米国ではワクチンにより傷害を受けた場合は、それなりの補償をする制度が確立しているようです。ここで大切なのは、損害を補償する制度が確立しているということは、ワクチンにより傷害を受ける可能性を事前に認めていることを意味します。少し前までの日本では、ワクチンの被害を政府はなかなか認めようとせず、情報を公開せずに隠蔽する傾向があったと思われます。そのため、ワクチンの安全性に対する不信感が生まれたのではないでしょうか。

  7. 集団免疫の意味.

  風疹のワクチンは、妊婦が風疹に罹ると生まれてくる赤ちゃんが難聴などの先天性傷害を受けるのを防ぐ目的で行われます。これは個人を守ることが目的なので、個人免疫と呼びます。一方、インフルエンザは、多くの人が一斉に感染するのが特徴で、流行しだすと学級を閉鎖して更なる感染の拡大を防ぐ措置もとられます。インフルエンザのワクチンは、集団の感染を防ぐ目的でおこなわれ、これを集団免疫と呼びます。ある集団の60%が免疫であれば、個人として感染する人はいるかも知れませんが、大流行を起こすことはないと考えられています。

  高齢者などの抵抗性の低いハイリスクの人達がインフルエンザに罹ると生命を奪われることもあります。健常者の集団であっても2割程の人がインフルエンザで寝込む事態になると、その組織は集団としての機能を維持することは難しくなります。集団の機能を維持するために集団免疫が必要と考えられて、ワクチンの接種がおこなわれいます。しかし、現在インフルエンザのワクチンは、強制接種でなく自由接種ですから、ワクチンを受けるのは個人の意志に任されています。そのため、ワクチン接種率が世界的に例をみないほど極端に低下してしまいました。

  A型インフルエンザの予防や治療に有効なアマンタジンという薬があります、また近いうちに感染した後に用いても有効なザナミビルという新薬が売り出されるようです。この新薬を服用(吸引)すると倦怠感や発熱なとの自覚症状が2日ほど短縮されると米国では報告されているようです。その2日間ほどの有病日数の短縮は、家族間の感染拡大を防ぐ意味もあり、その経済効果は数兆円に相当すると米国は判断しているようです。ワクチン接種の代わりに新薬の服用も結構と思われますが、数千円(販売価格は不詳)の薬代が必要となります。

  3,600億円を投資すると、1年間でその10倍の見返りが期待できる企画があったとすると、その事業を実施しない企業があるでしょうか。戻ってこない可能性のある金融機関への特別融資のごく一部をワクチンの費用に廻せば、インフルエンザの次ぎの大流行を心配しなくても済みますし、莫大な経済被害を未然に防ぐことができましょう。

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