181.高齢者へのインフルエンザ対策.1-28-2000.
ロンドンでインフルエンザが猛威をふるっている様子がマスコミでも報道されている関係から、インフルエンザワクチンについての質問や疑問が多く寄せられるようになりました。「179番 <インフルエンザで病院がマヒ>」の項目でロンドンにおけるインフルエンザの惨状を紹介しました。 欧米では日本よりワクチン接種率が比較にならないくらいに高いと思われるのにどうして大流行がおこるのでしょうか、イギリスでのワクチン接種率はどの程度なのでしょうか、子供や高齢者がウイルスのターゲットになぜなるのでしょうか、ワクチンを接種したのに感染したがワクチンは本当に効くのでしょうか、などが主な疑問点です。 「ワクチンを接種したのに感染したのはなぜでしょうか」という疑問に対して正確に答えるのは非常に難しいことです。考え方や可能性としては、いろいろなことがありましょう。しかし、ひとりひとりの状況や内容を詳細に調べなければ、臨床のお医者さんを含め誰もが適切に応えられません。 イギリスでのワクチン接種率はどの程度になっているのか、またどうしてこの冬ロンドンで大流行が起こっているのかなどについては、私個人も知りたい疑問点であります。来年になれば、今年の流行の結果は何かに報告が載りましょうが、どうして大流行が起こっているのかについては、少し調べようと思っていました。例えば、日本でワクチンに使われるウイルスとイギリスのウイルスは同じか違うのか、イギリスでワクチン製造に使われているウイルスと流行しているウイルスの型は同じか違うのか、イギリスでの人口当りのワクチン接種率はどの程度高いのかなどは、調べようと思えば判る内容です。ちょうどそのような折に適切な新聞記事を見つけました。この記事を読まれた方も多いとは思いますが、まだ知らない人達もいるかと思い原稿を書き出しました。 読売新聞の朝刊に「解説と提言」というコラムがあります。1月27日発行の「解説と提言」のひとコマに「高齢者インフルエンザ予防接種、国が『勧奨』へ」という記事が「解説部・南 砂」と署名入りで掲載されています。上に書いたように私個人も含めて一般の方々の疑問点に応える内容が盛り込まれていますので、その概略を紹介しようと思います。最初に紹介するのは、各国のワクチンの配布量(製造量)についてです。
次ぎの表のレイアウトは後日修正します。
国 別 ワクチン 国による接種勧告の有無 国または社会保険 配布量 65歳以上 基礎疾の による費用負担 ml* の高齢者 患患者 アメリカ 120 ○ ○ ○ カナダ 75 ○ ○ ○ フランス 60 ○* ○ ○ イギリス 51 ○ ○ ○ 韓国 4 ○ × ○ ドイツ 40 ○ ○ ○ 日本 4 × × × 日本 15*
*:98年から75歳以上。 *:平成11年度の配布量を示します。田口が追記した。 この表に書かれている数値から、人口1000人に対するワクチンの配布量は、最高のアメリカでも120人分、イギリスでは51人分であることが判りました。この資料にある数値は、1995年の実績であるようですから、今年はもう少し大きな数値になつている可能性が充分に考えられます。米国の今年の製造量は、人口の三分の一に相当する9000万回分だそうです。一方、日本の場合は1995年では僅か4人分、今年は4倍高くなって15人分(350万回接種分、175万人分)であります。 イギリスにおけるワクチンの今年度の配布量は、正確には判りませんが、1995年度の実績の4倍になっていると仮定しても200人分程度と推測されます。ある集団で60%の人達がワクチン接種を受けていれば、その人集団では大流行は起こらないはずです。今年度ロンドンでインフルエンザが大流行しているのは、やはりワクチン接種者の割合が少ないことに原因するのだと思われます。 B.予防接種法が改正される。 【「無防備」脱却が急務 対応、各世代に拡大を】という見出しで、「高齢者に対するインフルエンザの予防接種を、新たに法律の対象とするよう、予防接種法が改正それる見通しとなった。」と囲い文が最初にかかれています。続く本文は次ぎのようであります。 厚生省の公衆衛生審議会は、高齢者へのインフルエンザ予防接種を国は積極的に勧奨すべきだという意見書を1月26日に厚生大臣に提出した。この背景には、ワクチンが最大の防御手段であるにもかかわらず、依然として無防備な日本の現状がある。 米国のCDCによれば、ワクチン接種を接種すると、高齢者では、入院のリスクは二分の一、死亡のリスクは五分の一、65歳未満の健康者でも発病のリスクが五分の一に減る。国が高齢者への接種を勧告し、公費負担となっている。感染を防ぐ免疫系は、20歳を頂点に激減し、その免疫系の機能はピーク時に比べ、40歳で5割、70歳で1割になる。高齢者がウイルスの標的になることは必至だ。 アメリカでは今冬国民の三分の一にあたる9000万人分のワクチンを製造した。軍隊が1週間ダウンした場合などの危機管理もしている。インフルエンザウイルスの世界への波及がわずか4日という今日、いたずらに恐怖感を募らせる必要はないが、法改正を真に有意義なものにするためには、各自が健康に事故責任の認識を持つことも不可欠だ。これが、解説部の南氏の報告であり期待であります。 C.ウイルスの変異は防げないか. ワクチンの効果は、免疫学的な反応に立脚していますから、免疫抗体が充分に存在している人でも侵入してくる抗原であるウイルスの型と合わなければ、なんの役にもたたない訳です。今年の冬は、このような抗原のウイルスが流行するであろうと国の責任機関が科学的なデータに基づいて推測するのですが、予測通りのウイルスが流行るとは限らないのです。なぜインフルエンザウイルスやエイズのウイルスは、簡単に変異するのでしょう。この疑問は、送られてくる質問にも多くみうけられます。 WHOの感染部をはじめ実に多くの科学者がこの疑問に応えようと日夜努力しています。しかし、これらのウイルスは人を欺くかのように変幻自在に振る舞っています。ウイルスの変異は、科学的にも大変に面白い研究課題ですが、社会的にも経済的にも公衆衛生学的にも明らかにすべき大問題であります。人の智恵がウイルスの小さな遺伝子を打ち負かす日がいつかは来るでしょうが、それはいつになるのでしょう。 今冬のインフルエンザ様患者の発生状況は、余ほどの寒波が到来しないかぎり、昨年と似た経緯をたどらないかもしれません。昨年と同じように百万人を超える患者が発生する可能性は低いかも知れません。2月頃がインフルエンザのピークです。体力を維持し健康でこの冬を乗り切れるようにガンバッテください。 |