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190.細菌の増殖と味覚.472000.

1.細菌は食塩と砂糖を要求する。

  少し難しく表現すると、細菌を増殖させるために用いる人工的に作った栄養環境・媒体を培地と言います。簡単に言うと私達人間が好んで摂るブイヨンやスープの類いのことを培地と呼びます。細菌を増殖させるために用いる液体の培地で一番簡単な処方のものを、フランス語でブイヨン、ドイツ語でズッぺ、英語ではブロスと呼びます。日本国内では、どうした訳かスープと呼ばずにブイヨンと言います。これは培地の基本となりますので基礎培地とも呼ばれます。大腸菌などの多くの細菌は、ブイヨンでも良く増殖しますが、しかし、これは基礎培地ですから、全ての細菌が増殖するには栄養素が少し不足気味となります。

  液体培地の作り方を調理に例えると、適当量の水に砂糖と塩を少々、スプーンで肉のダシと酵母のエキスなども少々加えた後、高圧釜か蒸し器でふきこぼれないない程度に加熱するとできあがります。これを多少科学的に表現し直すと、イオン交換樹脂のカラムを通した脱イオン精製水(一昔前までは蒸留水を用いました)に食塩0.5%、ブドウ糖0.1%、肉エキス1%(肉や大豆などからとったダシ汁を煮詰めたもの、成分としてはアミノ酸やアミノ酸の複合体)と酵母エキス0.5%(酵母から作ったダシ汁を粉末にしたもの、成分としてはビタミンや核酸構成分)を加えて溶かします。ビール色の溶液の水素イオン濃度(pH)を7.2程度にカセイソーダを加えて調整し、2気圧になる高圧釜(釜内部の温度は121℃になります)で20分程度加熱して滅菌します。人肌までに冷やしてから細菌を植え付けて発育させます。

  戦前の北里研究所には、細菌の味や香りの研究をしていた細菌学者がいたそうです。細菌はどのような味がして、いろいろな細菌はそれぞれ特有な味や香りをもっているのかを調べていたようです。その結果は、どこかの雑誌には記録されているのでしょうけれども今となっては細菌の味については全く判りません。細菌に特有な味があるのでしょうか。

  細菌を増殖させるのに、どうして食塩、糖やダシなどを加えるのでしょう。別な表現をすると、細菌はこれらの物質をなぜ必要とするのでしょう。これについて考える前に、突飛に思われるでしょうが、人間の味覚について考えてみましょう。

2.人間に味覚はなぜあるのでしょう。

  私達人間は、3回の食事に限らずいろいろな物を毎日たくさん食べたり飲んだりします。なにかを口に入れると、ウマイ、マズイ、甘い、酸っぱいなどと感じます。これらの感覚を味覚というのだと思います。「オイシイ・マズイ」の感じ方も「甘い酸っぱい」とおなじ味覚にいれるのかどうかは良く判りませんが、ここではあまり難しく考えないようにしましょう。

  飲食物を口に入れると、甘い、しょっぱい、酸っぱい、ウマイ、苦い、渋い、臭いなどと感じます。これらを感じることは、生きていく上で絶対的に必要な感覚として存在するのでしょう。もしも何らかの原因で、熱さを感じなくなったり唾液がでなくなったりすると大変なように、味を感じなくなると即死とはならないまでも自分1人で自分の生命を維持するのは難しくなると思われます。

  栄養学については素人ですが、細菌の増殖と照らし合わせて、味覚について私個人の考えを紹介させて貰います。掲載順序は、重要性とは関係ありません。

  1. 甘い:甘さを感じさせる主な物は、砂糖に代表される糖分です。合成甘味料は別にして、甘さは即効的に効果がでるエネルギー源としての糖分が必要量含まれているか否かを識別するために絶対的に必要不可欠な感覚であるようです。
  2. しょっぱい:しょっぱさを感じさせる主な物は食塩です。食塩は水に溶かすとナトリウムイオンと塩素イオンに分かれます。ナトリウムや塩素などは、血液や細胞には無くてはならない電解質とよばれるイオンとして存在します。電解質のバランスが崩れると体調が悪くなります。肉体労働をすると普通以上の食塩を摂りたくなります。しょっぱさは、電解質の必要量を認識するのに必要なインディケーターであるようです。
  3. 酸っぱい:酢の物の食酢が酸っぱさを感じさせる代表的な物です。果物が酸っぱいのはクエン酸で、食酢は酢酸という天然の酸性物質です。酸っぱさを感じ取るのは、水素イオン濃度を察知しているのだと思われます。体液を弱アルカリに保つためには水素イオン濃度を7.0より少し高く維持する必要があります。
  4. 美味い:個人差の大きい感覚ですが、調味料をほんの少し加えるだけで美味さは変わります。昆布の美味さの成分はグルタミン酸ナトリウムで、鰹節の美味さはイノシン酸で、これらはアミノ酸や核酸の構成分と言われています。アミノ酸はタンパク質を核酸の構成分は核酸を細胞内で構成するのに不可欠です。美味い成分は、身体を作る大切な成分であるわけです。美食家でなくても美味いものを多く摂る必要があります。
  5. 苦い:苦さを感じさせる飲食物は、ニガウリ、コーヒーやビールなどですが、あまり多くないようです。アルカリ性のやアルカロイドの類いが苦く感じさせる物で、たぶん本来は生体にとってはなのではないかと思います。コーヒーやビールなどの苦さは、慣れると癖になる習慣性をもっているようです。身体に良くない成分を識別するために苦味を感じるのかもしれません。
  6. 渋い:渋いものは苦いものより多く、ある種の柿や茶は特有な渋さを感じさせます。柿のシブなどは、皮革をなめすのに昔から使われてきました。シブの成分のタンニン(ポリフェノール)は、皮革のタンパク質を変成させて腐敗を防ぎ雑菌の増殖を防ぐ作用があります。茶やワインのポリフェノールが健康に良いと言われていますが、渋い物は本来はたぶん生体にとってなのではないでしょうか。毒としての認識の1つが渋さではないかと思います。
  7. 臭い:心地よいニオイは香りといい、不快なニオイは臭いと書きます。臭いはクサイとも発音します。不快な臭い・悪臭を感じるのは、タンパク質からのアミンや硫化水素など、デンプンや糖およびアルコールなどからの吉草酸やアルデヒドなど特定な悪臭物質の存在や発生を意味します。これは腐敗と一般に呼びます。クサヤ、塩辛や納豆および臭豆腐のように腐敗させた食品もありますが、臭く感じる物は一般に腐敗しているので、毒とは呼ばないまでも食べない方が良い物であることを示すと思われます

  味覚は、生きていくうえで必要なものを認識する必要不可欠な感覚のようです。「美味い不味い」だけは、そのような感覚がなくても死ぬことはなさそうです。このような意味から考えると、「美味い不味い」は味覚に入れないのかもしれません。体の仕組みは、なんと巧妙に作られているのでしょう。驚きです。

3.細菌の嗜好性。

  細菌が味覚を持っているとは考えられませんが、認識の仕方は違っても人間の味覚が認識するエネルギー源として糖(甘さ)、身体をつくるアミノ酸や核酸構成物(美味さ)、電解質としての食塩(しょっぱさ)と水素イオン濃度の多少(酸っぱさと苦さ)などは、細菌も発育するのに必要不可欠であるようです。但し、渋さの成分であるカテキンやタンニン(ポリフェノール)は、細菌にも毒として作用します。細菌によって作られる臭い成分は、細菌には毒ではなく、人間に細菌の存在を誇示するサインと考えられます。人間も細菌も生物としては細胞ですから、基本的に必要なものは同じであるのかもしれません。

 血液をとても好む細菌(例えばインフルエンザ桿菌なと)も細菌の世界には存在しますが、大多数の細菌は発育するのに血液を必要とはしません。国によっては、生き血を飲む人および血液の入っているスープや血液の腸詰を好む人種も世界には存在するようですが、一般の人達は血液の色ですら飲食物としてはあまり好みません。しかし、血液が体内を循環して身体の隅々まで栄養と酸素を行き渡らせていることを考えると、血液は美味いものであるのかも知れません。食べず嫌いで血液の味はまた味わったことがありません。美味しいのでしょうか。

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