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202.ハムからO157検出は誤診断. 742000

1.おそまつな専門家達.

  地方自治体は、地域住民の健康を守るために「食品衛生監視員」という職員を配置しています。食品衛生監視員は、販売店や製造所に立ち入り検査できる権限を与えられています。食品衛生監視員が検査すべき製品や商品等を入手し、保健所または衛生研究所が有害物質や病原微生物等の試験を行います。

  川越保健所がハムやソーセージを検査したら、病原性大腸菌O157が検出されたことから、それを受けた埼玉県はハムなどを製造した会社に商品の回収命令をだした。ところが、平成12年6月29日になって、埼玉県は、検査ミスを認めて、製品の回収命令を撤回し商品の安全宣言を発表した。

  国立の感染症研究所で、今回ハムやソーセージから検出されたとされているO157と川越保健所が比較対象のために保持していたO157標準株の遺伝子を分析した結果、全てのO157の遺伝子が同じあったというものでした。また7月1日に「O157汚染原因調査専門委員会」は、川越保健所の検査ミスと断定し、「検査手順に配慮欠き検体が汚染」と発表しました。

2.学生に教えること.

  私達は、学生に「微生物学実習(2年生)と臨床微生物学実習(3年生)」で微生物を分離したり、性状を調べたり、遺伝子の分析等を通して、病原微生物の取り扱い方の基本を教えます。

  自分が取り扱う微生物に自分が感染しない方法を実践している限り、他人に感染させることは無いはずです。細菌に感染しない安全な取り扱う法を無菌操作と呼びます。私達は、実習を通して学生達に無菌操作と滅菌の重要性を徹底的に教え込みます。この無菌操作は、人の感染に対しての配慮だけでなく、自分の扱う微生物を目的外、例えば環境中の微生物で汚染させないためにも重用なのです。目的外の微生物による汚染を私達は、通常コンタミネーションまたは短くして単にコンタミと呼びます。

  ところが無菌操作の目的と操作は、農学部系と医療系で少し異なるようです。宝物を作り出す有用微生物を取り扱う農学部系の人達は、目的の微生物が他の微生物に汚染されることに最大の注意を払い、例えば、その微生物が机上に落ち飛散してもあまり問題とは考えないようです。しかし、私達は、扱う微生物の殆どが病気を起こす可能性がありますから、自分の微生物が他の微生物に汚染されても困りますが、それ以上に机上を汚染しても環境にでても困るのです。環境中にでることは、自分を含む周りの人々や環境中に存在する物全てを感染させる可能性を意味します。無菌操作は、まず手を良く洗うことから始まります。

3.誤診断はどうしておきたのか.

  川越保健所のおそまつな事件は、企業からそれ相応の賠償が請求されることでしよう。「O157汚染原因調査専門委員会」が公表した原因は、新聞報道などからは正確に把握することは容易ではありませんが、文字間から推測するとミスの原因は次ぎのようであるようです。

検体に付着している細菌を培養して検出する前に、少数しか存在しないかも知れない細菌を濃縮する操作を行った。そのためハムやソーセージ等を特殊な液で洗いだし、その洗浄液を小さな遠心管に移し遠心機で細菌などを沈殿させた。その沈殿物を目的とする細菌に特有の培地に接種して培養した。汚染の原因は、「特殊なピペットで遠心管に移し、遠心後上清を捨て、特殊な液を加えて沈殿物を再浮遊させる過程で標準菌が飛散し、検体を汚染した」ということのようです。

  試験担当者が保健所で保管していた標準菌O157で検体を故意に汚染させた可能性だけはないと思います。しかし、細菌を取り扱う基本中の基本である無菌操作ができていないとは、なんと情けない専門家なのでしょうか。同業者として悲しくなります。

川越保健所で試験を担当できる専門家が何人いるのか判りませんが、それほど多くないと思われます。今回ミスをしでかした試験担当者は、いままでにも同じようなミスをしていた可能性も考えられます。偽りの成績で被害を受けた企業などは存在しないのでしょうか。

4.つぎづき起こる不祥事.

  この原稿を書き出したら、次から次と似たような事件が明るみにでて来るものですから、何時までたっても終わりにできないでいます。川越保健所の次の事件は、雪印乳業の低脂肪乳の製造工程が黄色ブドウ菌で汚染されていたため、六千人を超える食中毒症状を訴える患者がでたことです。テレビで見た記者会見の様子では、社長と工場長の説明が違う点がありました。社長が故意に隠蔽しようとしたのでなければ、工場長が知りえた情報すら企業内部で公にされていない、知らしめてない現状を露呈したものと推測されます。

 更に7月3日の新聞では、大阪・堺市の総合病院での「セラチア菌」による集団院内感染が大きく報道されていました。この事件のニュースは、当日の午前中にある通信社からの取材で私は初めて知りました。病院長いか数名の責任者による説明をテレビのニュース番組で見ていました。なんと情けないことに、あの病院の医師達は「セラチア菌による院内感染」の危険性を認識していなかったようです。この病院では、例えば、「ある入院患者の尿からセラチア菌が検出されていたとしても、その事実は一部の職員のみが知っていて、他の職員などには知らせていなかった」と思われます。

 雪印乳業と堺市の総合病院は、管理能力と責任感に問題がある上層部と必要な情報を早く知らせる必要性を認識していない管理者の存在が共通しているようです。現状の認識と情報公開がもう少し適切であったならば、問題はこれほど大きくならなくて済んだようにも思えます。

 

  雪印乳業の加工乳の製造工程が黄色ブドウ菌で汚染されていたため、六千人を超える食中毒症状を訴える患者がでています。高齢の患者さんを救うための病院でセラチア菌による感染死亡者が多数でています。微生物を扱うプロである術者から汚染が起こるようなことは、絶対に有ってはならないことです。東海村での事故と今回の事故とに共通点があると思います。それは、「管理者が責任を持って管理してないこと」と「情報を隠すこと」だと思います。如何に完璧なマニュアルがあったとしても、それを守るも守らないのも人間なのです。人間がだめなら、どのような設備やマニュアルがあっても駄目ですし、情報を伝達しないから適切な対応が遅れてしまうのだと思います。

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