242. 汚水の処理で下痢ウイルスは殺せますか.5-5-2001. 少し心配です. ある地方に住む若いお母さんから、「パソコンを使い出してまもない初心者ですが、初めての質問をメールで送りますので教えてください」とのメールを貰いました。「潮干狩りに子供を連れて出かけた、ハマグリなどの貝を採ってきたが、「潮干狩りや海水浴」をする場所はウイルスで汚染されていないのか心配だ、市内の潮干狩りをする海辺には河川があり、その少し上流には汚水処理施設がある、下水処理場からの排水は消毒されていると聞きましたが、ウイルスも消毒されているか」という内容でした。 下痢の原因ウイルスについて. 下痢や食中毒を起こすウイルスについては、曖昧模糊の「70.ウイルス性食中毒」で多少は説明していることを連絡し、それに加えて潮干狩りと多少関係しそうな下痢ウイルスの新しい情報を書き送りました。東京湾内の二枚貝のウイルス汚染状況は「97.生カキのウイルス汚染の意味」として既に紹介しましたが、千葉県での報告をここに紹介します(感染症誌 75: 263-269, 2001)。 ある市内の下水施設の流入水、そこで処理されて排出される処理水、河川水が流れ込む地区の海水とその周辺に生息しているカキを1年間に渡り毎月採取し、下痢ウイルスの検出が行われました。試験の対象ウイルスとしては、ヒトの腸管内で増殖し、糞便とともに排泄される腸管系ウイルスの一種であるアストロウイルスを選んだ。このウイルスは、冬場に生カキが原因で集団食中毒を起こす小型球形ウイルス(SRSV)よりは健康被害は少ないが、小中学校などでの集団発生事故や小児病棟での院内感染の原因となることもあります。SRSVと同じようにアストロウイルスは、培養することが難しいウイルスですから、ウイルスの存在は専ら遺伝子を検出するPCR法で確認しました。 1999年4月から2000年3月までの1年間の調査結果が報告されていますが、その概略を下の表のように私が纏めてみました。調査を開始した4月は、調べた全サンプルの流入水、処理水、海水とカキの20検体中9検体からアストロウイルスの遺伝子が検出された。5月には、流入水と海水からのみ検出され、7月から翌年の1月までのサンプルからは検出されなかった。3月はピークとなり20検体の12検体から検出された。尚、処理水の残留塩素濃度は、年間を通して0.2 ppm以上であった。 これらの結果から、ヒトの糞便とともに排泄されたアルトロウイルスによる汚染は、冬から春にかけて下水、海水、カキの順に進行すること、3月と4月に多く検出されることを示しています。 表 下痢ウイルスの月別検出状況 処理施設への流入水 処理排水 海水 生カキ 4月 1/2 2/2 5/10 1/6 5月 2/2 0 2/10 0 6月 1/2 0 0 0 7月 0 0 0 0 1月 0 0 0 0 2月 1/2 2/2 0 0 3月 2/2 2/2 7/10 1/6 流入水(各20リットル、2検体)、処理排水(各20リットル、2検体)、海水(各20リットル、10検体)とその周辺に生息するカキ(6検体)の20検体を1年間毎月採取し、下痢ウイルスの遺伝子の検出を試みた。 この千葉県の試験は、1年間を通して調査したことに大きな意味があと思いますが、調べた検体数がもう少し多ければ更に良かったのではないかと思います。SRSVによる食中毒は、カキの季節と一致して10月から3月に多発します。上の数値から推測すると、アストロウイルスによるヒト、特に小児の感染は、2月から4月にかけて多いのかも知れません。 数年前になりますが魚連からの依頼で、養殖地こどにカキのSRSV検出率を調べた経験があります。北と南で海水温度の違いでカキの生育がものすごく違うことを実感しました。カキの大きさと見た目の良さは、ウイルス汚染の頻度とは無関係でありました。SRSVを含む複数種のウイルスによる汚染頻度はカキを養殖している湾によって異なり、河川が無く河川水が流れ込まない湾内で養殖しているカキのウイルス汚染は非常に低いことが判りました。このことは、河川水を適切に管理すれば、河川や海およびそこに生息している魚介類のウイルスによる汚染は少なくできるこを示していると考えられます。水に関する権限は非常に複雑でした。省庁再編の目的は、縦割り行政の弊害を廃することにあったようですが、「水の管理」はどのお役所の仕事になったのでしょうか。 |