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253. 病名に名を残した医師シェーグレン.7-31-2001.

235.唾液とインターフェロン」でシェーグレン症候群という奇病とその治療にインターフェロンが有効らしいと紹介しました。その直後にある読者から奇病に名を遺したシェーグレン医師についての情報を頂きました。体液の分泌が悪くる奇病を発見し病名に名を残した眼科医シェーグレンの知られざる一面を紹介します。

シェーグレンは、1899年にスエーデンに生れ、カロリンスカ医科大学を1927年に卒業した。眼科の研修医としての3年目のある日、関節リュ−マチとして6年間にわたり治療を受けていた49才の女性の患者にであいました。彼女は、泣いても涙が出ない、唾液がでないために食事も飲みこむことが困難で、ほとんど汗もでないのでした。シェーグレンは、最初の症例に他の4症例を追加して、1933年にスエーデンの医学雑誌にこの奇病を報告しました。これがシェーグレン症候群の最初の報告となりました。

別な病院に移ったシェーグレンは、多いに研究意欲を燃やし、大学の講師の資格を受けるために「奇病」について纏めた学位申請の論文を提出しました。しかし、残念ながら芳しい評価を受けられなかったため、講師の資格を得られませんでした。大学で診療と研究を続けたい希望が絶たれてしまったのです。そこで南スエーデンの病院に移り、1967年に眼科医を引退するまでこの病院に勤務し、生涯この奇病の研究を行ったようです。

1940年代になるとイギリス、ドイツ、フランスなどを初めとするヨーロッパ諸国の医学雑誌にシェーグレン症候群の名称が載るようになりました。1943年にシェーグレンの主張が英語に訳されるにおよび、世界的に広く知られるようになりました。オーストラリアやニュージーランドから眼科医学会から名誉会員に選ばれ、1961年には講師の資格が授与され、名誉教授の称号が与えられました。しかし、第1回シェーグレン症候群の国際会議が開かれた時、シェーグレンは病気で出席できないまま1986年に南スエーデンの町ルンドで亡くなりました。享年87才でした。

別な項目でも書きましたが、「先覚者」とは、多くの人がまだ寝ているときに一人目を覚まし、起きだしてなにかをする人またはなにかを見つけ出す人と解釈されます。他人より後から起きてくれば他人に起きたことを認めてもらい易いが、誰よりも先に起きているのですから起きたことを認めて貰えにくい傾向があると思われます。更に、他人が寝ている間に起き出せば、寝ている人には迷惑に感じることもあり、非難や批判を受けることもありましょう。情報伝達や科学技術が発達した現在では、他人の発言などの真偽を追試し易いと思われますが、一昔前までは大発見は世の中に受け入れられたり、多くの科学者仲間に理解されるまでに、何十年もの歳月が無駄に流されたようです。

シェーグレンもご多分に漏れず、彼が最初の患者に出会ってから約半世紀の後に認められたようです。ノーベル賞を世界の科学者に提供しているスエーデンの話です。地元では特に認められにくい傾向があるのでしょうか。ノーベル賞受賞者である白川先生も国内の専門学会では芳しい評価を受けず、国外で業績が正当に認められて有名であったようです。

スエーデンに大学は4大学と数が少ないために、助手として新規に採用されても確か5年間の任期制でした。5年後に実績を審議され、講師に昇任できない助手は同じ職位に止まれない仕組みなので、退職をせざるを得ないようでした。講師もまた然りで助教授に昇任されないと大学に居残ることは出来ません。助教授になると身分が保証されると聞きました。この話しは、私が数年前にカロリンスカ大学を訪問した時に聞いた話しで、現在のことは正確には判りません。

任期制と評価制度が確立されている話しを聞いたときは、私は羨ましく思うと同時に驚きを感じました。しかし、彼らに言わせると、教員のポストが限られてくるので、必然的に昇任人事に政治が絡み不愉快なこともあるとのことでした。私が訪ねたカロリンスカ大学の教授の研究室には50人近い教員と世界各地から集まった研究者が働いていました。講師の方が小さな声でツブヤいた言葉は、とても新鮮で印象的でした。「この研究室は大勢の若者達によって世界的な業績を上げているが、助教授が教授の奥さんなのでここに残れる可能性はゼロに等しい、ここで業績を上げて米国で拾って貰うしか研究を続けられる道は国内にはありません。そのため全員が努力しているのです。」ということでした。

日本国内では少子化の影響を受けて、大学冬の時代に突入した結果、ようやくと教員の質の向上と能力にもとづく評価制度と任期制度の導入について検討が始まったようです。他人の能力を正当に評価するのは難しいことですが、なにをしても何もしなくても同じでは精神的環境はあまりにも衛生的でないと思います。

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