▲▲ ▼▼

258.役に立つウイルスは創れます.9-10-2001.

寄せられた意見.

「252. 空気清浄機は役に立つウイルスまで取り除きますか」を掲載したら、直ぐに何人かの方々からメールが寄せられました。そこに書かれていた意見は、「有害なウイルスか無害なウイルスしか存在しない」との私の説明はその範囲では良いとしても、世の中には《有益なウイルス》も現に存在する」と言う主張でした。

ある人は、天然痘の弱毒ウイルスがワクチンとして使われていることは有名で、これらワクチンとして使われている弱毒ウイルスは何種類もあることを聞いている。これらのウイルスは人の疾病の予防に役に立っているのであるから、有益なウイルスであると書いてありました。別な人は、細菌にたかって細菌を殺す細菌ウイルス(バクテリオファージまたはファージ)が多数存在し、病気の原因となる細菌を殺すウイルスで細菌による病気の治療に使えるそうで、その研究も盛んに行われていると聞いている。細菌のウイスルも間接的かもしれないが人の為になっているウイルスだと考えると解説してありました。

これらの意見は、ご最もであります。意見を寄せて下さっている方々は、私の推測では微生物の専門家ではなさそうです。どのような知識または技術をもっている専門家であるのかは別にして、注意深く私の拙い散文を読んでくださっているありがたい人々が居られることに感激し、刺激されています。不用意・不注意に散文とはいえ書けないなと感じています。

≪新しい空気清浄機の購入を考えています、性能説明書には「微細なホコリからウイルスまで取り除く」と書いてあります、空気清浄機は役立つウイルスをも取り除いてしまうのでしょうか」とのメールに対して≫、私は《世の中には「人に対しては有害なウイルスか無害なウイルス」しか存在しないので、空気清浄機が役に立つウイルスまで取り除いてしまうことは考えなくても良いと思います》と書き、最後を《役に立つウイルスは創れます》で結びました。

役に立つウイルスは創れます.

「有益なウイルスは存在しない」と書いた私の意味は、《空気中にはいない》ということで、《世の中には「人に対しては有害なウイルスか無害なウイルス」しか存在しない》の《世の中には》の言葉使いは不用意でした。また少し言葉が足りなかったと反省しています。ご指摘のように《世の中には有益なウイルス》も存在します。しかし、現在有益なウイルスとして使われているウイルスは、殆どが人工的に創りだされたものです。

ここで人為的に創りだされ役に立つウイルスについて記します。

その一つは、生ワクチン用のウイルスです。ウイルスによる病気は、特効薬がまだ見つかっていませんので、原則として薬で治すことが出来ません。罹ってしまうと治せない病気は予防する以外に有効な手段は考えられません。ワクチンには、ウイルスを殺した死ワクチンと病気を起こす力を弱めた弱毒生ワクチンの二種類があります。死ワクチンと弱毒生ワクチンには、利害が相反する特徴があります。天然痘、水疱瘡、風疹、麻疹、ポリオ等に代表される病気のワクチンは、弱毒生ワクチンが使われています。天然痘を例外とて弱毒生ワクチンのウイルスは、全てウイルス学者によって人工的に病原性を弱められたウイルスです。ウイルスの病原性を弱める方法は決まったものがありませんので、科学者の持続する忍耐強い意志と試行錯誤の長期にわたる試験の結果創りだされたものです。

その二つ目は、いま流行りの遺伝子治療に使われる「ベクター」と呼ばれるウイルスです。ベクターとしてのウイルスを理解して貰うためには、少し説明を要します。インターフェロンはC型肝炎の治療等につかわれますから、インターフェロンという名前を知らない人はいないでしょう。そのインターフェロンを生まれながらに作れない体質の人がいたとします。インターフェロンは、ウイルスの感染などを受けると、リンパ球などの細胞が作りだすタンパク質です。インターフェロンを作れない人のリンパ球にインターフェロンの遺伝子を挿入できれば、その人は普通の人と同じようにインターフェロンを作れるようになります。インターフェロンの遺伝子を注射した場合、人間の体は30兆個もの細胞から出来ていますから、リンパ球という特定の細胞にインターフェロンの遺伝子を挿入させるのは難しく簡単ではありません。しかし、エイス゛の患者さんは、HIVと呼ばれウイルスが免疫の中枢をつかさどるリンパ球に感染し、免疫力を弱めています。体内に入り込んだHIVは、リンパ球を探し出し、その細胞の表面に結合して細胞のなかに入り込み増殖をします。簡単にいうとHIVはリンパ球にのみ感染できる力を持っているのです。HIVの遺伝子にインターフェロンの遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて結合させれば、インターフェロンの遺伝子をもったHIVができあがります。ベクターとして、改造されたHIVをインターフェロンを作れない人に注射すると、その人のリンパ球に感染しインタ゜フェロンを作れるように遺伝子を改造することが期待できます。目的の細胞に特定の遺伝子を運び込む人為的に構築されたウイルスを「ベクター」と呼びます。

以上の話しは一部のことを省略してあります。遺伝子を改造してあってもHIVを注射すると、極端な場合にはエイズになってしまいます。そのため、ベクターとして使えるウイルスには、特殊な仕掛けが施されていて、リンパ球に入り込んだ後、増殖できないよう工夫されています。遺伝子の運びやとしてのベクターは、HIVのほかにデノウイルス、その他が開発されています。遺伝子治療に用いられています。

これ以外にも役に立つウイルスがあります。しかし、これら役に立つ有益なウイルスは、空気という環境中に原則として存在しません。それで、空気清浄機が役に立つウイルスまで取り除いてしまうことは考えなくても良いのでは回答を送った次第です。

 

インターネットを利用して「ウイルス」を検索すると、調べられないほどの検索結果が表示されます。ところが、そのウイルスの大部分は、コンヒューターのウイルスに関することで、微生物のウイルスではありません。しかし、他人の迷惑になるウイルスが世界的に大流行してPCを汚染し、ワクチンで予防する時代となりました。不思議な世の中になりましたね。そこで、皆さんにお聞きします、役に立つコンピューターウイルスは、存在するのでしょうか。我々ウイルス屋の出番は、少なくなってきました。妙な気分です。

▲▲ ▼▼



Copyright (C) 2011-2017 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.