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263.破傷風菌は土壌中の常在菌.10-15-2001.

「自然由来または環境由来の細菌叢であるから安全であるとは限りません」という意味の文を257.生ゴミ処理機は安全ですか」に書きました。掲載直後から色々な立場の人から感想や質問を貰いました。生ゴミ処理機を製造販売している企業かどうかは判りませんが、ある企業で環境ビジネスを担当している方から「生ゴミ処理機に使われている自然環境由来の細菌叢に危険な細菌が含まれる可能性を判断する根拠として、自然環境に炭疽菌や破傷風菌はどのていど存在するのか」を教えてくれとのメールがありました。

私の手元に1936年に米国ワーナーブラザースが作った「パストゥール物語 −科学者の道−」という題名の映画をビデイオ化したテープがあります。感動的な内容の映画であることから、二年生が微生物学の実習を受ける時に毎年見てもらっています。1870年の独仏戦争に破れたフランス全土を炭疽が襲い、経済的に大きな打撃をあたえる場面があります。フランス全土の牧場の土が炭疽菌(病気の原因が細菌であることをR.コッホが最初に証明した病原微生物の第一号)に汚染されていて、そこに羊を入れると感染して炭疽になり、経済的な打撃は大変なものでした。その時、パストゥールがワクチンを開発して感染の予防に成功します。パストゥールの住んでいたアルボアという地方のみに炭疽に罹る羊が一頭も居なくなってしまいました。微細な生き物が大動物に病気を引き起こすことがまだ信じられていなかった時代の話しです。パストゥールが言うことが正しいかどうかを確認するために反対派の科学者達の要望で、公開での野外実験が行われました。効果判定の前夜パストゥールは科学が勝利することを期待して一睡も出来ませんでしたが、パストゥールのワクチンは見事な成功を世界に知らしめる結果となります。現在も炭疽菌の汚染地域が世界には多く存在します。炭疽菌の感染した動物を扱う人に感染者がでるようです。日本国内の土壌が炭疽菌に汚染されているとの報告はあまり聞いたことがありません。

破傷風菌は、炭疽菌と同じく土壌中に存在し、動物や人に破傷風を起こします。長塚節の「土」では農婦が感染し発症する様子が克明に記載されています。破傷風菌は、現在も世界的に広く分布しています。衛生状態の良くない地域や国では、生まれて初めてつかる産湯の水が汚いので、生まれてまもなく破傷風で死亡する例が現在も後を絶ちません。

破傷風菌は、日本国内の土壌からどのていど検出されるかを説明します。東邦大学医学部で公衆衛生学を教えて居られた海老沢功教授の調査報告に、その成績が記載されています。海老沢先生は、ブイヨン10mlに採取した土1gを加えて混合し、適当に希釈した1mlをブイヨンに接種して30℃で48時間培養しました。次にグラム染色を施し、グラム陽性で芽胞をもつ太鼓のバチ状の桿菌を検索した。形態的に破傷風菌の可能性が高い菌を含むブイヨン液の1mlをマウスに注射しました。破傷風菌が含まれる場合は、24〜48時間以内にマウスは四肢を伸展し、体を硬直させ定型的な破傷風の症状を呈しているか既に死亡しています。これらの徴候を確認した場合、破傷風菌の分離が陽性としました。

その結果を下の表に示します。いろいろな場所から採取した土164検体を調べた結果、50%にあたる82検体が破傷風菌陽性でありました。0.1mg(一万分の一グラム)の土から破傷風菌が分離されたケースも12検体ありました。田、池や川などの土からの検出率が一番高く76%で、次いで民家の庭や畑の土が64%でした。陽性を示した土の半数は、10ミリグラム(百分の一グラム)またはそれ以下の量でも充分に破傷風菌が増殖したようです。表としては示しませんが、人間を含む動物の糞も調べてあります。破傷風菌が分離された動物としては、羊(10/40匹)、牛(3/36匹)、犬(1/50匹)、馬(1/100匹)があり、人の糞からは検出されなかったようです。これが海老沢先生の調査結果の一部です。

破傷風菌の土壌での分布

 分離に必要な土壌の最小量 mg
土壌の採取場所 検体数 陽性数 陽性率 1 2.5 5 10 25 50 100
 畑、民家の庭
66 42 64% 8 4 4 6 9 4 6
田、池や川の土手 17 13 76% 3 3 1 2 3   1
学校、花壇や公園 51 20 39% 1 3 1 1 8 2 3
牧     場 20  6 30%     3   2 1  
未 舗 装 道 路 10  1 10%         1    
合  計 164 82 50% 12 10 6 12 21 8 11


動物の糞からの破傷風菌の検出率は、思ったよりは高くありませんでした。しかし、大切なことは、検出率または保有率の大小ではないかも知れません。36頭の牛を飼育している牧場で3頭(10%以下)だけが破傷風菌が陽性であったとしても、その3頭の牛が毎日破傷風菌を糞便とともに排泄していることになります。その結果、土壌の殆どが破傷風菌で汚染され、破傷風菌は耐久性に富む細菌ですから蓄積する可能性もあります。

庭や田畑の土にどうして破傷風菌が存在するのか原因は定かではありません。しかし、堆肥(どのようにして作ったのか不明)の使用や庭先で犬猫が糞をした等を含めて動物の糞による汚染であると思われます。結論として、破傷風菌は土壌中の常在菌なのです。

生ゴミ処理機に使っている細菌叢が動物の糞や土壌に由来する場合、出発材料に破傷風菌またはその類似の毒素産生菌が混入している可能性があり、「自然だから安全」とはならないと思います。

北里柴三郎は、土壌中に炭疽菌や破傷風菌がいて動物に感染する理由を知りたくて、土壌中のどこに存在するのかをドイツに滞在中調べています。表層から10センチ程度までは適当数検出されるようですが、表層から深くなるに連れて検出率は低下することを突き止めています。これは百年前に発表されている成績です。

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