265.手洗いがカゼを少なくする. 11-12-2001. 手洗いの提案は130年前から 病院内で起こる予期せぬ感染を未然に防ぐために、各病院は院内感染対策委員会を設置し、「院内感染対策マニュアル」を作成して、院内感染の予防に日夜努力しています。そのマニュアルには、必ず「手洗いの励行」が記載されています。微生物による感染を防ぐために手洗いの励行を提案したのは、フランスのパストゥールが最初でいまから130年以上も前のことです。「お医者さん手を洗ってください、器具を煮沸してください」とパストゥールが唱えました。当時のお医者さん達は、「ノミより小さな微生物がどうして人間を殺すことができるのか、オマジナイ的なことをしたら笑われてしまう」と手洗いをなかなか受け入れようとしませんでした。 バイオテロで消毒薬が売れる 抗生物質が効かないMRSAが猛威をふるいだした時、また炭疽菌のテロが世界に広がる傾向を示している現在、消毒薬が売れています。消毒薬を使い、手洗いを励行しても、集団食中毒や院内感染は必ずしも終息している訳ではありません。消毒薬が有効であると仮定したら、どうして効果がみえてこないのでしょう。 そこで、ある病院の微生物検査室で働いている3名の臨床検査技師の協力を得て、簡単な試験を行いました。目的は手洗いがどの程度効果があるのかを知る事でした。そのために一定量の大腸菌を手に直接塗った後、各人が通常行っている方法で手を洗ってもらいました。手を洗う前後の細菌数を定量して、手洗いの効果を調べました。その結果を下の表にまとめました。 消毒薬による手洗いの効果
実験の対照としての手洗い前は、3人の手から塗付した100%の大腸菌が回収されました。最初に普通の化粧石けんで洗った後水道水で石けんを洗い流し手では、二人の手からは100%の大腸菌が検出されました。一人だけ20パーセントに減少していました。次に病院でよく使われている有名な消毒薬を使ってもらいましたが、期待通りの成績は2人のみで、一人は67パーセントが回収されました。最後に強酸性水で洗ってもらいましたが、3人の手は細菌学的にはキレイになりませんでした。 さて、この成績はなにを示しているのでしょう。どのように解釈すればよいのでしょう。強酸性水は、有効濃度の塩素が作られているか調べる必要がありそうです。しかし、本来有効と言われている消毒薬を使っても大腸菌が検出される場合があることは、消毒薬の問題ではなく、どのように洗うか洗い方に問題があることを示していると考えられます。手をキレイにするには、なにを使ったら良いかではなく、どのように洗うかが大切であることを如実に示していると思います。#2の人は、手の洗い方を知らないのだと思います。 手洗いだけでカゼが少なくなった 米海軍では、呼吸器疾患用のワクチンが不足していることから、手軽な対応策として「手洗い運動」を1997年からとりいれているそうです。新兵訓練センターで、新入隊員は毎日5回以上手を洗うよう命じられました。手洗いを実行し易くするために、軍規をはじめ設備も一部改善したようです。新入隊員の発症する疾患をみるため、海軍病院や診療所の受診回数を週ごとに集計し、この発症率を基準として手洗い作戦の効果を手洗い開始前後で比較検討しました。 「呼吸器疾患の発症率をみると、1996年の平均値より45%低下していた」、「入院加療率を低下させる効果は見られなかった」、「アデノウイルスによる感染症の流行を防止できなかったが、まん延は抑制された」。食事前に手を洗う人は少ないようで、そのため「毎日5回も手を洗うのは難しい」と新入隊員の半数が答えているそうです。このような結果が米国予防医学会雑誌に報告されています。「手洗いをするからといってワクチンが不用になることはないが、手洗い励行にはきわめて優れた効果があり、最小の費用と労力で大きな利便が得られる、呼吸器疾患が流行する季節には特に重要である」と述べています。
「43.フランス人のお弁当 6-15-97」にも手洗いについて書きましたが、食事前に手を洗わない人は米国にも居るようです。とすると炭疽菌が付着している郵便物の仕分けをしている郵便局員が炭疽菌の感染をうけることが理解できるような気がします。 「1日に何回オシッコをしますか、1日に何回手を洗いますか」と質問されて的確に答えられる人は多くないかと思いますが、私は職場で少なくとも1日に10回は手を洗っていると思います。セキやクシャミをすると手にいろいろなものが付着します。米国海軍の成績は、隊員に手の洗い方をキチント教えた後に成績を集めだしたのだと思います。キチント洗えば効果がありそうです。みなさんはどう思われますでしょうか。 |