待ちにまったワールドカップが始まりました。若き日本チームは快進撃を続けていましたが、残念ながら敗退してしまいました。このワールドカップを観戦するために、最終戦までの1ヶ月の期間に延べにして何人の外国人が日本を訪ねてくるのでしょう。国際交流がますます盛んになると、これまでに知らなかった異民族の文化、伝統および考え方などを学び、語り合い、知り合い、好きになれる利点があると思います。しかし、人の移動が交流であるとすると、そこにはレーダーやX線で捉えられないモノの移動をともなうこともありえます。 レーダーやX線で捉えられないモノの一部に病気や微生物があります。ワールドカップの開始が迫ってきた時期に、週刊・月刊誌の出版社や新聞・テレビの報道機関などから「ワールドカップの開催で爆発する病気や恐怖の微生物」についての取材を受けました。記者達はインターネットを活用してある程度の予備知識を持っていましたので、いろいろな危惧される可能性について質問してきました。彼らの期待を裏切るようでしたが、私は個人的な見解として一番心配される病気の一つは、「結核」でしょうと答えました。長時間の飛行による機内感染の可能性です。 五月の連休直前に私は所用でオランダに出かけました。成田空港からスキポール空港まで直行便で片道12時間ほど航空機内にいました。往復ともジャンボ機でしたが、団体客が多くほぼ満席でした。健康人が病人かも分からない500人ほどの見ず知らずの人達と10数時間もの長時間、運命共同体として時と環境を共有しました。航空機内にとどめ置かれている暇な時間に私はある計算をしてみました。 人間はひと時も休まず呼吸をしています。12時間の飛行時間に大人一人でどのくらいの量の空気を呼吸として吸ったり吐いたりしているかを計算してみました。計算をしやすくするために数値は少し大きめの概算値を使いました。そのため最終値は少し小さめになります。健康な大人では、一分間に20回ほど空気を吸ったり吐いたりし、一回の呼吸で300ミリリットルほどの空気を吐き出すとすると、12時間ではどのていどの容積の空気になるのでしょうか。1時間で360リットル(家庭用浴槽の一杯分)、12時間では4,320 リットル(4.3立法メートル)となります。 一方、ジャンボ機の客室の容積がどの程度なのかは知りませんが、エコノミークラスでは一人分の座席は大きく見てもて80センチ角くらいで、天井までの高さは平均で2.4メートルと仮定します。すると一人分の使用できる空間は、1,540 リットル(1.5立法メートル)となります。呼吸による1時間の換気量360リットルで割り算すると、一人分の容積1,540リットルの空気は、約4.3時間ですべて肺の中に入ることになります。逆な表現をすると4時間以降に機内に存在する空気は、全て人が吐き出した空気であることになります。12時間では約3回換気と計算ではなります。 航空機内の空気の清浄法と換気はどのようなシステムになっているのか私は全く知識がありません。空気清浄機はどの程度の能力かは別にしても機内には何がしかの清浄機が装備されていると思います。しかし、大型ジェト機は高層を飛ぶので、気圧と酸素濃度の関係から機外から新鮮な空気を取り入れられない筈です。機内にはある程度の酸素は補給しているものと思われますが、全体としては空気の入れ替えはされていない可能性があります。見ず知らずの500人が運命共同体として限られた空気を共用していることになります。 「279.旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)の予防」でエコノミークラス症候群の予防策を紹介しました。そこには、一万メートルを超える上空を飛行している機内は低酸素状態であること、ならびに8時間以上の飛行時間はエコノミークラス症候群の発生率を高めると書きました。8時間以上乗り続けないほうが、空気もキレイで健康にも良いのかも知れません。 どこに記載されていたか記憶が定かではないのですが世界保健機構は、長距離飛行をする大型機の搭乗者に結核菌を吐き出している結核患者がいると同乗者が感染する心配があるので、航空会社は結核患者の把握に努めよるようにとの警告を発していた記憶があります。搭乗者が共有する空気環境には、「空港の待合室から荷物を受け取る場所」までを含めます、6時間てあったか8時間であったか正確な数字は忘れましたが、10時間より短いある時間を超えると感染の危険性が危惧されると記されていたと思います。全ての結核患者が結核菌を排出しているのではありませんが、密閉された空間に長時間大勢の人がいる機内の空気は、微生物学的にはかならずしも清潔ではないのでしよう。細菌、ウイルスやホコリも捕集できる性能のよい空気清浄機の開発が待たれます。それまでは搭乗者も客室乗務員もともに感染の可能性を考える必要がありそうです。 |