311. ハトやカラスが病原性大腸菌を保有.1-27-2003. 大腸菌とは. 余談になりますがこのHPに掲載してある「北里の微生物事典」は、国立国会図書館のデーターベースに採用されています。その「北里の微生物事典」に大腸菌について次のような記載があります。 ≪大腸菌 Escherichia coli 大腸菌は腸内細菌科に属するグラム陰性の桿菌である。多くの菌は周毛性の鞭毛を持ち、活発に運動する。他の腸内細菌科の細菌と区別しうる生化学的性状として、多くの場合大腸菌は乳糖分解性を持つ。血清学的に耐熱性のO抗原(菌体抗原)、易熱性のK抗原(莢膜抗原)とH抗原(鞭毛抗原)により分類される。大部分の大腸菌はヒトに病原性を持たないが、一部病原性を示すものがある。病原性のある大腸菌は 1) 腸管病原性大腸菌(EPEC) 2)腸管組織侵入性大腸菌(EIEC) 3)腸管毒素原性大腸菌(ETEC) 4)腸管出血性大腸菌(EPEC) 5)腸管付着性大腸菌 (EAEC)の5つに分類される。この中で、腸管出血性大腸菌O157:H7は赤痢菌と同様に志賀毒素を産生し、1996年に大阪府堺市でおきた学校給食による大量食中毒で有名になったが、ほかの大腸菌も、様々な外毒素を産生 し、色々な病気を起す事が知られている。又、大腸菌は遺伝子レベルでは赤痢菌と非常に近く、研究者によっては大腸菌の中に赤痢菌を含める場合もある。 ≫ この説明文を書いた先生は、特別に断ってないのですが、ヒトがもつっている大腸菌を意識はしてなくても頭に描きつつ書いているように思えます。ヒト以外の動物も大腸菌を持っているのか、動物の種が違うと持っている大腸菌は同じなのか違うのか、ヒトの大腸菌はヒトにはあまり病気を起さなくても他の動物には病気の原因となるのかならないのか等が書いてあると読む人によってはもう少し勉強になることと思われます。 動物の大腸菌. 大腸菌という名前は人間で言えば「田口」さんということを示します。しかし、おなじ「田口」さんでも、乱暴な「文緒」さん、穏やかな「文男」さん、裕福な「文雄」さん、元気な「文夫」さん、病弱な「文生」さんもいるのです。と同時に日本の「田口富美男」さん、アメリカの「田口富美雄」さんもいるかも知れません。アメリカの「田口富美雄」さんは、ペンネームで同一人物である可能性もありましょう。 「大腸菌・O157」は、「田口・ふみお」さんを意味します。しかし、どのような字を当てる「ふみお」さんかは判りません。どの「ふみお」さんかを調べるには、異なる何種類もの試験法があり、「腸管病原性」、「腸管組織侵入性」、「腸管毒素原性」、「腸管出血性」、「腸管付着性」などが「ふみお」さんの漢字の文字に相当します。 「牛乳には大腸菌が検出されないこと」とい規則があります。とすると牛という動物にも大腸菌がいて、その牛型大腸菌はヒトという動物に病気を起すから、ヒトが飲む牛乳には大腸菌が混入してはいけないのでしょうか。この決まりは、糞便が混入しているような非衛生的な牛乳は販売してはならないことを意味しています。牛が持っている大腸菌は、ヒトに病気を起すか起さないかは、本当は良く調べられていないので判りません。しかし、ヒト、カラス、牛にも性質の違う大腸菌がかず多く存在することは事実です。顔はみな大腸菌というおなじ顔をしていますが、性質はいろいろです。 野鳥にも病原性大腸菌がいる. ある動物性の食材が原因で集団食中毒が起きたとします。保健所の専門家は、感染源と同時に感染の経路も追い求めます。原因となった食材は特定できても、その食材と接触した人たちから原因となった大腸菌どうして検出されなくて、感染が拡大した経路または原因菌がどこから混入したのかが特定できない場合も多々あります。感染経路が不明のままであると、また同じような事件が起こる可能性が引き続き残ります。そこで衛生研究所や家畜衛生試験場の専門家がヒト以外の動物について、大腸菌の種類や分布について報われることの少ない地道な研究を実施しています。 日本感染症学会は、感染症学雑誌という学術雑誌を発行しています。その最新号(77:5‐9,2003)に麻布大学の先生方が「ハトおよびカラスからVero毒素産生性大腸菌(VTEC)の分離および血清型」という研究論文を報告しています。下痢の原因となる大腸菌について身近な話題を提供したいと考えていましたので、ちょうど良い機会ですからこの論文の概要を紹介します。 ≪集団食中毒における感染源や感染経路を明らかにするため、1997年8月から1998年1月に神奈川県内の主要都市と東京都内で害鳥駆除のために捕獲したハトとカラスの腸管内容物521件を材料とし、病原性大腸菌の分離を試みた。神奈川県内のある市のハトとカラスの32例(6.1%)から病原性大腸菌が検出されました。ハトおよびカラスから分離された病原性大腸菌は、32例とも例外なくVT毒素産生性で且つeaeA遺伝子を保有していた。≫ VT毒素とはベロー細胞を破壊する毒素で、eaeA遺伝子とは菌が腸内の細胞に定着するときに必要なタンパクの遺伝子のことです。細菌がヒトの口から腸内に侵入しても、腸管内容物に押し出されてしまえば、多分病気を起す力のある細菌であっても病気を起す前に体外に排出されてしまうことになります。病気を起すためには、細菌体がまず腸管の細胞に付着して定着することが第一の必要条件となり、次に毒素などを産生して周りの細胞を破壊することが第二の決定条件となります。 ハトやカラスのような野鳥から第一の必要条件(eaeA遺伝子の産物インチミン)と第二の決定条件(VT毒素)を満たす大腸菌が見つけられたことは、ヒトの腸管内に侵入すると下痢や出血などを起す可能性を示唆していると考えられます。 公共の場である公園、神社仏閣や駅舎などに飛来し、ヒトと密接に関わりがあるハトやカラスなどの野鳥が排泄する糞便にも病原性大腸菌が存在している可能性が十分に推測されます。飛び立つ時の羽ばたきや風などによる乾燥した糞便の飛散、および頭上からの落下する糞便に少し注意を払う必要がありそうです。汚いだけでなく危険と考えるべきなのかもしれません。 北米ではそれまで存在してなかった西ナイルウイルスがアメリカに侵入し、ヒトに感染者が出ていることが判った発端は、カラスなどの野鳥の大量死からでした。日本国内でのカラスは、このところ殖えすぎの傾向にあるようですから、病原性大腸菌による汚染が進行しているとしても、感染死はまだ観察されていないのかもしれません。 下痢の原因となる大腸菌について身近な話題を提供したいと考えていました。一般の人達に対しての話題提供ですから、解り易さを優先させることが必要です。しかし、ここに書きました散文中の表現については、科学的には少し甘い表現や専門家は用いない言葉を使いました。例えば、田口富美雄さんも田口文夫さんもみな田口としてあります。専門家の方々からお叱りをうけそうです。 |