356. 米農務省の食肉安全対策. 4-30-2004.
BSE対策として全頭検査は無意味?
米国ワシントン州でBSE(牛海綿状脳症)の牛が見つかり、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の原因となるプリオンに汚染された牛肉を米国人(日本人もかな?)は食べていたかもしれないことが明るみになりました。日本国内でこれまでのBSE対策は全て後手に回って失態が明るみにだされてしまった農水省は、米国牛肉の輸入をいち早く禁止にし、その上で米国農務省に対して食用牛の全頭を検査するよう伝えたようです。
日本国内での食用牛の全頭検査に対して米国農務省は、「全頭検査が必要であるとの科学的な根拠に乏しい」とし輸入再開をせまっていることがマスコミの情報から伝わってきます。「これより安全で厳しい基準はない」と日本人は考えているのに対して、「全頭を検査することは無意味(科学的な根拠に乏しい)」であるとする主張に科学的な正当性は果たしてあるのでしょうか。
プリオンに汚染された飼料で飼育された牛は、5年ていど(60ヶ月)の飼育期間の後にBSEを発症すると一般に考えられています。いま現在採用されている国内の法規制では「30ヶ月以上の牛は食用にしない」、と同時に「食用牛は市場にでる前にプリオンの全頭検査を受ける」ことに決まっています。他国に類をみない年齢に無関係に全ての牛を検査するという規制がどのような背景から生まれたのか正確には知りません。
資料によると米国政府は、「1997年以降にBSEを対象にたった約4万頭のみの牛を検査した(MT 3-11-2004,p23)」。全頭の検査を実施しない根拠は必ずしも明らかにされていないと思いますが、私の推測では多分「BSEの牛は出ないだろうとの思い込み、全頭検査の時間的、労力的、検査体制および経済的な理由など」から実施しにくい現状があるものと思われます。しかし、「30ヶ月以内の若い牛を検査してもプリオンが検出される可能性が低い」ことを一番の根拠にしているものと思われます。だからと言って、プリオン検査が陰性であることは、検出限界がありますからプリオンに汚染されていないことの保障にはなりえないと私は思っています。
夕食にはビーフ
スイス人上級獣医師キム博士が主催する国際的な科学パネル(正確な内容は把握してません)は、汚染牛肉を食べて変異型ヤコブ病に感染するのを防ぐために、約4万頭の検査でなくさらなる努力をして欲しいと米国に請願をしました。しかし、「外国産動物および家畜の疾病に関する諮問委員会」はこれを拒絶しのだそうです。弱って動けなくなった牛を4万頭検査したこの数は、全く不適当であり、牛肉を食べても安全であると保証するための努力を米国農務省はほとんど行っていないと結論付けています。
米国では国民に牛肉を食べ続けさせようとして「夕食にはやっぱり牛肉」というテレビ・コマーシャルが放映されているのだそうです。ボストンにあるノースイースタン大学の変異型ヤコブ病に詳しいクルール教授は、米国でも日本や英国で実施している全頭検査と同様に全ての牛を検査すべきと呼びかけている(MT 3-18-2004,p2)。またフランスの食物安全機関のサブイ研究部長も「米国は80万頭から300万頭くらいに検査する牛の数を増やすべき」とのべているようです(MT 3-11-2004,p23)。
食肉汚染への対策
米国農務省は、「BSEの可能性がある歩行不能な牛の食肉市場での流通を禁止しておらず、BSE検査は屠殺された牛の0.3%のみであった」ことを明らかにした。牛肉から他の動物の肉に栄養源を切り替えるには、それなりのマイナス面もあるようです。狂牛病への不安から牛肉の代わりに鶏肉や魚肉を摂取する可能性が高いと推測されているようです。
米国立衛生研究所のタスキー博士らは、鶏肉には発癌物質であるヒ素がかなり含まれていることが判ったと報告しています。この原因は、ニワトリの寄生虫を抑制するために飼料に混入されているヒ素にあるのだそうです。平均的な消費量から計算して、鶏肉のみから1日平均3.65マイクログラムのヒ素が摂取されているとしています(Environ. Health Perspec. 112:18-21,2004)。
魚にも水銀やポリ塩化ビフェニールなどによる汚染の恐れがあるけれども、牛肉の代わりに魚肉を食べる消費者が多くなるかもしれない。天然のサケよりも養殖のサケのほうが汚染されている可能性が高いようである(Science 9:226-229,2004)。
政府機関の対応の遅さと拙さは、日本のみならず米国でもさほど変わらない様子が幾つかの報告からうかがい知れます。日本国内でのBSE牛の数は当初予測された数よりはるかに少ないように思えます。米国で飼育されている牛および屠殺される食用牛の数は、日本とは桁が違うようです。年齢に無関係に全ての屠殺牛を検査することは、本当に必要で且つ安全に寄与するのかについて私には理解できませんが、だからと言って0.3%の検査体制で安全が確保できるのかも良く判りません。米国でのBSE牛が1頭で終息するとは限りません、食の安全は最優先して対応するべきと思います。