368. ピロリ菌の薬剤耐性化.8-1-2004.
ピロリ菌Helicobacter pylori は、感染者の約20%が胃十二指腸の病気(潰瘍、胃腺ガン、胃炎、リンパ腫などが含まれる)を発症する。ピロリ菌による何らかの症状を持っている有病率は、世界的には約50%、発展途上国では約90%、米国では約40%であるといわれています。日本人の感染率は、発展途上国なみに高いようです。
3年まえにピロリ菌の除菌治療が保険の適用が認められ、以来最近まで除菌成功率は85%程度と言われていました。ところが近頃は、治療に用いられる3剤から4剤を組み合わる治療薬剤にピロリ菌が抵抗性を示すようになり、除菌成功率が低下しているようです。ピロリ菌薬剤抵抗性を調べると、治療薬のCAMには約19%、AMPCには約15%、およびMNZには10%程度との報告もあるようです(MT8-5-04)。そのうちCAMに対する耐性菌の増加が著しいようです。
米国でも1998年から2002年に収集した臨床分離株347菌株の薬剤耐性を調べたら、101株(29%)が1剤に耐性を17株が2剤以上に耐性を示したとの報告もあります。MNZに対する耐性率は2001年までは他の薬よりは高かったが、CAMは調査期間内での耐性率は低下する傾向を示している(Emerging Infect. Dis. 10:1088-1094,2004)。日本人と米国人のピロリ菌に対する、年齢にもよりますが熟年者から高齢者のピロリ菌の検出率は、日本人の約90%と米国人の約40%の違いがあり、更に治療薬に対する抵抗性もことなります。
ピロリ菌は、酸性環境の胃内に生息する微生物として、微生物屋には面白い存在です。感染しても即座に胃炎などを起こすとは限らないようですが、生涯のいずれかの時期に胃潰瘍や胃ガンなどを発生することは間違いないようです。WHOも胃ガンの原因として取り扱っています。胃内に生息しているのですから、多分口から入り込んだに違いないのです。ところが糞便には検出されないようですから、どこから感染するのかは明確にされていないようです。感染経路が不明確なうえに更に治療薬に対して抵抗性を示す菌が増加することは由々しきことです。治療薬を2週間程度服用しますが、口から入った薬剤が胃内でピロリ菌に対して作用していることもありましょうが、それ以上に体内に吸収された薬剤が唾液などの体液に混じって排泄され、それが胃壁に食い込んでいるピロリ菌に作用するわけです。このような背景も抵抗菌を増やす要因になっているのかもしれません。