384. 新たなサル由来ウイルスの人集団への導入.1-26-2005.
人間社会に突如として現れた後天性免疫不全症候群(エイズ)は、エイズという新しい疾患が発見された1981年当初は大問題となり、20世紀末までに世界では1億人もの患者が発生し、その患者の90%は感染5年以内に死亡すると予測されていました。その後の研究からエイズを起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)には1型(HIV−1)と2型(HIV−2)のあることも判ってきました。
HIV−1は、サルのエイズウイルスであるサル免疫不全ウイルス(SIV)に感染していた霊長類の肉をヒトが食べたことでサルのレトロウイルスであるSIVがヒトの体内に導入された可能性がありそうだとの報告がランセットという超一流の国際学術雑誌に掲載されています(Lancet 363: 932-937,2004)。
この研究成果について報告をしたジョンスホプキンス大学のNathan Wolfe博士らは、別なサル由来のレトロウイルス「サル泡沫状ウイルス(SFV)」についても警告を発しています。このSFVは、霊長類の肉を食べることによりヒトに感染すると考えられる。カメルーンの農業地帯で1,800例を調べたところ、1,100例が狩猟のときに霊長類の血液や体液に触れたことがあると答え、その1,100例のうち10例がSFVに対する抗体が陽性でありました。中央アフリカの住民は、SFVに容易に感染することが予測されることを示しており、狩りや肉を処理する際に霊長類との接触は、ヒトに新しい疾患のリスクを高めるだろうとも述べています。
恐ろしい話ですが、ヒトの健康に対するSFVの影響については報告がないので未知であり、またSFVのヒトからヒトへの感染に関するデータはほとんど存在しないと思われます。しかし、SFVがHIVのように長い潜伏期を経て特定のSFVがヒトに病原性を獲得するようになる可能性は充分に考えられると思います。霊長類に限らず野生の動物との接触は、ウイルス、細菌や原虫にも危険性が叫ばれていますので、注意しましょう。但し、日本国内で霊長類の肉を食べる機会はまずないでしょう。しかし、霊長類の血液や体液に触れる可能性は、動物園、サーカスや動物商で働いている人達には可能性がありましょう。自分一人のためではなく、周りの人達の健康問題としても充分に気をつけましょう。