▲▲  ▼▼

390. かぜウイルスの注射でポリオになる. 12-20-2004.
 
ポリオウイルスの発見。
俗に「小児マヒ」とも呼ばれる神経が侵される恐ろしいウイルス性の感染症があります。この病気は、子供が多く罹り、患児によっては快復が不可能なマヒをおこすことから、小児マヒと呼ばれることがありました。
 
この病気は、ウイルス学を学んだ者には、常に記憶にある記念碑的な存在で
す。上水や下水などの衛生施設が普及するにつれて、神経を侵す小児マヒの大流行が世界各地で起こるようになりました。わが国も例外では有りませんでした。五十年以上も前の出来事です。ポリオ患者またはポリオで死亡した人のサンプルを動物に接種する実験が世界的な規模で実施されました。しかし、サンプルを注射された動物で神経症を示す例は皆目見つかりませんでした。
 
サルの脳に直接サンプルを注射すると、そのサルは神経のマヒを示す症状を呈して死ぬことが判りました。ポリオは、サルにマヒを起こすウイルスによることが判ったのです。この発見をした科学者は、ヒトの血液型を発見したカール・ランドシュタイナーという先生です。
 
サルの脳という特殊な場所以外では増殖しないウイルスの研究は、困難を極めました。原因がわからないと、予防法を含めて何の対策も建てられないのでス。アメリカのハーバード大学にジョン・エンダースという、のちにノーベル賞を受賞するウイルス学者がいました。この先生は、皮膚、肺臓や睾丸などのヒトの組織を試験管のなかで増やして、そこにポリオ患者のサンプルを接種しました。すると神経細胞でない身体を構成する細胞でもポリオウイルスを増殖させることをついに発見したのです。大成功への入口が開いたのでス。ヒト細胞を体外で増殖させる細胞培養法をウイルス学に導入した画期的な実験となりました。
 
神経を侵すウイルスを神経以外の培養した細胞で増殖させる新しい方法を発見した業績が認められ、J.エンダース先生は、ノーベル医学生理学賞が贈られました。この時点から現代ウイルス学がはじまったといわれています。
ポリオは、ポリオウイルスによって引き起こされる病気で、患者の腸管の細胞でも増殖し、糞便に長期的に大量には排泄されることが判りました。自然界では人間にしか感染は起こりません。実験的にはサルも罹ります。このポリオウイルスの突然変異株には、マウスにも感染する株も存在します。
 
コクサッキーウイルスの登場。
ポリオが世界的に大流行していた頃、アメリカのコクサッキーという町で、神経が侵されマヒが起こるポリオに似た病気が流行りました。ウイルス学者の努力により、まもなくマヒを呈している患者からウイルスが分離されました。ポリオウイルスであると思われたそのウイルスは、ポリオウイルスとは別ウイルスであることが判り、分離された新しいウイルスに分離地名を冠して「コクサッキーウイルス」と命名されました。
 
コクサッキーウイルスは、世界各地からその後も続々と分離されるようになりました、結果的には総計で30種類(型)を超えました。一部の型のウイルスは、神経を侵しマヒを起こしますが、多くは神経細胞を侵すことはなく、なつカゼの原因体であるようです。
 
遺伝子組換えマウスでの感染実験。
マウスの細胞は、ポリオウイルスが細胞内に侵入するための吸着レセプターを細胞表面にもっていません。そのためマウス固体は、原則としてポリオウイルスの感染を受けません。
 
アメリカ・デューク大学のMatthias Gromeier博士は、コクサッキーウイルスが吸着するためのレセプター遺伝子をマウスに組み込んで遺伝子組換えマウスを作りました。このマウスの筋肉にコクサッキーA21ウイルスを注射しました。コクサッキーウイルスのA21は、マヒを起こしたヒトから分離されたウイルスですが、かぜを起こすウイルスと考えられています。
 
コクサッキーウイルスに対する感受性を高めた遺伝子を操作したマウスにかぜウイルスを筋肉に注射しました。予想に反してこのマウスは、かぜを発症せずにポリオウイルスの特徴であるマヒを示しました。MGromeier博士は、ウイルスを本来の感染部位である鼻腔ではなく筋肉内に直接注射したところ歩行異常、後肢のマヒなどのポリオ様症状を示したと述べています。
 
今回の実験は、ポリオウイルスとコクサッキーウイルスがいかに似ているかを証明し、鼻の代わりに筋肉を注射部位にするちょっとの違いにより、無害なかぜウイルスが中枢神経系を攻撃するようになることは興味深いと述べています(PNAS 101:13636-13641,2004)。
 
意外な現象が起こるものとこの論文を読んで私は不思議に思いました。現在世界的にポリオの根絶が進んでいますが、近い将来ポリオがこの世から駆逐されてしまうと、ポリオワクチンは必要でなくなり廃止になるでしょう。そうすると我々の免疫系はポリオウイルスに対する免疫抗体を産生しなくなりますから、ポリオウイルスに代わってコクサッキーウイルスがマヒを起こすようになってしまうことも可能性としてありうるのでしょう。遺伝子を人工的に操作すると、人間の考えをはるかに超えた現象が起こるようになるのでしょうか、恐ろしい話です。

▲▲  ▼▼



Copyright (C) 2011-2017 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.