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402. 足の臭いと細菌−実験しました. 5-30-2005.
 
足や靴が臭い
ホームページの「お知らせ」の30番に次のような事柄を書きました。「足のにおい」が北海道放送HBCの人気番組ビタミンTVの12月15日の3時45分から15分間ほど放映されました。私は、足のにおいの原因と対策の説明について協力しました。
冬になると長い革靴ブーツを履く若い女性がおおくなります。ブーツのなかは特有の臭いがすることが多いようです。足が臭うのは女性に限りませんが、気にしている人には若い女性が多く見かけられます。足が臭う原因は、ブドウ球菌などの細菌が増殖して悪臭物質の一つである「イソ吉草酸」ができるからです。適度な湿度と温度および栄養分とが存在すると雑菌が増殖して臭くなります。対策としては、「足を乾燥させておくこと、足の指の間も良く洗うこと、足に合った靴を履くこと」が考えられます。と書きました。
 
私は皮膚科のお医者さんでもありませんし、足の臭いの専門家でもありません。それでもホームページから足の臭いについてテレビ局も含めて色々な方々からの問い合わせは、季節にもよりますが結構多いのです。
人手と暇がないものですから、近頃は水素に関する実験以外は、あまり積極的には何の実験も実施していません。私は自分の足が他人に迷惑になるほど異臭を放っているとは一度も感じたことがありません。しかし、一方では、自分の足の臭いに悩まされ続けている人も大勢いることも確かです。それで足が臭いと感じている人と臭いと思ってない人に協力してもらい、足の細菌について調べる実験をしてみました。
試験から知りたいことは、足が臭いと思っている人と臭いと感じていない人の足に付着している細菌の数や種類に違いがあるのか、臭いと思っている人には特有な細菌叢があるのか、臭い原因物質は検出されるかなどでした。しかし、他人の足を直接触れながら試験するのは結果的には難しかったので、足を直接調べる代わりに靴下を試験材料として使いました。
専門的で少し難解な論文調の内容となるかもしれませんが、出来るだけ平易な表現に務めます、その骨子を以下に記します。足が臭いと感じている方は、特に読んでください。
 
細菌の調べかた
この類いの実験は、条件を同じくして被験者を得ることから始まり、意外に実施が難しいことがありました。ある企業の工場で朝から夕刻まで1日中働いている人から協力者(無報酬)を募ることにしました。実験の趣旨をよく説明しました。その上で、靴下に付着している細菌を調べる、足が臭い人と臭くない人が必要なので、協力者は足が臭いとは限らないことを公にし、さらに協力者が特定されないよう配慮する旨を約束しました。全てブラインドで試験を実施しました。
更衣室に滅菌した白い綿製靴下を充分量準備し、誰でもが使用しても良いことにしました。作業開始前に清浄な靴下を履いてもらい、作業を通常通りに1日続けてもらいました。更衣室にもどってきたときに、協力者は二枚のビニール袋に靴下を1枚ずつ入れて、自分の好きな≪印≫をビニール袋に書き、第2回目の試験のときにその協力者を識別できるように頼みました。また本人自身が自分の足は臭いと思っている人は○をつけてもらいました。試験に協力していない人は、靴下をビニール袋には入れますが、印をつけないことを頼みました。そのビニール袋を洗濯袋に投げ込んで退社してもらいました。
臭いに対する感受性は人により大きく異なりますから、総務課のボランティア5人に官能試験をお願いしました。≪印≫と○の有無は完全なブラインドにして、1枚のビニール袋の口からなかに入っている靴下の臭いを嗅いでもらい「臭い」と「臭くない」の2群に分けてもらいました。途中から臭気を微量分析機で機械的にも調べました。開封してないビニールの靴下は、実験室に翌朝に届くようにクール宅配便で送ってもらいました。
靴下は、生理食塩液の入っている特殊な軟らかいプラスチック袋に入れ、それを機械的にモミ洗いして、靴下に付着している細菌を生理食塩液に振り落としました。その液体のサンプルを一人ずつ別々にして細菌を調べました。実験は7月と2月に行ないました。第1回目のサンプルサンプルは7人分をランダムに選び、#1〜#7の識別番号をつけました。第2回目サンプルは、第1回と同じ人(印)を見つけ出して実験に供しました。
 
好気性一般細菌(ハートインフュージョン寒天培地の3枚に塗布し、35℃で48時間培養)、真菌(クロラムフェニコール加ポテトデキストロース寒天培地の3枚に塗布し、27℃で7日間培養)と黄色ブドウ球菌(食塩卵黄寒天培地の3枚に塗布し、35℃で48時間培養)を目的としての培養をおこないました。好気性一般細菌は、培地に発育した集落の中から優占的に発育している集落3〜5種を分離し、次いで純粋培養してから簡便な同定試験を実施しました。
ブドウ球菌による悪臭発生試験も実施しました。靴下から分離されたどの細菌種が足の臭いの発生原因となるのかを確認する目的で、培養した際一般的に不快な臭いを発する黄色ブドウ球菌を好気的および嫌気的に培養して、有機酸臭の有無を鼻で検証しました。タンパク源として、牛胎児血清、卵黄や卵白アルブミンを加えたハートインフュージョンブイヨンとハートインフュージョン寒天培地など色々な培地を試験に用いました。
 
細菌を調べました
1.靴下の臭い。
靴下の臭いを調べましたが、検査した5人全員が確実に臭いと判定できた靴下は全体としてはありませんでした。検査した5人のうち2人が「臭い」と判定した靴下は、3人分ありました。イソ吉草酸など悪臭物質が検出されることを期待していましたが、人間の官能試験で臭いとなった靴下からガスの微量分析の結果でもイソ吉草酸など悪臭物質が確定できる成績は得られませんでした。
 
2.細菌について。
1)検出菌数
各サンプルから分離された好気性一般生菌、黄色ブドウ球菌以外の菌、黄色ブドウ球菌および真菌の数(CFU)を表−1に示した。靴下一枚当たりの一般生菌数は、7.4×10(7百40万個)〜6.4×10(6億4千万個)CFUの範囲にありました。そのなかでも靴下の#3#5と#7の3サンプル(結果的にこの三人には偶然に○がついていました)からは、他の靴下よりは多い4.6〜6.4×10CFUの菌数が検出されました。また、靴下#5のサンプルからは、検出された細菌の殆どが黄色ブドウ球菌でした。
 
表−1 靴下からの細菌の検出結果
記 号
 
一般細菌
 
黄色ブドウ球菌以外
のブドウ球菌
黄色ブドウ球菌
 
真 菌
 
# 1 3.5×10 3.2×10 未検出 2.3×10
# 2 7.4×10 7.8×10 未検出 1.0×10
# 3 ○ 6.4×10 5.5×10 未検出 3.4×10
# 4 4.2×10 5.1×10 未検出 1.5×10
# 5 ○ 6.4×10 1.6×10 5.3×10 1.0×10
# 6 2.8×10 1.2×10 未検出 1.0×10
# 7 ○ 4.6×10 5.3×10 2.0×10 1.2×10
菌数CFU/靴下、 未検出(<10)、○は自分の足は臭いと思っている人
 
7月と2月の気温や湿度の異なる時期2回の試験結果から、サンプル#3、#5と#7は、他の4名より一般生菌数が多い事が判明しました。その一般生菌は、大方がグムラ陽性の球菌でブドウ球菌属の細菌と思われ、大腸菌や緑膿菌のようなグラム陰性桿菌は検出されませんでした。サンプル#5からは、二回とも黄色ブドウ球菌が純培養に近いかたちで検出されました。カビおよび酵母などの真菌は、ごく少数検出されました。しかし、靴下一枚から検出された一億個(CFU)程度の一般生菌数は、特別に多く病的とは考えられないと思われます。
 
2)検出された細菌の種類
ハートインフュージョン寒天培地に形成された集落は、色、形態、大きさ等の性状を詳細に観察し、性状の違う集落を識別し、その数を算定しました。結果として、性状の異なる集落の数はそれほど多くはありませんでした。優占的に発育している外観の異なる集落をきるだけ多く釣菌し、純培養後に同定試験を実施しました。その分離した菌の同定結果は表−2に示します。分離された菌の大部分はブドウ球菌でした。しかし、靴下#5からは黄色ブドウ球菌74%、靴下#7からはグラム陽性桿菌が2株分離され約30%を占めていました。
二回目靴下の各サンプルから分離された細菌の構成は、一回目サンプルとは少し異なり、ブドウ球菌の割合は少なくなり、グラム陽性桿菌が#1と#4以外の全ての靴下から分離されました。しかし、靴下#5は黄色ブドウ球菌が優占菌種であした。
 
表−2 分離した菌株の同定結果と構成比
靴下記号 分 離 菌 株 と 構 成 比
# 1
一回目
 
Staphylococcus epidermidis 38%,   Staphylococcus capitis 23%,
Staphylococcus aureus
16%,   Staphylococcus warneri 14%,
Staphylococcus capitis
10% 
# 1
二回目
Staphylococcus sp. 52%,  Staphylococcus epidermidis 20%,
Micrococcus sp. 20%,
  Staphylococcus caprae 7%
# 2
一回目
Staphylococcus capitis 47%,   Staphylococcus warneri 18%,
Staphylococcus warneri  18%
# 2
二回目
Staphylococcus epidermidis 44%,   Corynebacterium sp. 21%, 
Micrococcus
sp. 13%,
  Staphylococcus saprophyticus 10%
# 3
一回目
Staphylococcus caprae 43%,   Staphylococcus caprae 17%,
Staphylococcus warneri 17%
# 3
二回目
Staphylococcus epidermidis 79%,   Staphylococcus warneri 12%, 
Corynebacterium
sp. 8%,
  Micrococcus sp. 4%
# 4
一回目
Staphylococcus capitis 58%,  Staphylococcus epidermidi 21%
Staphylococcus sp. 21%
# 4
二回目
Micrococcus sp. 63%,   Micrococcus sp. 9%, 
Staphylococcus
capitis 9%,   Staphylococcus warneri 9% 
# 5
一回目
Staphylococcus aureus 74%,   Staphylococcus warneri 11%,
Staphylococcus capitis 9%, 
  Staphylococcus epidermidis 6%
# 5
二回目
Staphylococcus aureus 50%,   Corynebacterium sp. 9%,
Corynebacterium sp. 9%
# 6
一回目
Staphylococcus capitis 71%,   Staphylococcus warneri 10%,
Micrococcus sp. 7%
# 6
二回目
Micrococcus sp 59%    Corynebacterium sp.  37%
 
# 7
一回目
Micrococcus sp. 51%,  グラム陽性桿菌 21%,
グラム陽性桿菌 9%,   Staphylococcus epidermidis 9%
# 7
二回目
Corynebacterium sp. 54%,   Corynebacterium sp. 24%, 
Micrococcus sp. 10%, 
  Staphylococcus warneri 7%
*上段は一回目の試験、下段は二回目の試験
 
3)検黄色ブドウ球菌と緑膿菌の湿度に対する抵抗性 
黄色ブドウ球菌と緑膿菌を乾燥した空気に曝した場合の生き残る状況を検討しました。黄色ブドウ球菌、MRSAと緑膿菌を付着させた特殊なフイルターを湿度が75%、53%と33%に調整した容器に入れ、密閉後37℃のフラン器で保温した。24時間ごとにフルターを取り出し、生き残っている菌数を測定した。結果を表−3にまとめて示しました。
黄色ブドウ球菌は、用いた菌株によって生き残った生菌数に多少の差異がありましたが、湿度が多少異なっても24時間後には確実にある程度の菌数は生き残っていました。しかし、緑膿菌は、何回繰り返しても湿度に関係なく24時間後には全く生き残っている菌数は認められませんでした。
靴に乾燥剤などを一晩いれておいても悪臭を放つと言われている黄色ブドウ球菌は、完全に殺滅されることは難しいことを示すことを示唆しています。
 
表−3 黄色ブドウ球菌と緑膿菌の乾燥に対する抵抗性
検 出 さ れ た 生 菌 数(CFU/0.1ml)
湿 度 75% 53% 33%
黄色ブドウ球菌      
0日 1.7×10 1.7×10 1.7×10
1日 4.1×10(24.1%) 7.8×10(4.6%) 1.6×10(9.4%)
3日
MRSA      
0日 1.1×10 1.1×10 1.1×10
1日 4.3×10(3.9%) 1.1×10(1.0%) 1.5×10 (1.4%)
3日
緑膿菌      
0日 1.1×10 1.1×10 1.1×10
1日
3日
 
4)ブドウ球菌の異臭。
靴下から分離した黄色ブドウ球菌を含めたブドウ球菌と研究室に保存してあるブドウ球菌の代表株などをタンパクが添加してある栄養液で培養し、靴下の臭いのような臭気が感じられるか調べました。どのような菌でも無臭ということは無いのですが、イソ吉草酸のような悪臭は感じ取ることができませんでした。更に微量な臭気物質の検出を分析機でも行いましたが、特異な反応は検出できませんでした。
 
5)考察
足が臭いと思っている人の靴下と足の臭いに問題がないと思っている人の靴下から検出された細菌の数と種類に際立った違いは認められませんでした。それでは細菌の数や細菌種に全く違いがないのかと言われると、細菌学の常識から判断すると病的な状態を示すような成績はえられませんでしたが、違いが全くないと断言することはできません。
足が臭いと思っている人の靴下は、検出された細菌の数は多い傾向があり、更に黄色ブドウ球菌が多く存在するような傾向がありました。但し、黄色ブドウ球菌が何個以上検出されると臭くなるのかなどに応える成果は得られませんでした。
グラム陽性球菌として黄色ブドウ球菌およびグラム陰性桿菌として緑膿菌を代表菌種として選択し、液体中でなく気相中での乾燥(湿度75%、53%と33%)に対する抵抗性を調べました。
環境中では台所や風呂場などの水周りに多く生息していると一般に考えられている緑膿菌は、試験した範囲の湿度では一晩でほとんどが死滅してしまうことが判明しました。この傾向は、菌をミストにする液体を栄養分の多い液体培地を用いても観察されたことから、栄養分の不足ではなく気相中での抵抗性が極めて弱いことを示唆するものと考えられます。
一方、黄色ブドウ球菌は、湿度の高低にかかわらず気相中に一晩放置した状態では、菌数の減少は認められましたが、ある程度の菌数は残存することが判りました。
気相中での乾燥に対する抵抗性についてはグラム陽性桿菌の枯草菌はブドウ球菌と、グラム陰性桿菌の大腸菌は緑膿菌と似た成績を示しました(成績は示してありません)。このことからグラム陽性菌は乾燥状態に対してある程度抵抗性があるが、グラム陰性菌は乾燥に弱いことが判りました。
 
6)まとめ
始業時から退社時まで作業中に履いてもらった木綿の靴下に付着している細菌を調べました。自分の足は臭いと思っている人○と足が臭いと思っていない人の靴下の細菌とブドウ球菌の湿度に対する抵抗性も合せて調べました。
1.木綿の靴下(片側)から回収された一般生菌数は、7百40万個〜6億4千万個CFUの範囲にありました。
2.自分の足は臭いと思っている3人の靴下からは、他の4名より一般生菌数が多く数億個の菌数が検出されました。尚、検出された細菌の殆どが黄色ブドウ球菌であった人も1人いました。
3.検出された一般生細菌の大方は、グムラ陽性の球菌でブドウ球菌属の細菌と思われるものでした。
4.緑膿菌は、湿度に関係なく気相中に1日放置すると、全て死滅し生残菌は検出できなくなりました。一方、ブドウ球菌は、湿度33%に一晩放置しても菌数は減少するが、全ての菌が死滅することはありませんでした。
 
以上のことから、足が臭いと人と臭いと感じない人の靴下に付着している細菌を調べたが、病的と判断されるような現象は観察されませんでした。また靴下から悪臭物質を検出することもできませんでした。但し、湿度を33%に保っても臭気を発生する可能性のある黄色ブドウ球菌を完全に死滅させることはできないことが判明しました。

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