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419. 口腔ケアの重要性. 1-5-2006.
 
10年以上も前のことになりますが、病院などの医療施設で患者が実際に使用しているベッド(マットレス)の細菌学的な清浄度を調査したことがあります。その結果については、「院内感染防止対策に対する提言」というタイトルで日本細菌学会誌に掲載しました。患者用マットレスは、驚くような細菌により大変に汚染されていることが判明しました。いま現在は、シーツもマットレスも定期的に洗濯されていますので清浄化されています。
 
一部の医療機関を別にして今現在も殆どの医療機関では、患者さんが私物として個人的に使用している下着とその洗濯については、全く管理ができないでいます。下着までも施設が管理しないと病室やベッドなどは、衛生的に維持管理するのは難しいのです。その結果、院内感染があとをたたないことにもつながります。医療施設側で下着の洗濯と管理までを担当すると、それに要する費用を誰かが負担する必要があり、問題となります。
 
患者さんの下着とは別に、医療機関であまり注意されてなく、結果として管理されてない事柄に、老齢な入院患者の口腔内の衛生状態があります。自分で出来る場合は別で、患者によってはヘルパーさんが本人に代わって、歯を磨いてあげたり、またはぬるま湯で口をすすいでやったりしています。このマウス・ケアは、規則も無ければ、誰もが正式な教育や訓練を受けていませんので、いい加減に扱われているような気がしています。
 
米国老齢医学会の学術誌(Journal of American Geriatric Society 50: 430-433, 2005)に東北大学の佐々木教授の研究グループがマウス・ケアの調査研究の結果を報告しています。佐々木教授(現在は秋田看護福祉大学の学長)らは、11の老人保健施設の入所者417例(平均年齢82歳)を対象に、食後五分間のブラッシングや消毒を実施しました。マウス・ケアを実施した群とケアを実施しない群に老人を無作為に分け、肺炎の発症と肺炎による死亡率を1996年から二ヵ年にわたり、追跡調査をしました。
マウス・ケアの結果は、歯の有無にかかわらず、次のようでありました。ケア実施群での肺炎の発症率と死亡率は11%と7%であったのに対して、ケア実施ナシ群の発症率と死亡率は19%と16%と高い値になりました。口腔ケアを実施している群では、肺炎の発症と症状の重症化が有意に抑制されていることが判明しました。
佐々木先生たちの研究グループは、食後五分間の口腔ケアが高齢者の肺炎の発症率や死亡率の低下、さらには認知機能の低下抑制(俗にいうボケ防止)にもつながることを確認したと報告しています。
 
 
歯が抜けてしまって歯の無い人は、歯を磨くことの必要性はないでしょう。しかし、歯のあるなし、義歯のあるなしなどとは無関係に、食後に歯と口の中を清潔にすることは必要です。その行為が適切におこなわれていれば、口腔内のバイキンをも減らすことにつながります。そうすることにより、口臭も少なくなるでしょうし、発熱の原因も少なくなり、細菌による肺炎の発症や肺炎による死亡も抑制されるのでしょう。看護師およびヘルパーのみなさん、老人のためのマウス・ケアを考えてみませんか。

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