431. ボツリヌス毒素と三叉神経痛. 11-25-2005.
世界最強の毒素を作るボツリヌス菌は、大変に恐ろしい病原細菌の一種類です。その毒素は、筋肉を麻痺させる作用があります。この毒素の生物学的な特性を逆手に使って、治療に用いられることが報告されています。今回は、ボツリヌス毒素の三叉神経痛に対する治療効果の概要を紹介します。
ブラジルにあるパラナ大学神経科のE.J.Piovesan博士らは、米国の研究者と共同で、三叉神経痛の顔面痛にもボツリヌス毒素が効果のあることを見つけ出し、米国神経学会の学術雑誌に発表しました(Neurology 65: 1306-1308, 2005)。
三叉神経痛の13例の患者にA型ボツリヌス毒素を投与しました。その結果、ボツリヌス毒素の注射を開始して10日で13例の全例で痛みが有意に軽減し、20日後には痛みがほぼ消失しました。ボツリヌス毒素が三叉神経痛による重度の顔面痛にも効果があると述べています。ボツリヌス毒素の注射を受けた13例の全例で大きな副作用は認められなかったが、プラセボを含む対照をおいた60日間以上の臨床試験が必要とPiovesan博士らは、述べています。
三叉神経痛は、通常片側の顎(あご)や頬(ほほ)に急激且つきわめて強い突き刺すような激痛が走ります。痛みは数秒間持続しますが、連続する痛みの発作を繰り返すこともあります。この痛みは、他人との会話、歯磨き、何かを飲み込む嚥下などの行為が引き金になり症状がでることが多いようです。女性の方が男性よりも多いと言われています。主な治療法としては、抗痙攣薬の投与ですが、場合によっては神経を切断する手術も行われることもあります。
痛みやかゆみは、時に耐えがたいもののようで、患者本人にしかその本体については解らないようです。三叉神経痛は、激しく持続する痛みが特徴です。ボツリヌス毒素の治療薬としての試みは、これまでに片頭痛や目瞼痙攣に効果があるので、今回三叉神経痛に対する効果を試みたようです。本曖昧模瑚でも、これまでにも「343. 脳性まひとボツリヌス毒素.1-2-2004. 」
で筋肉が激しく動く不随意運動に悩まされる脳性まひ、「
376. A型ボツリヌス毒素の効用. 10-2-2004. 」
で多汗症に対する効果があることを触れています。薬は毒であり、毒は薬にもなることを証明する話題です。生物学は面白いですね。