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456. MRSAに有望なワクチンと新薬.12-25-2006.
キーワード:MRSA ダプトマイシン バンコマイシン ワクチン
 
メチシリンをはじめとする多くの薬剤に抵抗性を示すMRSAによる感染は、医療機関を含めてきわめてしんこくな状況にあります。いま現在有効であるバンコマイシンに対してMRSAが抵抗性を新たに獲得すると、治療するすべがなくなる可能性が真剣に検討されています。そんななか新しい抗生物質と新しいワクチンの開発を報じる論文が米国の超一流の学術雑誌にアイツイで発表されました。この朗報に思える論文の骨子を紹介します。
 
MRSAに20年ぶりに新薬の登場
米国デューク大学医療センター感染症学のVance G. Fowler, Jr.博士を筆頭者とし、その他関係者多数の連名で、黄色ぶどう球菌による菌血症Bacteremiaと心内膜炎Endocarditisに対する新しい治療薬としてダプトマイシンDaptomycinの有効性と安全性についての臨床試験の成績をN. Engl. J. Med. (355: 653 ? 665, 2006)に発表しました。この試験の成績にもとづいて、米国食品医薬品局(FDA)はダプトマイシンを皮膚感染症に加えて菌血症と心内膜炎の治療薬として承認しました。
黄色ブドウ球菌が引き起こす感染症は、世界中で毎年200万件、死亡者は9万人と報告されています。黄色ブドウ球菌による感染症の治療が困難であるのは、多くの菌株がペニシリン系抗生物質に耐性であることによります。MRSAに対して信頼できる選択肢としての薬剤は、バンコマイシンのみとなっています。
ダプトマイシンは、黄色ブドウ球菌による皮膚感染症(オデキや手術の傷口の感染)の治療薬として2003年にFDAの承認を受けています。しかしながら、皮膚感染症よりより重度な菌血症と心内膜炎に対してダプトマイシンが有効であるのかは現在まで明らかではありませんでした。
黄色ブドウ球菌による心内膜炎は、心内膜炎のなかでも特に重度で三尖弁、僧帽弁または大動脈弁をおかす可能性があり、基礎心疾患を有する患者には黄色ブドウ球菌が心内膜炎を発症することが多いとされています。
 
試験に用いた対象は、黄色ブドウ球菌によって菌血症を起した患者で,心内膜炎を伴う患者と伴わない患者のうち,124 例をダプトマイシンを静脈内に投与する群と,別な122 例を標準治療法によりゲンタマイシンを最初の4 日間投与し,その後にペニシリンまたはバンコマイシンを投与する群との二群に無作為的に分けました。
その結果は、治療薬を投与終了後42日目に治療成功が報告されたのは,ダプトマイシン投与を受けた患者では 120例中53例(44.2%)であったのに対し,標準治療を受けた患者では115例中48例(41.7%)であった。薬剤耐性黄色ブドウ球菌の除菌の成功率はダプトマイシン群の44.4%と高かったのに対して標準療法では31.8%であつた。しかし、薬剤耐性を示さない黄色ブドウ球菌での成功率はダプトマイシン群の44.6%であったのに対して標準療法では48.6%と高かった。これらの差は統計学的に有意とは認められませんでした。ダプトマイシン群で微生物学的に失敗が認められた患者19例中6例でダプトマイシンに対する感受性が低下した分離株が認められ、同様に,バンコマイシンで治療した患者の分離株でも,バンコマイシンに対する感受性の低下が確認されました。また臨床的に重大な腎機能障害は,ダプトマイシン群の11.0%と標準治療群の26.3%に発現しました。
結論として、黄色ブドウ球菌による菌血症と心内膜炎の治療において,ダプトマイシンは,ペニシリンやバンコマイシンを用いる標準治療と比べて劣ってはいなかった。
 
MRSAに新ワクチン開発
米国シカゴ大学微生物学のO. Schneewind博士らは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する有望な新ワクチンを開発し、マウスを用いた実験の成績から、このワクチンはヒトに感染を引き起こすMRSAに対しても有効であることが判ったとPNAS 103:16942−16947,2006に発表しました。
Schneewind博士らは、8種類の黄色ブドウ球菌に共通する遺伝子を同定し、8種類の全ての菌株の細菌細胞の表面に存在する19種類のタンパクを検出しました。この19種類のタンパクを別個にマウスに注射して、どのタンパクがどのような免疫応答を起こすかを調べました。試験した19種類のタンパクのうち、強い免疫応答を誘導した4種類のタンパクを選びだし、この4種類のタンパクでワクチンを作りました。
この4種類のタンパクを混合したワクチンをマウスに注射した3週間後に、そのマウスを異なるタイプのMRSAに暴露しました。ワクチンを投与されたマウスは、ヒトの感染由来のMRSAに暴露された後も全て生き残りました。これに対してワクチンを注射してない対照マウスは、同じMRSAの菌株に暴露したら65%が死亡しました。
この新しく開発されたMRSAワクチンは、複数の黄色ブドウ球菌のタンパク質を混合して使い、免疫系を強く刺激したようです。最も清潔に見える病院でもMRSAの感染が蔓延し、米国内だけでも毎年1万2千人の入院患者が死亡しているとされています。特に免疫不全患者が入院中にMRSAに感染するリスクはかつてないほどに増加しています。このワクチンのヒトでの有効性と安全性が確認されれば、有望な予防策になるでありましょう。
Schneewind博士らは、入院して手術を受ける患者は、前もってこの新ワクチンを投与することで、手術およびその後の入院中のMRSA感染を予防できる可能性が生まれ、有望なアプローチとなると論文のなかで述べています。
 
MRSAに対してはバンコマイシンのみが有効な抗生剤でありましたが、やがてはMRSAが新たに耐性を獲得するのではと危惧されています。このような状況では、ここに紹介した新しい抗生物質と新しいワクチンの登場により、これからのMRSAの治療に新たな選択肢が増えたことになります。このような環境では特にワクチンはきわめて重要になってくるでしょう。

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