465. 関東の大学でハシカが流行. 5-15-2007.
キーワード:麻疹、ワクチン、ウイルス、免疫、発疹、脳炎
日本はハシカ大国
新聞やテレビ等のマスコミによると、関東の名だたる大学で麻疹(はしか)の流行のために休講が続出している様子が毎日のように報道されています。ワクチンの在庫も底をつきそうですし、麻疹の検査を実施する試薬も不足気味なようです。
麻疹の患者は、毎年あるていどの割合でこれまでも発生しています。これは欧米の工業国としては考えられない惨めな状況です。ワクチンの接種率が低いための結果なのです。先進諸国では、予防策が功を奏して、麻疹の患者はきわめて少なくなりました。ところが麻疹のウイルスを日本人観光客が持ち込むので、「日本は麻疹の輸出大国」で困ると国際会議などでもささやかれています。
麻疹のワクチンが開発されていなかった一昔前までは、春先になると幼稚園児などが「麻疹」に罹り、学級閉鎖などが頻繁に行なわれていました。発熱して苦しんだ麻疹に罹った子供たちは、その苦しんだ代償として生涯持続するような強い免疫を貰っていました。
そのためハシカは一度罹ると二度とかからない病気と一般に信じられていました。
ところがいま関東地方の大学でハシカが大流行し、学生が集団で感染しているそうです。さらに典型的な症状をださない患者が増えてきているのです。
すこし前には、特に何人かの子供を生んだことのある母親は、麻疹を診断できるほど典型的な症状が表れたものです。ところが今は小児科のお医者さんでも診断が難しい麻疹が多くなってきていると聞きます。一昔前の常識では、考えられないことが起こっているのです。
麻疹は、麻の実のような小さな発疹(ほっしん)ができることから麻疹と書きます。ウイルスの広がりは強く、感染するとほぼ百パーセント発症する恐ろしい子供の感染症でした。ところが幼児の病気がどうして大人にはいりこむのでしょう。
麻疹ウイルスの病気を起こす力を弱めた弱毒ウイルスが確立されているので、生きている弱毒ウイルスを用いた麻疹の生ワクチンが開発されています。麻疹の生ワクチンを注射すると高率に免疫状態が誘導されるようになります。
世界中から麻疹を撲滅しようとの運動が展開されていますから、麻疹は一時期よりは確かに少なくなりました。身近にいる幼稚園児も麻疹にあまり罹らなくなると(少なくなると)、ワクチンを接種しない人が多くなる傾向が国内にはあります。小さいときにワクチンを注射されていない子供が成長して大学生になり、免疫力がありませんから、幼稚園児と同じように感染することが多くなったようです。
それともう一つ別な要因が考えられます。
麻疹が流行っている所では、病気を起こす力の強いウイルスに感染することになりますから、感染するとすぐに症状が表れます。少しだけ弱毒したウイルスを注射すると、ほとんどの人が免疫を獲得できますが、同時に全員が病気になってしまいます。
弱毒化を強力に進めて、全く無毒にしたウイルスは(作ろうと思えば作れるのですが)、注射された人を病気にしないだけでなく、免疫も作らなくなってしまいます。
あまり副作用を示さない程度に弱毒した(完全に無毒ではない)ウイルスをワクチンのウイルスとして用いています。弱毒されたウイルスは、強毒なウイルスほどには、強く持続するような免疫をつくることは出来ないと思われます。それでも周りに麻疹のウイルスが空気中を漂っていて、麻疹になる子供が多いと、弱毒されたウイルスであまり強くない免疫状態も、自然に存在している強毒なウイルスの力で、常に免疫力を補強されていることになります。
それで一度ハシカに罹ると二度と麻疹に罹らないといわれていたのです。ところが補強してくるウイルスが身のまわりの環境中に少なくなると、ワクチンを注射された人の免疫も時間の経過とともに段々と弱くなってしまうらしいのです。これが問題の根底にあるのです。
ワクチンを注射されてない人と、ワクチンは注射してもらったがあまりに昔のことなので、免疫が弱くなっている人とが増えてきている結果、都会で大人である大学生が子供の病気になっているようです。さてどうすれば良いのでしょうか、皆で考えて見ましょう。
麻疹は怖い病気です
たかが子供の病気である麻疹と思っている人、またはすぐに治る病気と思っている人が結構いると思いますが、本当には麻疹はすごく怖い病気なのです。
麻疹ウイルスは、感染力が極めて強いウイルスの一種です。感染すると一週間か2週間後に発疹が現れはじめ、発疹が現れる2〜4日前から発疹が消えるまでの期間は他人にうつす感染力があります。
麻疹にかかった子供の1,000人に約1人が脳炎を発症します。脳炎が起きるときは、普通、発疹が現れてから2日から3週間後に高熱、けいれん、昏睡(こんすい)などが始まります。約1週間で回復することもありますが、長びいて重篤(じゅうとく)な合併症である亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん)が、数カ月から数年後に発症することがあり、脳に障害を残します。
亜急性硬化性全脳炎は、はしかのウイルスに長期間脳が感染した結果起こり、ウイルスが再活性化することで発症します。麻疹に罹った人の100万人に1人くらいの割合でこの病気が起こります。
この病気は普通、子供か20歳前の若者に発症します。最初の症状は、学業成績の低下、健忘、注意散漫などです。いったん発症すると症状は段々と進行し、治ることは期待できません。
最終的には植物人間となり死の転帰をとります。これほど怖い病気は多くはありません。防御は最大の攻撃なり。
麻疹に罹って6年くらい経過した頃から、優等生であった生徒の成績が段々と低下しだし、そのうち食事のときにご飯や汁をこぼす様になります。小脳が侵されるため運動機能が低下し、自立した生活ができなくなります。これが麻疹感染後に希に起こる「亜急性硬化性全脳炎」という100パーセント不治の病なのです。可愛い子供を麻疹で亡くさないためには、麻疹に罹らないように予防策を講じることをおすすめします。
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