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508. アルツハイマー病のワクチン. 10-22-2008.
キーワード:アルツハイマー病、予防ワクチン、アミロイド、IL−4
 
アルツハイマー病は、認知症と日常生活機能の低下を特徴とする神経が変性する疾患で、脳内のアミロイド斑沈着とタウタンパク質の機能喪失が特徴です。
 
アミロイドの主要成分は、アミロイドβ蛋白(Aβと略記)と呼ばれるアミノ酸が40〜42個からなるペプチドで、正常な人でも生理的に産生されます。産生されたAβ(そのほとんどはAβ40)は、種々のメカニズムにより脳実質から除去されると考えられていますが、アルツハイマー病の脳では正常ではあまり産生されないAβ42がアミロイドとして除去されずに沈着します。
 
タウ蛋白は神経軸索内の分子量が約5万の微小管に結合する蛋白で、微小管の重合を促進したり安定化したりする働きがあるとされています。微小管は細胞の骨格を形成し、細胞内の蛋白質の輸送や細胞内小器官輸送のレールとして機能している。この輸送機構はタウ蛋白質がリン酸化されると微小管が不安定化し細胞内の物質輸送を抑制してしまう。タウの異常は神経変性疾患共通の現象であると考えられています。
 
インターロイキン−4(IL−4)は、2型ヘルパーT(Th2)細胞が関与する免疫応答を強化するタンパク質で、Th2細胞は免疫応答において重要な役割を果たすリンパ球である。
 
アルツハイマー病のワクチンによる治療
米ロチェスター大学医療センターのWilliam Bowers准教授らは、ヘルペスウイルスにアミロイドβとインターロイキン−4の遺伝子を封入したアルツハイマー病ワクチンを開発し、マウスを用いた実験を実施しました。その結果、アルツハイマー病様病変の進行を予防する良好な成績をおさめたとして、その成果を学術雑誌に発表しました(Molecular Therapy 16: 845-853, 2008)。その概略を紹介します。
 
ワクチン開発の目標は、生理的に産生されるアミロイドβタンパク質を免疫系が認識し、排除できるようにすることである。ワクチンは、ヘルペスウイルス粒子から病気や障害を起こす可能性のある遺伝子を取り除いたウイルス粒子の殻を用いた。このウイルスの殻にアミロイドβとIL−4の遺伝子を封入して作製したものです。
 
今回の実験に用いられたマウスは、遺伝子操作によりアミロイドβタンパク質を過剰に発現するように改変されたものを用いた。ワクチンを接種する前に、マウスを自分がいまいる場所に関するヒントを手がかりに迷路を通過するように訓練し、ワクチン接種後の10か月間に同じ迷路を用いた試験を定期的に行った。出口にたどり着くまでの所要時間や移動した距離、途中の錯誤回数などを記録し、評価対象にした。
 
実験では、空のウイルス殻のみ、アミロイドβの遺伝子のみを封入したワクチン、アミロイドβとIL−4の両方の遺伝子を封入した完全なワクチンを、それぞれ3回ずつ接種した。
 
その結果は、完全なワクチンを接種したマウスでは、アミロイドβペプチドの過剰な蓄積であるアミロイド斑を除去するように働く免疫応答が誘導された。また、重度アルツハイマー病を発症するよう遺伝子的に操作されたにもかかわらず、正常な学習能力と記憶機能を示した。脳内に典型的なアミロイド斑を認めなかった。さらにタウタンパク質が性状から病的状態に移行することも予防できたのである。
 
Bowers准教授は、「今回得られた知見は、アルツハイマー病関連病理と記憶障害を予防する免疫応答の誘導により、有効で安全なワクチンを開発できる可能性を示唆する」と述べている。
 
アルツハイマー病は、痴呆のなかで一番多い認知症です。近頃は、若年性の認知症も多くみられるようになりましたが、相対的には高齢者に多い疾患です。初期には物忘れが頻繁に起こるようになり、家族や同僚などの周りにいる者が何かおかしいと気が付きます。これらの神経症は、完治することはなく、段々と症状は悪化していき、最終的には人格を喪失し人間としての生活が営まれなくなる恐ろしい病です。このような認知症がワクチンで予防できるかもしれないことを示唆する成績が今回示されたわけです。人に応用されるには、これからあと数年の継続した研究が必要かもしれませんが、早く臨床試験が行われることを期待したいものです。

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