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513. 登山で脳のタンパクに環境変化. 1-5-2009.
キーワード:登山、脳、MRI、運動
 
サンタマルチア神経画像診断研究所のMargherita Di Paola博士らは、10年以上の登山歴があり、酸素補給なしにエベレスト(8,848m)とK2(8,611m)に登頂した登山家の脳をMRIで検査したところ、脳の運動領域が萎縮していたと発表しました(Eur. J. Neurology 15:1050 ? 1057, 2008)。無酸素登山という過酷な運動にさらされた脳とその構造との関係を調査した珍しい調査研究と思われますので、その概略を紹介します。
 
今回の研究で、男性でプロの高山登山家9例(31〜52才)を対象とした。全例とも年に数回は標高が4,000メートル級の高山に登る熟練者であった。また対照群としては標高3,000メートル以上の登山歴を持たない、年齢と性をマッチさせた19例を用いた。
 
登山歴の内訳は、9例のうち1例はエベレストとK2の2山頂の踏破、2例ではいずれか一方の山頂の踏破であった。残り6例は標高7,500メートル以上まで登り、少なくとも15日間は6,500メートル以上の高所で過ごしていた。登山家に対しては登山の前後(4週間前と下山後8週間)にMRI検査を実施し、対照群のMRI所見と比較した。
 
登山家の登山前のMRI所見を対照群と比較したところ、登山家の脳の運動野(第一次運動野と補足運動野)近位にある左錐体路の白質の密度と質量がともに減少していた。また標高の高い山を登ることにより生じる神経心理学的変化を評価するために、多数の検査を実施した。神経心理学検査で異常値示した被検者もいたが、登山前と下山後の差は認められなかった。
 
今回の研究により、Di Paola博士らは「一回の登山では有意な変化を示さなくても、標高の高い山に繰り返し上ったことで進行性に徐々に脳が影響を受けていた可能性が高い」としている。さらに同博士らは「たとえ熟練登山家自身が神経学的な症状を自覚しなくても、きわめて標高の高い山を酸素の補強なしで登ることで、脳組織に微妙な変化をきたす可能性があることが証明された」と結論している。
 
 
運動神経は、脳から筋肉へ直接命令を伝える経路(延髄の錐体と呼ばれる部分を通るので錐体路と呼ばれる。)の他に、運動が円滑に行えるよう、無意識のうちに筋肉の緊張を調節する経路があります。これは、錐体路以外という意味で錐体外路と呼ばれます。錐体路が障害されると、脳からの命令が筋肉に伝わりにくくなるので、麻痺が生じます。錐体外路が障害されると、麻痺はなくても運動が円滑に行えなくなります。この報告は、標高の高い山を繰り返し上ることかまたは酸素補給なしに登山することが原因となり、運動にかかわる神経の量と質に変化があるというものです。このようなプロの登山家の老後は、普通人と変わらないのか、どのようになっているのかを調査研究してくれることに期待したいものです。

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