520. コンタク洗浄保存液によるフサリウム菌角膜炎. 3-10-2008.
キーワード:フサリウム菌、角膜炎、コンタクトレンズ洗浄保存液、温度管理
2004年〜2006年にかけてコンタクトレンズを使用している人たちに目の感染症、フサリウム菌による角膜炎が流行した。Bausch & Lomb社は、2004年8月に他のコンタクトレンズ用洗浄保存液には使用されていない抗菌薬を含む新洗浄保存液を発売した。その後にフサリウム菌による角膜炎が多発し、その原因としてBausch & Lomb社が製造した新洗浄保存液が疑われた。
2006年3月には同社の製品に関連した初のフサリウム角膜炎症例が米国政府に報告され、154例が確定された。
Bausch & Lomb社の調査員は、これらの症例の全てが同社のサウスカロライナ州グリンービルの工場で製造された洗浄保存液に関連している可能性があることを認めた。米食品医薬品局(FDA)は、2006年に同社工場を視察し、同工場で製造された製品の生産、保管、輸送における不適切な温度管理があったと指摘した。
そこでオハイオ州立大学のJohn D. Bullock教授らは、温度がフサリウム属真菌の増殖におよぼす影響を調べ、あるコンタクトレンズ用洗浄保存液を長時間高温状態にさらすと、その抗真菌活性が著しく低下することを確認し、2004年〜2006年に発生したフサリウム角膜炎の流行に関連していた可能性があると発表した(A new theory to explain the worldwide Fusarium keratitis epidemic of 2004-2006. Arch Ophthalmol. 126: 1493-1498,2009)
Bausch & Lomb社が製造した6種類のコンタクトレンズ洗浄保存液(ReNu with MoistureLoc, ReNu MultiPlus, COMPLETE Moistureplus, AQuify, Clear CareとOPTI-FREE RepleniSH)についてJohn D. Bullock教授らは調査した各溶液を室温と60℃に各2本たて4週間保存した。その後、各サンプルを連続的に階段希釈し、その希釈液の11株のフサリウム真菌(うち7株は流行の角膜炎から分離)に対する増殖抑制力を試験した。
6種類の洗浄保存液でReNu with MoistureLocの抗真菌活性が最も大きく低下した。Clear CareとReNu MultiPlusは良い結果であった。最も抗菌活性が低下したReNu with MoistureLocは、角結膜炎患者から分離したフサリウム株に関して、60℃に保存した場合80%(=66/84テストサンプル)と室温保存の32%(=27/84テストサンプル)でフサリウム菌が増殖し、抑制効果は認められなかった。調査した6種類の洗浄保存液のなかでReNu with MoistureLocは、高温に長期間暴露するとその活性が他の保存液より大幅に低下した。2004年〜2006年のフサリウム角膜炎の発生は、ReNu with MoistureLocの不適切な温度管理が関与していたことが結論されると述べている。
フサリウム属菌
真菌の1群であるが、有性生殖による胞子をつくることが確認されていない。つまり、有性世代がないために分類が困難な約17,000種の菌類を不完全菌類としている。多くの不完全菌類は菌糸状であるが、単細胞のものもあり、これらはおもに酵母として扱われている。クルマエビのフサリウム症菌や植物の病原菌も含まれるフサリウム属などは不完全菌類に分類されている。現在、有効な予防・治療法はない。
洗濯機や食器洗浄機からフサリウムが検出されると聞いた記憶があるが、詳しいことは良く分からない。しかし、俗に云う「カビ」のような真菌であることから、抗生物質などには抵抗性を示すのではないかと思われます。そのようなフサリウム属菌による角膜炎が流行したそうだが、完治したのであろうか。そもそも目に装着するレンズの洗浄保存液は、目に対する副作用を考慮しすぎると強い殺菌剤が使えにくいことになります。そのような溶液の保管や輸送での温度管理が不適切であると、弱い抗菌活性がたちまち低下するものと思われます。
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