524. メキシコにブタ型インフルエンザの死者集中の謎. 5-21-2009.
キーワード:ブタインフルエンザ、新型ウイルス、大流行
新型(ブタ型)インフルエンザは、世界的にみて事前の情報がないうちにメキシコで大流行が発生し、思っていたよりも多くの死者が出たようだ。重症例や死亡例は、当初からメキシコに集中していた。WHOによるとメキシコでは5月13日現在で56人の死亡が確認されている。
どうして突然となんの前ぶれ(情報)もなくメキシコから大流行が起きたのかという疑問が自然と出てくる。結果論としてメキシコでは、3月ごろから原因不明の風邪様疾患が認められていたようです。この原因が4月の20日ごろになって米国のCDCの調査で、ブタのインフルエンザウイルスとヒトのウイルスとトリのウイルスの3者がブタの体内で混合して新型(ブタ型)のウイルスが生まれたのではないだろうかと考えられるようになってきた。
それではなぜメキシコでは多くの死者が出るのであろうかとの疑問に対して、次のような事柄が考えられているようです。
医療環境の問題
メキシコの医療制度は、医療施設への支払いが私費と公費による混合診療制で、この医療環境が悪影響している可能性が否定できないと云う。主に私立病院では、高水準の医療が提供されるが、高齢者や子供が無料で受診できる公立病院では満足な治療を受けられないケースが珍しくないと云う。
例えば、原因不明の風邪様疾患のような上気道感染で私立病院を受診し、3日分の抗菌薬などを処方してもらうと、日本円で1万円ほど請求されると聞く。メキシコシティ−でのメキシコ人の平均月収は、日本円で4万5千円ていどとされ、国民にとって私立病院は気軽に受診できる施設ではない。現地では患者の多くが重症になってから受診しているとの情報もあり、こうした事情が背景にあるのかもしれない。
日本国内の検疫体制
一方、国内の事情はどうであったのであろうか。新型インフルエンザは、事前の情報がないうちにメキシコで大流行が発生し、思っていたよりも多くの死者が出た。そこで一人の患者もでていなうちから、日本人特有な過剰反応と思われる行動がすぐに現れた。その代表が@成田空港に到着した航空機内での全搭乗員検疫であり、A高熱を発した人が見つかるとその人に近い座席にいた人達を保健所に連絡し、保健所では毎日のように連絡を取っていたことなどである。
機内検疫や留置措置も解除され、患者発生がゼロになった訳ではないが、ひとまず安心宣言が発せられた。航空機内での全員検疫体制を誰が考えついたのかは判りませんが、これまでに見たこともない完全武装(?) に使い検疫官によるこんな大がかりな検疫を見たことも聞いたこともない一般人が過剰に反応しても当たりまえかも知れません。
その結果、検疫官が不足したので、専門でない医官なども緊急呼び出しを受け、全く休みなしの連続勤務についていたようだ。さらにある保健所にすると毎日百人を超える人の名簿が突如送られてきて、その人の所在の確認と健康状態の把握に努めさせられた。人で不足からすぐに連絡が取れなかった人の一部は、もう既にどこかに移動した後で所在を確認できないケースも多かったように聞いている。
これらの様子をテレビなどで見ていた多くの人たちは、修学旅行やイベントをいとも簡単に中止してしまった。京都、神戸など近畿地方の観光地に修学旅行を計画していた全国の多くの学校(生徒数は莫大)は、かなりの率で旅行を中止したようだ。とするとこれらの観光地や商店の受けた経済的な被害は計り知れないほどに莫大だと聞いた。結果的には、思い付きのような拙速な指示や行動は慎んだ方がよさそうだとの強い印象を受けた。
世界には宗教上の理由から牛肉は食べないで豚肉を専ら食する集団もいる半面、豚肉を忌み嫌う人達も存在する。今回のブタ型インフルエンザの大流行が報じられると、過剰反応した役人の国家権力により、食肉用豚を殺処分してしまった国や地域もあって、肉屋さんに「豚肉」が消えてしまった。肉屋さんも商売あがったりであるが、そのような国では一般人も食べる豚肉が店頭から消えたので、タンパク質の摂取に困ってしまったようだ。日本国内では「マスク」の売り切れが続出し、ある種のパニックになった地域もあったと聞く。いずれにしても風評被害と云うものは、時として困った問題と思われる。
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