527. 高齢者が新型インフルエンザに罹りにくい理由.6-10-09.
キーワード:新型インフルエンザ、季節性ウイルス、高齢者の抗体保有状況
新型(ブタ型)インフルエンザは、どうして突然となんの前ぶれ(適切な情報)もなくメキシコから大流行が起きたのかという疑問に対して、《ブタとヒトとトリのウイルスの3者がブタの体内で混合して新型(ブタ型)のウイルスが生まれたのではないだろうかと考えられているようです。》
それではなぜメキシコでは多くの死者が出るのであろうかとの疑問に対して、
《メキシコの医療制度は混合診療制で、この医療環境が悪影響している可能性が否定できない。現地では患者の多くが重症になってから受診しているとの情報もあり、こうした事情が背景にあるのかもしれない。》と考えられているようだと「524.メキシコにブタ型インフルエンザの死者集中の謎. 5-21-2009. 」
にて紹介しました。この二つは、考え(推測)であって科学的に証明されたことではありません。
米国疾病管理センターから発行されている世界の感染症に関する週報に「高齢者が罹りにくいことを間接的に証明している」興味ある短報が報告されている。この短報の要点を以下に紹介する(MMWR, 58:521 - 524, 2009)。
CDCは、現行インフルエンザワクチン接種前後の免疫抗体の保有状況を調べる研究に用いたヒトの保存血清を利用して、新型インフルエンザウイルスA (H1N1)に対してどの程度の免疫抗体(中和抗体)を保有しているかを調べた。新型ウイルスは、A/California/04/2009/をMDCK細胞で増殖させたものを使用した。
6カ月齢〜9歳群の79名の小児では、季節性ワクチンウイルスに対しての抗体上昇は認められたが、ワクチン接種前には新型ウイルスに対する抗体活性は認められず、接種後にも抗体上昇は検出されなかった。
一方、18歳〜64歳群(134名)の19%、60歳以上群(63名)の3%が、新型ウイルスに対して抗体が上昇していた。季節性ワクチンウイルスH1N1に対しては、18歳〜64歳群(134名)の74%と60歳以上群(63名)の54%が抗体陽性であった。
新型ウイルスに対する抗体価が160倍以上であった者は、ワクチン接種前で18歳〜64歳群の9%と60歳以上群の33%であり、ワクチン接種後でそれぞれ25%と43%に上昇していた。60歳以上群のワクチン接種前の新型ウイルスに対する抗体価は、ワクチン株ウイルスに対する抗体価より有意に高かった。
ウイルス粒子を構成しているタンパクHA1領域を構成しているアミノ酸の相同性は、A/California/04/2009/と季節性ワクチンウイルスとの間では72%から73%であることから、現行クチン株は新型インフルエンザウイルスに対して効果がないであろう。60歳以上群で新型インフルエンザに対して中和抗体があったが、その説明の一つとしては、この年齢群の一部の人は今回の新型ウイルスに近いウイルスに以前に感染していたのかも知れないと述べている。
高齢者や小児およびガン患者または免疫抑制剤を使用している患者は、一般にウイルスの感染を受けやすい「高リスク群」と云われている。ところが今回の新型ウイルスの病原性はそれほど強くないと云われているが、感染伝播率はきわめて高いようである。それにもかかわらず、高齢者の罹患率や死亡率は、元気一杯の中高校生よりも低いという現象は、これまでにあまり見聞きしないことです。その原因として、「60歳以上の年齢群の一部の人は今回の新型ウイルスに近いウイルスに以前に感染していたのかも知れない」としている。そうかも知れないが、それではどのようなウイルスがこれまでに検出されているのであろうか。謎は依然として謎である。
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