◆プリオン [Prion]

 ヒトの伝達性海綿脳症であるクロイツフェルド・ヤコブ病は、ヒトからヒトにも医療事故などを介して移り、また死亡した患者脳を1億倍に希釈して接種しても接種された動物に海綿状変性を起こす。すべての微生物を殺滅させる滅菌処理を施しても、患者脳の中に存在する伝達性因子を完全に殺すことは出来ない。発症した患者や動物の脳には、水に溶けないタンパクの繊維が見つかり、このタンパク質性繊維をプリオンタンパクと呼び、現在このプリオンタンパクがプリオンタンパクを作り、それが沈着し脳細胞の破壊を起こすと考えられています。このような考えから、伝達性海綿脳症を別名プリオン病と呼ぶようになってきた。
関連 クロイツフェルド・ヤコブ病

 最初、1957年頃、D.C.ガイデュシェック(アメリカ)とV.ジーガス(オーストラリア)によって、パプア・ニューギニアの高地の原住民の間で、クールー(震えるという意味)とよばれる原因不明の脳神経が冒され、死に至る奇妙な病気が発生していることが報告された。その後、I.クラツオ(アメリカ)によって、この奇病の症状が当時知られていたクロイッツフェルト・ヤコブ病(CJD)という脳神経の病気の症状(脳がスポンジ状に変化する)に似ていることが認められた。一方、W.J.ハドロー(アメリカ)によって、イギリスで古くから(1730年)知られていたヒツジのスクレイピー(かゆみが激しいので擦りつけるという意味)とよばれる脳神経性の奇病がパプア・ニューギニアのクールーの症状と非常によく似ていることが報告された。その後、ハロドーが研究したミンクの感染性ミンク脳症(TME)や、最近問題となった狂牛病も同様の症状であることが判った。
これらの病気に共通する点は致死性の脳神経障害であるが、その病原体については、以前から遺伝説やスロー・ウイルス説あるいはウイロイド説もあったが、1960年代になってC.アルパー、D.A.ヘイグ、M.C.クラーク(イギリス)によって詳しく研究された結果、今までに知られている最小のウイルスより千分の1ほど小さく、核酸(DNA,RNA)が含まれないタンパク質であることが1966年に発表された。その後、スクレイピーの病原体と考えられる超微小な繊維(棒)状の実体がP.マーツ(アメリカ)によって電子顕微鏡で発見され(1978)、スクレイピーに関連づけられる微小繊繊(Scrapie-associated fiber: SAF)と名づけられた。そしてその頃、スクレイピーについて別に研究していたS.プルシナー(アメリカ)によって、1982年にこのような核酸を含まずタンパク質のみの感染性粒子をプリオンとよぶことが提唱された。
プリオンは100℃で30分間の加熱や、2ケ月間冷凍保存で生存し、ホルマリン、フェノール、クロロホルムにも耐性で、ヤギやヒツジ、マウスなどの実験動物へ感染させることができるという。また、クールーやアルツハイマー病でもみられるアミロイド様(デンプンのような粒状体)の斑点ができるタンパク質性の繊維に類似しているとされているが、病原体としてのプリオン説はまだ承認されてはいない。

関連 ウイルス
関連 ウイロイド