◆病原性大腸菌 [Pathogenic Escherichia coli]

 大腸菌は腸内細菌科に属し、酸素があっても無くても増殖出来る通性嫌気性のグラム陰性桿菌である。鞭毛を持つので運動性がある。大きさは2.0〜6.0 × 1.1〜1.5μmである。乳糖を分解するが腸菌内細科の大部分の細菌は乳糖を分解しないので、容易に区別できる。
糞便1グラム当たり約1×1012(1兆)個の細菌がおり、固形成分の約3分の2が細菌である。糞便1グラムの中にある、1兆個の細菌の99.9%は酸素があると増殖できない偏性嫌気性菌のバクテロイデス(Bacteroides)属やプレボテラ(Prevotella)属の細菌が大部分で、残りの0.1%の約1×109(10億)個が通性嫌気性の細菌になるが、その大部分が大腸菌である。
大腸菌は菌体抗原(O抗原)と鞭毛抗原(H抗原)、莢膜抗原(K抗原)により血清型別されるが、その多くはヒトや動物には病気を起こさないで、正常細菌叢の一部としてそれぞれの場所に住み着いている。
病原性のある大腸菌は
@ 腸管病原性大腸菌(EPEC)
A 腸管組織侵入性大腸菌 (EIEC)
B 腸管毒素原性大腸菌(ETEC)
C 腸管出血性大腸菌(EHEC)
D 腸管付着性大腸菌(EAEC)の5つに分類される。この中で、腸管出血性大腸菌O157:H7は志賀毒素を産生し、1996年に大阪府堺市でおきた学校給食による大量食中毒で有名になったが、ほかの大腸菌も様々な毒素を産生する。
大腸菌によって起こる病気は、食中毒以外に、尿路感染症や旅行者の下痢、腹部感染症や敗血症、髄膜炎などが知られているが、近年薬剤耐性大腸菌による呼吸器系の感染症も増加している。 グラム陰性菌なので、細胞壁にリポ多糖体(LPS)を持ち、化学療法剤で治療をすると死滅し、時には内毒素ショックを起こす事もある。
飲料水として適切かどうかを判定する条件に、「大腸菌群は検出されてはならない」という項目がある。これは、大腸菌群が検出された水は、何処かで糞便が接触している可能性があり、赤痢などの水系感染の危険が高い為である。
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