◆シガテラ毒原因微細藻
   [Ciguatera poisoning micro-algae]

 シガテラ(ciguatera)は熱帯・亜熱帯域の主としてサンゴ礁の周辺に生息する魚に含まれるシガテラ毒として知られているシガトキシン(ciguatoxin)と、それに関連するマイトトキシン(maitotoxin)によっておこる食中毒である。その語源はカリブ海に生息するシグアとよばれる巻貝に由来する。両毒ともにポリエーテル化合物で、その構造決定は困難を極め、ごく最近その複雑な全構造が安元ら(日本)によって明らかにされた。
この食中毒は南方諸島の住民にとって古くから食糧上、保険衛生上あるいは経済上、深刻な問題をもたらしてきた。国連の南太平洋委員会による統計では、現在でも年間2万人以上の患者発生が推定されており、自然毒による食中毒としては最大の規模である。多種類のサンゴ礁の魚が中毒の原因になることも考えられ、有毒個体の識別法もないので、漁業資源の開発にとって大きな障害になっている。
シガテラ毒による中毒症状は下痢、嘔吐、運動失調、腹痛、脱力感、倦怠感などさまざまであるが、手足や口の周辺の感覚が異常になることも特徴である。これは冷たい水を飲んだり、金属に触れたりすると電気ショックのような刺激を感じることで、俗に“ドライアイス・センセーション”とよばれている。症状は中毒経験者のほうが最初の経験者より重く、軽症で数日、重症の場合は数カ月も症状が続くが死亡率は非常に低い。
シガテラ毒をもつ魚は多いが、海藻やサンゴ礁状の付着物を食べる魚と、これら藻食魚を餌にする大型の肉食魚に限られる。一般に藻食魚より肉食魚のほうが、また、小型魚より大型魚のほうが毒性が高い。組織内の毒性は内臓、とくに肝臓に毒性が高い。これらの事実や毒性の著しい個体差、地域差などから、毒成分は食物連鎖を介して蓄積されると考えられていた。その後、原因生物の一つは付着性の渦鞭毛藻のガンビエルディスカス・トキシカス(Gambierdiscus toxicus)であることが明かにされた。この渦鞭毛藻は熱帯域に広く分布していて、日本では沖縄地方で採取されている。また、浮遊生活をせずサンゴ礁に生育している石灰藻など、ある種の海藻の表面や死んだサンゴの破片上に着生する。藻細胞は円盤状で上下に強く圧縮されており、上からみると円形または楕円形をしている。細胞の長さは24-60μm、幅は42-140μmである。培養はできるが、培養細胞ではシガトキシンではなく類縁のマイトトキシンを産生する。この毒成分は海洋生物毒の中で最も毒性が強いが、その産生メカニズムはまだ謎が多い。

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