◆ボツリヌス毒素 [Botulinum toxin]

 食中毒の原因菌としてよく知られているボツリヌス菌は非常に強毒性の神経毒素であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス毒素はタンパク質性で、細菌毒素としては最初に結晶化された毒素である。この毒素の作用は同じであるが抗原的に違うA,B,C,D,E,F,Gの7種の毒素が知られている。その内、A型菌の毒素はこれまで知られている全ての生物毒の中で最も毒性が強く、ヒトに対する致死量は1μg(1gの100万分の1)といわれている。この毒素は加熱に比較的弱い(100℃で1分、85℃で10分)が、酸性では抵抗性がある。この毒素は最初菌体内でつくられるが、細菌の自己融解で外部へ放出される。ボツリヌス食中毒はブドウ球菌食中毒の場合と同じように、ボツリヌス菌が食品内で増殖して毒素をだし、その毒素を含む食品を摂取した場合に発症する。
また、この毒素(C,D型菌以外)は毒性部分(軽鎖)と無毒性部分(重鎖)から成り、その複合体の形で産生され、細菌自体の酵素やトリプシンのようなタンパク質分解酵素で分解されてから毒性がでる。したがって、この細菌による食中毒の場合(E型菌)は、毒素が消化管内でトリプシンで分解、活性化されて毒性がでて発症すると考えられている。ボツリヌス毒素は神経-筋接合部や自律神経のシナプスへ作用して、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害するので、弛緩性の麻痺(まひ)をおこす。なお、この毒素は細菌ウイルス(ファージ)の遺伝子によって産生されると考えられている。

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