◆化学療法剤 [Chemotherapeutics ]

 1904年、P.エールリッヒ(ドイツ)と志賀潔(日本)によって、トリパンレッドがトリパノゾーマに作用することが認められ、次いで、P.エールリッヒと秦佐八郎(日本)によって、サルバルサン(606号)が梅毒スピロヘータに有効であることが発見されて以来、病原体に有効な多くの化学物質が研究されてきた。とくに、G.J.P.ドマーク(ドイツ)によるアゾ色素の1種である赤色プロントジルの抗菌作用の発見、次いで、A.フレミング(イギリス)による抗生物質ペニシリンの発見が端著となって、前者ではサルファ剤(スルフォンアミド剤)をはじめ多くの合成化学療法剤、後者ではストレプトマイシンをはじめ多くの抗生物質が研究・開発されて、感染症治療の主流になっている。
病原微生物(細菌、真菌、原虫、ウイルス)あるいは悪性腫瘍(癌、ガン)細胞の発育や増殖を抑制(阻止)したり、殺滅する作用をもつ化学物質を化学療法剤とよび、化学療法剤によってヒトや動物の感染症や癌(がん)を治療する手段を化学療法(chemotherapy)という。化学療法剤には抗生物質や植物成分のような天然化学物質とサルファ剤やフラン剤のような合成化学物質がある。細菌や真菌などに有効な化学物質をまとめて抗菌性物質(antimicrobial agents)とよび、癌細胞の増殖を抑制する化学物質を抗癌(腫瘍)性物質または制癌剤(antitumor substances)という。これらの薬剤は多くの有用点を備えているが、過剰使用による薬剤耐性菌の出現や、ときにはその副作用が問題になっている。
化学療法剤は微生物や動植物細胞の特定の代謝を阻害して、その発育・増殖を抑制する作用があるので、このような作用を静菌作用といい、微生物を直接殺滅する殺菌剤あるいは消毒剤と区別されている。また、標的とする微生物や動植物細胞の特定物質やその代謝のみを阻害して、宿主細胞のそれらを阻害しないことを選択毒性といい、選択毒性がある化学療法剤が優れた薬剤である。

関連 トリパノゾーマ
関連 梅毒スピロヘータ
関連 抗生物質
関連 ペニシリン
関連 サルファ剤
関連 ストレプトマイシン
関連 細菌
関連 真菌
関連 原虫
関連 ウイルス
関連 悪性腫瘍
関連 殺菌剤
関連 消毒剤
関連 選択毒性
関連 薬剤耐性菌
関連 フラン剤