◆核酸 [Nucleic acid(s)]

 タンパク質、脂質、多糖とともに生体を構成している成分であるが、とくに動植物をはじめ、真菌、細菌やウイルスなど全ての生物の細胞の核あるいはプラスミド(ウイルスではコア)に含まれ遺伝子とその情報伝達、アミノ酸の運搬あるいはリボソームの成分として重要な役割をもっている高分子物質である。最初、1868年、F.ミーシャー(スイス)によって膿の細胞核から単離されて、ヌクレイン(現在のデオキシリボ核酸:DNA)と名づけられ、同じ物質が腎臓、肝臓、赤血球、酵母などにも含まれていることが明らかにされた。その後長い間、核酸の機能は不明のままであったが、O.T.エイブリら(カナダ)によって遺伝子の本体がデオキシリボ核酸であることが発見されて以来、核酸は生物にとって最も基本的な遺伝物質として注目されるようになった。DNAの分子構造は1952年にJ.D.ワトソン(アメリカ)とF.H.C.クリック(イギリス)によって解明された。さらにクリックによるDNAの遺伝情報に基づいたタンパク質が生合成される過程を説明するいわゆる"セントラル・ドグマ説"(DNA→RNA→タンパク質)を基本として、多くの優れた研究者によって遺伝情報としての核酸の役割が次々に明らかにされ、タンパク質の研究と相まって、従来の生物学から分子生物学へと著しく発展した。(RNAウイルスの場合はRNAの遺伝情報がDNAへ転写される。)
 核酸はプリン塩基、ピリミジン塩基、デオキシリボースまたはリボースおよびリン酸から成り、塩基と糖の種類によってデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid: DNA)とリボ核酸(ribonucleic acid: RNA)の2種類がある。すなわちDNAはアデニン、グアニン、シトシン、チミンの4塩基、デオキシリボースおよびリン酸から成る。これに対してRNAは4塩基のうちチミンがウラシルに置き代わり、リボースおよびリン酸から成っている。
 一般にDNAはデオキシリボースの3'位と5'位がリン酸と結合して主鎖になっている。その鎖のデオキシリボースの1'位にそれぞれの塩基が結合して、対応する2種の塩基(アデニンとチミン、グアニンとシトシン)が水素結合した二重らせん構造(double strand,double helix)をとっている。部分的には塩基-糖が結合した場合はヌクレオシドといい、塩基-糖-リン酸が結合した場合をヌクレオチドという。したがって、核酸はこれらのヌクレオチドが多数結合(リン酸ジエステル結合)したポリヌクレオチドである。
 一般にDNAは遺伝情報を担っている染色体を構成し、真核生物では細胞内の核膜に包まれ、ヒストンという塩基性タンパク質と結合した核タンパク質として存在する(ただし、精子の核にはプロタミンが存在する)。
 細菌のような原核生物の核領域には環状の2本鎖DNAのみが存在する。また、細菌の細胞質内には核染色体とは別に、自律的に機能するプラスミド(plasmid) とよばれる小環状のDNAが存在している。プラスミドは細菌の性決定因子、薬剤耐性因子、そのほか特異的な毒素や酵素を産生する遺伝情報を担っている。一方、RNAは通常は1本鎖で細胞質内に存在し、DNAの遺伝情報を伝達するメッセンジャーRNA(m-RNA)、アミノ酸をリボゾームへ運ぶトランスファーRNA(t-RNA)、リボゾーム自体を構成しているリボゾームRNA(r-RNA)の3種がある。なお、ウイルスではその粒子の芯(コア)または頭部にDNAかRNAのいずれかが存在するが、単鎖DNA(ファージφ×174)や2本鎖RNA(レオウイルス)もある。

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