◆魚類のノカルジア症菌 [Nocardia seriolae (Nocardia kampachi)]

 魚類のノカルジア症は日本では養殖ブリやカンパチにしばしば発生し、とくに治療が困難な魚病として重要である。最初、アルゼンチンでネオンテトラに発生し、その後、北アメリカやヨーロッパでニジマスにも発生した。日本では1967年に三重県で養殖ブリに初めて発生して以来、四国や九州をはじめ各地の養殖ブリに被害をもたらしている。魚の年齢に関係なく発生し、水温が上昇する7月から2月まで続くが、9月から10月にかけて最も多く発生する。
症状は魚の躯幹部の皮下組織や筋肉に多数の膿瘍や結節ができるタイプと、鰓(えら)に多数の結節ができるタイプに大きく分けられる。躯幹タイプでは躯幹部や尾部の表皮や皮下に大きな病巣が特徴的に現れ、内臓にも結節がみられる。治療法としては原因菌自体がクロラムフェニコールなどの抗生物質に阻害されるので有効ではあるが、魚の体内では効果がでにくい。予防法も実験的にはワクチンが有効とされているが実用化されていない。
原因菌として最初にネオンテトラからノカルジア・アステロイデス(N.asteroides)が分離され、その後、ニジマスからも同一菌が分離された。この細菌はヒトや動物にノカルジア症をおこす。日本では養殖ブリのノカルジア症の原因菌として当初、ノカルジア・カンパチ(Noc.kampachi)と命名されたが、その後、ブリ由来の病原菌が新たにノカルジア・セリオラエ(Noc.seriolae)と命名され、国際的な細菌鑑別・分類書(1994年)に記載されている。
ノカルジア症菌は偏性病原菌に類似し、グラム陽性、弱抗酸性の運動しない分枝した糸状である。放線菌と似た気菌糸をもち、発育は25-28℃,pH6.5-7.0,塩分0-1.0%が最適で、淡黄色ないし橙黄色の疣(いぼ)状の集落をつくる。また、長期間にわたって培養すると細胞は長短の桿状や球状に変わる。なお、ノカルジア・セリオラエとノカルジア・カンパチとの違いについては明かにされていない。

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