◆魚類のリンホシスチス病ウイルス [Lymphocystis disease virus of fish]

 リンホシスチス病は魚類のウイルス病としては最も古くから知られていたもので、多くの海水魚と淡水魚の皮膚に水泡状の病巣が多数できる病気である。魚がこの病気にかかっても死亡することはないが、外観が醜いので商品価値は全くない。サケ科魚類にはみられず、日本ではブリ、マダイ、スズキ、ヒラメに発生した例がある。
症状の特徴は魚の頭部、躯幹、尾部、鰭(ひれ)の表面や眼球面などに水泡様の盛り上がった病巣部ができる。水泡様の病巣は皮膚の結合組織の細胞がウイルスの感染で巨大化したもので、この細胞はリンホシスチス細胞(直径100-500μm)とよばれているので、病名をリンホシスチス病という。この細胞は光を乱反射するので、水から取り揚げると銀白色にみえる。ブリでは点状にできたリンホシスチス細胞の周りに黒い細胞が発達するので"黒点病"とよばれることもある。このような病巣は筋肉、肝臓、卵巣、腸などにもできる。この病気が一部の魚に発生したとき、そのまま自然に治ることもしばしばあるが、これは免疫反応によると考えられている。このウイルスは皮膚から感染するとされ、寄生虫が媒介している可能性もあるという。
リンホシスチス病ウイルスは2本鎖DNAをもつイリドウイルス科に属している。その形は正二十面体で、大きさは130-260nmで宿主の細胞によって大小の違いがある。また、宿主細胞内に寄生する正二十面体のDNAウイルス群(ICD ウイルス)に分類されることもある。リンホシスチス病ウイルスはブルーギルのみから分離されたが、平均250nmの大きさで、ウイルス粒子の頂点にフィラメント(繊維: 4×200-300nm)がついていることが特徴である。25℃付近で最もよく増殖する。感染させた魚の細胞は正常細胞の数百倍に巨大化し、細胞質内に大型のDNA封入体が現れる。エーテルやグリセリンで失活するが、-20℃での凍結で長期間生存する。まだ治療・予防法は検討されていないが、自然治癒するので問題はない。

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